書いてあること
- 主な読者:中小企業が採用活動の際に活用できる助成金について知りたい経営者
- 課題:具体的にどのようなものがあるか分からない
- 解決策:主なものとして「早期再就職支援等助成金」「特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース・就職氷河期世代安定雇用実現コース)」「トライアル雇用助成金」を押さえる
1 採用活動を強力にサポートする助成金を使いこなす!
2023年の中途採用費用(年間平均)は、前年比55.8万円増の629.7万円となっています(マイナビ「中途採用状況調査2024年版(2023年実績)」)。コロナ禍の収束とともに採用活動に再び本腰を入れ始めた会社が多かったようです。一方、中小企業などでは
「採用活動にそこまでお金をかけられない」と、積極的に取り組めずにいる会社
が少なくありません。そもそも採用活動に割けるリソースが限られる上に、入社した社員がすぐに辞めてしまうことも多い昨今、慎重にならざるを得ないのは無理からぬことです。
しかし、諦めないでください。
採用活動をサポートするための助成金を上手に活用し、採用コストに充当すること
でこの問題を打開できる可能性があります。国や自治体が実施する助成金の中には、一定の条件に該当する社員を雇い入れたり、訓練したりすることで受給できるものがあります。
この記事では、
採用活動に関する中小企業向けの助成金を4つ紹介
します。支給額や要件などの情報に加え、専門家のワンポイントアドバイスも載せています。なお、助成金の内容は、2024年11月8日時点のもので将来変更される可能性があります。また、申請書の書き方や添付書類等については、各章で紹介しているURLをご参照ください。
2 早期再就職支援等助成金
1)早期再就職支援等助成金とは?
主に会社都合などでやむを得ず離職した社員を、離職後3カ月以内に社員として採用し、OFF-JT(職場から離れて行う研修)やOJT(職場で行う研修)を行った場合、雇入れ・人材育成にかかった費用の一部を受け取れるというものです。
■厚生労働省「早期再就職支援等助成金」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000082805.html
2)助成金を受け取るには?
次の要件などを満たす必要があります(詳細は厚生労働省ウェブサイトをご参照ください)。
- 会社:支給対象者を、離職日の翌日から3カ月以内に、雇用保険被保険者となる無期雇用社員(週の所定労働時間が20時間以上)として雇い入れ、6カ月を超えて雇用すること。雇入れ時に社員の所定内賃金を離職前よりも5%以上アップさせること。「雇入れ日の前後6カ月間に、解雇や雇止めを行っていない」など、会社都合退職について一定の要件を満たすこと
- 社員:直前の離職の際に「再就職援助計画の対象者」「求職活動支援書の対象者」「雇用保険の特定受給資格者」のいずれかになっていること
「再就職援助計画の対象者」「求職活動支援書の対象者」「雇用保険の特定受給資格者」の細かい説明は割愛しますが、いずれも倒産や事業の縮小など、会社都合などでやむを得ず離職した人が対象になります。
3)受け取れる金額はいくら?
2)の要件を満たすと、
- 雇い入れにかかった費用の一部を定額で受給(早期雇入れ支援)
- 雇い入れから6カ月間のうちにOFF-JTやOJTを実施した場合、その訓練時間に応じた額や、訓練経費の実費相当額を受給(人材育成支援)
できます。なお、雇入れ支援も人材育成支援も、生産指標等により一定の成長性が認められる会社は、「優遇助成」が受けられます。
4)専門家のワンポイントアドバイス
離職から3カ月以内に社員を雇用するという要件があるので、タイミングを意識して採用計画を立てることが重要です。人材育成支援は、入社前研修なども対象になることがあります。ただし、人材育成支援の助成を受けるには、訓練開始前にあらかじめ「職業訓練計画」を立てて都道府県労働局の認定を受ける必要がある点に注意が必要です。
3 特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)
1)特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)とは?
60歳以上の高年齢者や障害者など、就職が特に困難とされる人材を社員として雇い入れた場合、所定の金額(定額)を受け取れるというものです。
■厚生労働省「特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/tokutei_konnan.html
2)助成金を受け取るには?
次の要件などを満たす必要があります(詳細は厚生労働省ウェブサイトをご参照ください)。
- 会社:支給対象者を、ハローワーク等からの紹介により、雇用保険被保険者となる社員(週の所定労働時間が20時間以上)として雇い入れること。「雇入れ日の前後6カ月間に解雇等を行っていない」など、会社都合退職について一定の要件を満たすこと
- 社員:「高年齢者(60歳以上の者)」「身体・知的・精神障害者」「母子家庭の母等」「ウクライナ避難民」「補完的保護対象者」といった、就職が困難とされる者であること
有期雇用社員として雇用する場合も助成対象になりますが、その社員が65歳以上に達するまで継続して雇用し、継続雇用期間が確実に2年以上(一部3年以上)となる必要があります。
3)受け取れる金額はいくら?
対象社員に支払われた賃金の一部に相当する額として、次の金額が支給対象期(6カ月)ごとに定額で(ただし、対象期に支払われた賃金額を上限として)支給されます。なお、社員を短時間労働者(所定労働時間が20時間以上30時間未満の社員)として雇い入れるかどうかによっても金額が変わります。
なお、特定求職者雇用開発助成金には「成長分野等人材確保・育成コース」といって、就職困難な社員などを業務経験のない状態で受け入れた上で、次のメニューに該当する取り組みを実施すると、通常の1.5倍の助成が受けられるコースがあります。
2024年10月1日から要件が緩和され、より利用しやすくなっているため、こちらも併せてご確認ください。
■特定求職者雇用開発助成金「成長分野等人材確保・育成コース」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/tokutei_seichou_00008.html
4)専門家のワンポイントアドバイス
「ハローワーク等からの紹介により雇用した社員」が対象なので、採用手段が要件を満たしているかをあらかじめ確認しておく必要があります。また、高年齢者や障害者を雇用する場合、就業場所や就業時間などについて特別な配慮が必要になる可能性があります。
4 特定求職者雇用開発助成金(就職氷河期世代安定雇用実現コース)
1)特定求職者雇用開発助成金(就職氷河期世代安定雇用実現コース)とは?
いわゆる「就職氷河期世代(1993年~2004年ごろに就職活動を行っていた人)」で、子育てによるブランクのある人や非正規雇用などで正社員を希望する人を正社員として雇い入れた場合、所定の金額(定額)を受け取れるというものです。
■厚生労働省「特定求職者雇用開発助成金(就職氷河期世代安定雇用実現コース)」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000158169_00001.html
2)助成金を受け取るには?
次の要件などを満たす必要があります(詳細は厚生労働省ウェブサイトをご参照ください)。
- 会社:支給対象者を、ハローワーク等からの紹介により、正社員として雇い入れること。「雇入れ日の前後6カ月間に、解雇や雇止めを行っていない」など、会社都合退職について一定の要件を満たすこと
- 社員:次の1.から5.の全てに該当すること
- 1968年4月2日から1988年4月1日の間に生まれている
- 雇入れ前の過去5年間において、正社員として雇用された期間が通算1年以下である
- 雇入れ前の過去1年間において、正社員として雇用されたことがない
- ハローワーク等からの紹介の時点で「失業している」または「非正規雇用労働者など安定した職業に就いていない」者で、就労に向けた支援を受けている
- 正社員として雇用されることを自ら希望している
社員の要件の2.については、会社役員など助成金の趣旨に合わない人の場合、要件を満たしても支給対象外となるケースがあるので注意が必要です。一方、3.については雇入れ前の過去1年間に正社員として雇用されていても、離職理由が会社都合の解雇等によるものであれば支給対象となります。
3)受け取れる金額はいくら?
対象社員に支払われた賃金の一部に相当する額として、次の金額が支給対象期(6カ月)ごとに定額で支給されます。ただし、支給対象期ごとに対象社員に支払った賃金額が図表4の額を下回る場合、その賃金額が支給額の上限となります。
こちらも特定就職困難者コースと同じく、「成長分野等人材確保・育成コース」の適用対象になります。就職氷河期世代の社員を業務経験のない状態で受け入れた上で一定の取り組みを実施すると、通常の1.5倍の助成が受けられます。
4)専門家のワンポイントアドバイス
特定就職困難者コースと同じく「ハローワーク等からの紹介により雇用した社員」が対象で、採用手段が要件を満たしているかをあらかじめ確認しておく必要があります。また、一概には言えませんが、非正規雇用が長かったことなどにより、正社員として必要なスキルが不足している人もいるため、個別の能力評価や入社後の人材育成は念入りに行う必要があります。
5 トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)
1)トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)とは?
職業経験の不足などから就職が困難な人を“トライアル(お試し)”で雇い入れた場合(トライアル雇用)、所定の金額(定額)を受け取れるというものです。トライアル雇用で本人の適性を確認した後に、無期雇用社員に転換することができます。
■厚生労働省「トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/newpage_16286.html
2)助成金を受け取るには?
次の要件などを満たす必要があります(詳細は厚生労働省ウェブサイトをご参照ください)。
- 会社:支給対象者を、ハローワーク等からの紹介により、雇用保険被保険者となる有期雇用社員(週の所定労働時間が20時間以上)として原則3カ月間トライアル雇用し、その後、無期雇用社員(週の所定労働時間が原則30時間以上)に転換すること
- 社員:次の1.から5.のいずれかに該当すること
- 紹介日の前日から過去2年以内に、2回以上離職や転職を繰り返している
- 紹介日の前日時点で、離職している期間が1年を超えている
- 妊娠、出産・育児を理由に離職し、紹介日の前日時点で、安定した職業に就いていない期間が1年を超えている
- 1968年4月2日以降に生まれ、ハローワーク等で担当者制の個別支援を受けている
- 「母子家庭の母等」「父子家庭の父」「生活保護受給者」といった就職の援助に当たり、特別な配慮を要する者である
3)受け取れる金額はいくら?
対象者1人につき、1カ月単位で4万円(母子家庭の母等または父子家庭の父の場合、5万円)が最大3カ月分支給されます。ただし、トライアル雇用期間の途中で中に、諸事情で雇用期間が1カ月に満たない月があったり本人の都合による休暇や会社都合による休業があったりした場合、月ごとに
実際に就労した日数÷就労予定日数
で計算した額がどの程度かによって金額が変わります。
また、トライアル雇用終了後に、引き続き継続して雇用する社員として雇用(無期雇用に移行)する場合、特定求職者雇用開発助成金の一部を受給できます。
4)専門家のワンポイントアドバイス
トライアル雇用の開始から2週間以内に、対象社員を紹介したハローワーク等に「トライアル雇用実施計画書」を提出し、認定を受ける必要があります。また、助成金の申請自体は対象社員を無期雇用に転換してから2カ月以内に実施する必要があります。
以上(2024年12月作成)
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画像:ChatGPT