書いてあること
- 主な読者:会社経営者・役員、管理職、一般社員の皆さん
- 課題:最近話題のZ世代(1990年代後半以降生まれで会社においては20代前半くらいまで)だけでなく、それ以前の平成生まれ(30代前半くらいまで)の世代と、現在経営や管理職を担っている昭和世代との世代間ギャップが注目されています。それは価値観の違いやコミュニケーションの違いとして表れ、変化や多様性が求められる昨今、日本企業において深刻な経営の足かせとなりつつあるようです。
- 解決策:まず会社においてZ世代を含む平成生まれと昭和生まれの世代背景を整理しながら、ギャップを埋めるための「価値観の変化」を明らかにします。その上で、筆者が多くの講演や企業研修で紹介してきた『次世代リーダーに必須のコミュニケーション習慣』を実践的に指南します。
1 『次世代リーダーに必須のコミュニケーション習慣』は、なぜ“必須”か?
シリーズ『次世代リーダーに必須のコミュニケーション習慣』も今回が最終回です。
今シリーズでは、管理職・リーダー側の皆さんがすぐにでも取り組むべき3つのコミュニケーション習慣をご紹介してきました。
組織は人でできており、互いに関わりながら高いパフォーマンスを生み出していくためにはコミュニケーションが欠かせません。とりわけ管理職・リーダーの立場にある人たちには、チームや課や部や会社全体をリードしたり、マネジメントしたりする役割として高いコミュニケーション能力が求められます。
しかしながら今、若い世代が管理職・リーダーに求めるコミュニケーションの内容が、10年前とはすっかり変わっているのです。
シリーズ第1回では、そのことに触れました。新入社員が理想とする職場像、上司像は、ここ10年で「丁寧な指導/褒める/傾聴」「個性の尊重/助け合い」などの優先順位が上昇し、逆に低下したのは「活気がある」「互いに鍛え合う」「みんなで1つの目標を共有する」などでした。
低下した項目には、昭和や平成前期の時代の空気感が漂っています。若い世代はそれらに基づいたコミュニケーションを求めなくなっているのです。
とはいえ「なぜ管理職・リーダーの側が変わらなければならないのか」「そもそもリーダーとは、『あるべきコミュニケーションはこうなのだ』とリードして、言って聞かせる側ではないか」といった声も聞こえます。
けれど変わったのは若い世代だけではありません。世界のビジネストレンドも、すでに若い世代が求めている方向に変わっているのです。
2 世界のビジネストレンドの変化を表す4つのキーワードとは
世界のビジネストレンドはどのように変わってきたのでしょうか。以下の矢印の左にある従来のキーワードに対し、新たなトレンドとしてどんなキーワードが浮かびますか。考えてみてください。
1)[競争] → [〇〇]
2)[経験・改善] → [〇〇〇〇〇]
3)[管理] → [〇〇]
4)[指導] → [〇〇]
1)[競争]から変わったキーワードは、発音自体は同じ(きょうそう)ですが、漢字が異なる[共創]です。文字のごとく共(とも)に創ることを意味します。
よく引き合いに出されるのは、自動車およびIT・半導体業界などにおいて、日本企業が、桁違いに規模の大きい米国グローバル企業とどう戦えばよいかという話です。
従来の常識からすれば、トヨタ自動車が他社と組む、ホンダが日産と組むなどとは考えられなかったでしょう。しかし各社単独ではとても勝てない、だったら協力しようじゃないか、そのほうが得意分野・不得意分野も補い合えるし、投資がダブらず効率も良いと判断したわけです。
[共創]はさまざまな業界で始まっています。コンビニ業界では2位と3位のファミリーマートとローソンが物流網を共有していますし、自動運転車の開発ではホンダとソニーが手を組むなど異業種間での連携も珍しくなくなっています。
2)[経験・改善]から変わったキーワードは[新価値創造]、英語の[イノベーション]のほうがしっくりくるでしょうか。とりわけ[改善]はトヨタに代表される日本のお家芸でしたが、[改善] を繰り返すだけでは付加価値は限られ、価格にも転嫁できないし、競合他社にもすぐにまねされてしまう。日本の生産性が一向に上がらない原因の一つともいえました。
大きな付加価値を生み、価格転嫁して生産性を上げていくには[イノベーション]が必要なのです。
けれども[イノベーション]は言うほど簡単ではありません。その実現には自社単独では技術や人やお金など経営資源も限られるし、発想も狭くなる。そこで先ほどの[共創]というトレンドも「あり得ない」世界ではなくなったのです。
同じように3)[管理]は [自律]に、4)[指導]は [支援]に変わりつつあります。
上司が部下に対して4)の一方的な[指導]や指示命令に従わせるという関係ではなく、部下を[支援]することで3)の[自律]を促すこと。一人ひとりが[自律]し自ら考え行動することで、世の中の激しい変化にも対応し、同時に個々を育て、組織を活性化することを目指しているのです。
3 若手がすぐに辞めてしまうのは、変われない上司に失望したから?
若い世代が管理職・リーダーに求めるコミュニケーションも、世界のビジネストレンドも同じ方向にすっかり変わっているのであれば、管理職・リーダーの側が変わるしかありません。
いうまでもなく、皆さんの会社の将来を担うのは若い世代です。会社の未来のためにも管理職・リーダーの側が変わるしかないのです。それも今すぐ、一刻も早く。
なぜなら、部下は上司を選べません。上意下達で下から何を言ってもダメ、一向に変わらない、変われない上司に失望した部下は、どうすればよいでしょう。「この上司の下では自身と会社の未来がない」と悟り、会社を去るしかありません。
最近各社からよくご相談をいただくお悩みの一つが、「ただでさえ人材難で人がいないのに、せっかく採用した若手がすぐに辞めてしまいます、どうしたらいいでしょう」というものです。
若手の早期退職の原因が上司と部下のコミュニケーションギャップにあると感じたら、ご紹介してきた3つのコミュニケーション習慣を上司の皆さんが身に付けることが、解決の近道になると思います。
4 いきなり習慣は身に付かない? 何から始めたらいい?
「毎日と言わず、毎週でも毎月でもよいのですが、何か長く続いている習慣がありますか?」私は講演会やセミナーで、社会人の受講者の方々によくこの質問をします。
けれど会場の誰もが首を横に振るばかり。何人かを指名し「仕事や勉強でなく、趣味やこだわりでもいいですよ」と聞き直して、ようやく「ゴルフの練習なら週に1回、半年ほど続いています」「お習字の教室に通い始めたのですがまだ3回目で……」と、いくつかの習慣に出会えます。読者の皆さんはどうでしょうか。
三日坊主という言葉は万人のためにあるのかもしれません。それくらい長く一つのことを“続ける”ことはハードルが高いのでしょう。「3つのコミュニケーション習慣」をお勧めする私としても心配になります。習慣といっても“クセ”に近いので、一度身に付いてしまえば後は無意識にできるようになれるのですが……。
習慣を身に付けるコツの基本は、ア)小さなことから始める、イ)ご褒美を用意する、ウ)1回くらい途切れても気にせず続ける、といったことでしょうか。
「3つのコミュニケーション習慣」を身に付けていくには、特にア)小さなことから始めるのがよいでしょう。そしてウ)一度や二度うまくいかなくても諦めずに続けることです。イ)は自分で用意しなくとも、相手の反応や関係性の変化で得られるようになります。
「①傾聴」は、まず「相手の話を最後まで聞く」練習から始めてみてください。
途中で遮ってはいけません。ひたすら頷き・相槌、承認や共感の態度を示しながら、最後まで聞ききるのです。そうして「全部話せましたか?」「話したかったことは、これこれこういうことですね」と確認するところまでが1セットです。
実は「①傾聴」の場合、これができれば、ほぼできていることになります。あとはひたすら傾聴スキルを駆使して相手が話しやすくなるレベルを上げていくことです。高ければ高いほど、あなたに対してまた相談したくなり、信頼も増していくことでしょう。シリーズ第3回から第5回までを振り返ってみてください。
「②褒める」は、「褒めると相手も自分もハッピーになれておトクだし、人も育つ」ということを思い出して、小さな「褒める」から始めてみてください。
シリーズ第6回から第9回までで、相手の【何を】「褒める」かで5つ、【どう】「褒める」かで4つのポイントをご紹介しました。組み合せると20通りもありますし、それらから相手の良いと感じたところをただ声に出せばいいのです。同時にご紹介したNGなケースに気を付けさえすれば、いくらでも見つかるはずです。
今までひと言も褒めたことのない人からいきなり褒められると、相手はびっくりし、「どうしたんですか?」といぶかるかもしれません。でも「ただ、いいなって思ってね」と返して気にしないことです。
相手は喜んでいないわけではありません。繰り返していれば、互いにすぐに慣れて良好な関係に変われます。
「②前向き発想」は、言葉通り“発想”を転換する訓練から始まります。逆境や苦しい状況になったとき、あるいは想像してみて、どのように“発想”を転換できるか。日ごろから訓練しておけば、いざというときに役立ちます。
あとはその場の状況や相手の状態によって、言い回しを使い分ければいいでしょう。その際、前向きな言葉をかける前に「メンバーの今の気持ちをしっかりと受け止める」ことをお忘れなく。シリーズ第10回と11回の内容や事例をヒントにしてください。
5 新しいコミュニケーション習慣は、あなたの人生をも幸せにする
今シリーズもいよいよ最後のまとめです。これまで『次世代リーダーに必須のコミュニケーション習慣』と題して、30代くらいから上の全ての方々に、3つの新しいコミュニケーション習慣を身に付けることをお勧めしてきました。
日ごろからリーダーがメンバーの話を傾聴し、先に褒めることで相手の存在や個性が尊重され、互いが信頼に基づく良好な関係に変われます。同時に尊重して任せることでメンバーも育ちます。組織内のコミュニケーションは活発になり、「ここでみんなと頑張り、貢献したい」とエンゲージメントが高まっていくことでしょう。
長年の間には、会社や組織が逆境や苦しい状況に置かれる場面が何度もやってきます。そこで多くの人が去ったり、停滞したり、潰れてしまったりするのか。あるいはリーダーの前向きな言葉に励まされて全員で力を合わせて乗り越え、成功体験を糧にすることができるのか。
後者の組織は、この変化の激しい時代にあっても数々の困難を乗り越えて、成長し続けていけることでしょう。
それは現在のリーダーにとっても、次代を受け継ぎリーダーとなっていくメンバーにとっても幸せなことです。
ちなみに新しいコミュニケーション習慣は、あなたの仕事だけでなく、プライベートの人生も幸せにしてくれます。
お子さんがいらっしゃるという読者の中には、現在うまくコミュニケーションが取れていない、もしくはまだ小さいけれど将来相手にしてくれなくなるのではと心配している方も少なくないでしょう。
体験談で申し上げれば、新しいコミュニケーション習慣を身に付ける以前の私は、決して人を褒めることもなく、時に怒ったりと、部下からは怖がられていたかもしれません。
けれど新しいコミュニケーション習慣を身に付けてからの私は、部下や若手メンバーからだけでなく、自分の子どもからも気軽に相談されるようになりました。最後まで傾聴してあげるだけで「やる気になれた」と感謝の言葉をもらえる存在に変われたのです。
『人生100年時代』がすでに到来しています。みなさんが定年してからも、何十年という時間が待っており、第二第三の人生が始まります。気持ちは元気でもやがて体は次第に衰えていき、誰かの手を借りることになるでしょう。誰かとは誰でしょう。そう、若い人たちです。
彼らと良好な関係でいられてこそ、最後まで幸せな人生を全うできるのではないでしょうか。そのためには彼らとの信頼関係を築くための新しいコミュニケーション習慣が必須なのです。
ちょっとした勇気を持って小さなことから始めれば、皆さんもきっと変われます。
今シリーズも最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
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※武田が以前上梓した書籍『新スペシャリストになろう!』および『なぜ社長の話はわかりにくいのか』(いずれもPHP研究所)が、ディスカヴァー・トゥエンティワンより電子書籍として復刻出版されました。前者はキャリア選択でお悩みの方に、後者はリーダーやトップをめざしている方にお薦めです。
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以上(2024年6月作成)
(著作 ブライトサイド株式会社 代表取締役社長 武田斉紀)
https://www.brightside.co.jp/
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