書いてあること
- 主な読者:社員の副業解禁に当たり「副業取扱規程」のひな型が欲しい経営者
- 課題:具体的に何を定めればよいかが分からない
- 解決策:副業を許可する基準、労働時間の取り扱いについて明確に定める
1 副業を前向きに検討するからこそルールが必要
働き方改革の影響もあり、社員の副業を検討する会社が増えています。とはいえ、無制限に認めると、健康や情報漏洩の問題があります。そのため、「許可制」にして詳細を就業規則(副業取扱規程など)で定めるのが通常です。具体的には、副業を禁止・制限するケースとして、
- 長時間労働や深夜労働などによって労務提供に支障がある場合
- 同業他社など、自社の利益を害する恐れがある業種・業務の場合
- 副業に関する業務上の指示に従わない場合
などを定め、副業を希望する社員に対しては「副業許可申請書」などの提出を義務付けます。
また、労働時間の取り扱いについても注意が必要です。厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(以下「ガイドライン」)では、副業時の労働時間管理について、
自社と副業先がそれぞれ時間外労働の上限を設定し、社員がその範囲内で働く場合、互いの実労働時間を把握しなくてもよい
とされています。いわゆる「管理モデル」を使った労働時間管理ですが、これを実行するには、副業開始前に、自社の時間外労働の上限などを社員に通知しておく必要があります。こちらについては、「副業時における労働時間の取り扱いに関する通知書」などの書面を作成するとよいでしょう。
次章では専門家が監修した、副業取扱規程のひな型を紹介します。前述した「副業許可申請書」「副業時における労働時間の取り扱いに関する通知書」のひな型も掲載していますので、併せてご確認ください。
なお、厚生労働省のガイドラインについては、次のURLから確認できます。
■厚生労働省「副業・兼業」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000192188.html
2 副業取扱規程のひな型
以降で紹介するひな型は、一般的な事項をまとめたものであり、個々の企業によって定めるべき内容が異なってきます。実際にこうした規程を作成する際は、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。
【副業取扱規程のひな型】
第1条(目的)
本規程は、従業員が就業時間外において、他の会社その他の団体(以下「副業先」)の業務に従事する場合に必要な事項について定める。なお、本規程に定めのない事項は、労働基準法その他の関係法令によるものとする。
第2条(対象範囲)
本規程の適用を受ける従業員は、就業規則第◯条に定める、会社と期間の定めがない労働契約を交わした従業員とする。ただし、入社3年未満の従業員は対象外とする。
第3条(副業の定義)
本規程において「副業」とは、次の各号に掲げる場合をいう。
- 副業先に雇用される場合
- 副業先の役員に就任する場合
- 請負契約などに基づき、副業先の業務に従事する場合
- 自ら事業を営む場合
第4条(副業の許可)
1)従業員は、第3条各号に掲げる副業を行おうとするときは、その開始を希望する日の2週間前までに、次の内容について記載した「副業許可申請書」を会社に提出し、副業の許可を受けなければならない。
- 副業先の名称、業種、所在地、電話番号、責任者(担当者)
- 業務内容、雇用形態、期間、所定の就業日数、所定の就業時間
- 副業の申請理由
- その他報告事項
2)副業に従事できる期間は、1年間とする。1年を超えて副業を希望する場合は、許可の失効する日の2週間前までに、再度「副業許可申請書」を会社に提出しなければならない。
3)従業員は、第1項各号のいずれかの内容について変更があった場合は、速やかに「副業許可申請書」を会社に提出しなければならない。
第5条(副業の禁止または制限)
1)会社は、第4条の許可を受けようとする従業員が、次の各号のいずれかに該当する場合、当該従業員の副業を禁止または制限することができる。
- 長時間労働や深夜労働などによって健康を害する恐れがある場合
- 現状、健康を害している疑いがある場合
- 会社の繁忙期など、業務に支障を来す恐れがある場合
- 企業秘密が漏洩する恐れがある場合
- 過去に、副業によって業務に支障を来したことがある場合
- 同業他社など、会社の利益を害する恐れがある業種・業務の場合
- 風俗業など、会社の社会的信用を損なう恐れがある業種・業務の場合
- 本規程および副業に関する業務上の指示に従わない場合
- その他、会社が必要と認めた場合
2)会社は、第4条の許可を受けた従業員が、副業の開始後に前項各号のいずれかに該当するようになった場合、当該従業員の副業を禁止または制限することができる。
第6条(副業時における労働時間の取り扱い)
1)会社は、第4条の許可を受けた従業員に対し、次の事項について記載した「副業時における労働時間の取り扱いに関する通知書」を交付しなければならない。
- 会社における1カ月当たりの時間外・休日労働の上限に関する事項
- 労働基準法第38条第1項の規定に基づき、当該従業員について副業先が遵守すべき事項
- 会社における割増賃金の支払いに関する事項
- 第1号の上限に変更がある場合の通知に関する事項
- 第1号から第4号までの内容の有効期限に関する事項
2)従業員は、「副業時における労働時間の取り扱いに関する通知書」の交付を受けた場合、前項各号の内容について遵守するとともに、その内容を副業先に伝達しなければならない。
3)従業員が第4条第2項、第3項により再度「副業許可申請書」を会社に提出する場合、会社はその都度「副業時における労働時間の取り扱いに関する通知書」を交付しなければならない。
第7条(副業に関する事故などについての報告)
1)従業員は、会社と副業先との間の移動中および副業先での業務中に事故などが発生した場合、その事故などに起因する負傷・疾病の程度、治療や休業が必要な場合はその内容について、速やかに会社に報告しなければならない。
2)副業に関する事故などが労働災害である場合、当該事故などに関する労災保険の適用については、労働者災害補償保険法その他の関係法令によるものとする。
第8条(服務規定)
従業員は、副業を行う場合において、次の内容を遵守しなければならない。
- 常に健康を維持できるよう、体の自己管理に気を配ること
- 業務上知り得た情報について、外部に漏洩しないこと
- 会社の資材を副業に使用しないこと
- 会社から副業について必要な情報の提出を求められた場合は、速やかにこれに応じること
- その他本規程および副業に関する業務上の指示を遵守すること
第9条(懲戒処分)
次に違反した従業員は、就業規則第◯条に定める懲戒処分に処する。
- 第4条の許可を受けることなく、副業を行った場合
- 第4条の許可を受けるに当たり、副業の内容を故意に偽った場合
- 第5条第1項各号のいずれかに該当し、会社に損害を与えた場合
- 第6条の報告を行うに当たり、副業の内容を故意に偽った場合
- 第8条各号のいずれかに違反し、会社に損害を与えた場合
- その他故意または重大な過失により、会社に損害を与えた場合
第10条(改廃)
本規程の改廃は、取締役会の承認による。
■副業許可申請書■
■副業時における労働時間の取り扱いに関する通知書■
以上(2022年3月)
(監修 弁護士 田島直明)
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