1 人材確保やスキルアップに使える「建設業だけの助成金」

建設業では、労働力人口の減少に加え、長年にわたって業界を支えてきた熟練技術者の高齢化と引退が急速に進んでいます。そんな状況にあって企業が持続的に成長し、競争力を維持するには、新たな人材の確保と、既存社員のスキルアップが必須です。

国や地方自治体は、企業の人材投資を後押しするために、様々な助成金を実施していますが、

人材確保やスキルアップに使える「建設業だけの助成金」

があるのをご存じでしょうか? 以降で、建設業を営む中小企業向けの助成金を取り上げ、主な要件や支給額などを紹介します。

なお、助成金の内容は、2025年8月17日時点のもので、将来変更される可能性があります。申請書の書き方や添付書類などについては、次のURLをご参照ください。

■厚生労働省「建設事業主等に対する助成金」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kensetsu-kouwan/kensetsu-kaizen.html

2 人材開発支援助成金(建設労働者認定訓練コース)

1)助成金の概要は?

建設関連の認定訓練を実施した場合に支給される助成金です。建設業界における技能水準の向上と、それを支える訓練体制の強化を目的としています。

2)助成金を受け取るには?

この助成金を受け取るためには、次の要件などを満たす必要があります。

  • 雇用管理責任者の選任:建設業の人事労務管理を担当する者を選任する必要があります。
  • 訓練の実施:都道府県から支援(認定訓練助成事業費補助金または広域団体認定訓練助成金の交付)を受けて、認定訓練を実施する必要があります。
  • 賃金要件の達成(賃金助成または賃金向上助成を受ける場合): 支給対象事業終了日の翌日から1年以内に、雇用する全ての建設労働者の毎月決まって支払われる賃金を5%以上増加させる必要があります。また、賃金助成を受けるには、人材開発支援助成金(人材育成支援コース)の支給決定を受ける必要があります。
  • 資格等手当要件の達成(資格等手当助成を受ける場合):訓練修了日の翌日から1年以内に、全ての算定対象となる建設労働者に対して資格等手当を就業規則等で規定し、実際に支払い、賃金を3%以上増加させる必要があります。

3)受け取れる金額はいくら?

この助成金では、訓練の実施した場合に助成が受けられ、さらに賃金要件や資格等手当要件を達成した場合、支給額が増額されます。

  • 経費助成:認定訓練を実施した場合、対象経費の1/6が助成されます。
  • 賃金助成:人材開発支援助成金(人材育成支援コース)の支給決定を受け、2)の賃金要件を達成した場合、金額がプラスされます。
  • 賃金向上助成・資格等手当助成:賃金助成の対象となった上で、2)の賃金要件または資格等手当要件を満たした場合、金額がさらにプラスされます。

人材開発支援助成金(建設労働者認定訓練コース)

3 人材開発支援助成金(建設労働者技能実習コース)

1)助成金の概要は?

中小企業が、若年者の育成や熟練技能の維持・向上を目的とし、キャリア段階に応じた技能実習を実施した場合に支給される助成金です。建設業界における技能の継承と向上を包括的に支援することを目的としています。

2)助成金を受け取るには?

この助成金を受け取るためには、次の要件などを満たす必要があります。

  • 雇用管理責任者の選任:建設業の人事労務管理を担当する者を選任する必要があります。
  • 技能実習の実施:キャリアに応じた技能実習を実施することが必須です。「1日1時間以上であること」「期間を6カ月以内とすること」などの要件を満たす必要があります。
  • 賃金要件の達成(賃金助成・賃金向上助成を受ける場合):支給対象事業終了日の翌日から1年以内に、雇用する全ての建設労働者の毎月決まって支払われる賃金を5%以上増加させ、算定対象となる建設労働者に支払う必要があります。
  • 資格等手当要件の達成(資格等手当助成を受ける場合): 訓練修了日の翌日から1年以内に、全ての算定対象となる建設労働者に対して資格等手当を就業規則等で規定し、実際に支払い、賃金を3%以上増加させる必要があります。
  • 離職者の発生状況:事業主都合による離職者を一定期間中に発生させていないことが要件となります。

3)受け取れる金額はいくら?

この助成金では、事業主の規模(雇用保険被保険者数)などに応じた助成が受けられます。さらに賃金要件や資格等手当要件を達成した場合、支給額が増額されます。

  • 経費助成:技能実習を実施した場合、1人当たり最大10万円の助成が受けられます。
  • 賃金助成:2)の賃金要件を達成した場合、金額がプラスされます。
  • 賃金向上助成・資格等手当助成:経費助成または賃金助成の対象となった上で、2)の賃金要件または資格等手当要件を満たした場合、助成率または金額がプラスされます。

人材開発支援助成金(建設労働者技能実習コース)

4 トライアル雇用助成金(若年・女性建設労働者トライアルコース)

1)助成金の概要は?

若年者(35歳未満)または女性を試行的に雇用する際に、通常のトライアル雇用助成金(一般トライアルコース、障害者トライアルコース)に加えて支給される助成金です。一般的なトライアル雇用助成金とは別に、建設業界における若年者・女性の労働者を対象として試行雇用する場合、追加の助成を受けられます。

2)助成金を受け取るには?

この助成金を受け取るためには、次の要件などを満たす必要があります。

  • 雇用管理責任者の選任:建設業の人事労務管理を担当する者を選任する必要があります。
  • 労働者の新規雇用:建設現場作業に従事する若年者(35歳未満)または女性をトライアル雇用として新規に雇用することが必須です。
  • トライアル雇用助成金の要件充足:トライアル雇用助成金のうち、一般トライアルコースまたは障害者トライアルコースの支給決定を受ける必要があります。

3)受け取れる金額はいくら?

この助成金では、トライアル雇用した対象労働者1人につき、月額最大4万円が通常のトライアル雇用助成金に加えて3カ月間支給されます。最大額(月額4万円)を受け取るには、実際の就労日数が、予定された就労日数の75%以上である必要があります。

トライアル雇用助成金(若年・女性建設労働者トライアルコース)

5 人材確保等支援助成金(若年者及び女性に魅力ある職場づくり事業コース(建設分野))

1)助成金の概要は?

若年者や女性の入職・定着を促すための職場環境改善事業(例:現場見学会、入職者向け研修、労災予防の取り組み、表彰制度)を実施した場合に受け取れる助成金です。この助成金は、単に若年者や女性を「採用する」だけでなく、建設業界で長く働き続けられるような「魅力的な職場環境を創る」ことを目指しています。

2)助成金を受け取るには?

この助成金を受け取るためには、次の要件などを満たす必要があります。

  • 雇用管理責任者の選任:建設業の人事労務管理を担当する者を選任する必要があります。
  • 事業計画の策定と実施: 若年者や女性の入職・定着を図るための具体的な事業(例:入職者向け研修、労災予防の取り組み、表彰制度)の計画を策定し、その計画に基づいた事業を実施することが求められます。
  • 賃金要件の達成(賃金向上助成を受ける場合): 支給対象事業終了日の翌日から1年以内に、雇用する全ての建設労働者の毎月決まって支払われる賃金を5%以上増加させ、算定対象となる建設労働者に実際に支払う必要があります。
  • 離職者の発生状況:一定期間中に事業主都合による離職者を発生させていないことが要件となります。

3)受け取れる金額はいくら?

この助成金では、企業規模と賃金要件の達成状況に応じて、対象経費に対する助成率が異なります。

  • 経費助成:中小企業は対象経費の3/5、中小企業以外は9/20が助成されます。
  • 賃金向上助成:2)の賃金要件を満たした場合、さらに3/20が上乗せされます。

人材確保等支援助成金(若年者及び女性に魅力ある職場づくり事業コース(建設分野))

6 人材確保等支援助成金(作業員宿舎等設置助成コース(建設分野))

1)助成金の概要は?

女性専用の作業員施設や、特定の地域(石川県)での作業員宿舎・施設・賃貸住宅の設置を支援する助成金です。女性の定着を妨げる要因の一つである女性専用施設を充足させること、特定の地域における労働者の住環境を整備することが目的です。

2)助成金を受け取るには?

この助成金を受け取るためには、次の要件などを満たす必要があります。

  • 雇用管理責任者の選任:建設業の人事労務管理を担当する者を選任する必要があります。
  • 助成対象施設の設置:女性専用の作業員施設を賃借により設置、または石川県内で作業員宿舎、賃貸住宅、作業員施設を賃借により設置する必要があります。
  • 賃金要件の達成(賃金向上助成を受ける場合):女性専用施設を設置する場合において、別途定められた賃金要件を満たす必要があります。

3)受け取れる金額はいくら?

この助成金では、設置する施設の種類と所在地によって、支給額または助成率が異なります。

  • 女性専用の作業員施設:対象経費の3/5が助成されます。
  • 作業員宿舎(石川県内):建設作業員1人当たり25万円が支給されます。
  • 賃貸住宅、作業員施設(石川県内):対象経費の2/3が助成されます。

さらに、女性専用施設を設置する場合において、賃金要件を満たせば、上記の助成率に加えて3/20が上乗せされます。

人材確保等支援助成金(作業員宿舎等設置助成コース(建設分野))

7 人材確保等支援助成金(建設キャリアアップシステム等活用促進コース(雇用管理改善促進事業))

1)助成金の概要は?

建設キャリアアップシステム(CCUS)を活用して雇用管理を改善する事業主に対し、技能労働者数に応じて支給される助成金です。CCUSは、技能労働者の就業履歴や保有資格などを業界横断的に登録・蓄積する仕組みで、これにより技能の評価や処遇改善、適正な賃金水準の確保につながることが期待されています。

2)助成金を受け取るには?

この助成金を受け取るためには、以下の基本要件を満たす必要があります。

  • 雇用管理責任者の選任:建設業の人事労務管理を担当する者を選任する必要があります。
  • CCUSの活用と雇用管理改善: 建設キャリアアップシステム(CCUS)を実際に活用し、それを通じて雇用管理の改善促進事業を行うことが必須です。事業を行うに当たっては、「雇用する全ての技能者の技能者登録が完了している」「レベル判定で昇格評定を受けた技能者の賃金を5%以上増加させている」必要があります。

 また、この助成金は、次のいずれにも該当する建設技能者に支給されます。

  • 賃金の増額改定前の過去1年間において、雇用保険の一般被保険者(短期雇用特例被保険者・日雇労働被保険者を除く)であること
  • 本事業の開始から過去6カ月間に離職していないこと(自己都合退職、本人の責めに帰すべき理由による解雇などを除く)

3)受け取れる金額はいくら?

対象となる建設技能者1人当たり16万円が支給されます。上限は160万円です。

人材確保等支援助成金(建設キャリアアップシステム等活用促進コース(雇用管理改善促進事業))

以上(2025年8月作成)

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