書いてあること
- 主な読者:従業員を長期間、海外に派遣するため、海外駐在員規程のひな型が欲しい経営者
- 課題:具体的に何を定めればよいかが分からない
- 解決策:駐在期間、家族の帯同、給与や休暇、費用の負担など、「自分が初めて海外で働くとしたら、何が不安か」を洗い出して規程に落とし込む
1 従業員が安心して海外で働けるようにするには?
調達・製造・販売など、今やグローバルチェーンを活用しないビジネスは皆無といえます。海外での折衝を外注先などに任せることも可能ですが、自社にとって重要な事業であれば、やはり自社の従業員を駐在させる必要があります。
とはいえ、海外は言葉をはじめ、文化・習慣、食事、子供の就学など、日本とは勝手の違うことばかり。従業員にとっては不安も大きいでしょう。そこで、従業員の不安を少しでも和らげるために活用したいのが、「海外駐在員規程」です。
海外駐在員規程は、海外赴任中の従業員の処遇、会社がフォローする範囲などについて定めた社内規程です。タイトルだけを聞くと何やら難しそうですが、作成の仕方は至ってシンプル。
「自分が初めて海外で働くとしたら、何が不安か」を1つ1つ洗い出していけば大丈夫
です。例えば、
- 駐在期間はどの程度なのか
- 家族は連れていけるのか
- 給与や休暇のルールは国内で働く場合と違うのか
- 赴任にかかる費用などは会社から負担してもらえるのか
などは、海外で働くなら誰でも気になるところでしょう。従業員からのヒアリングも交えつつ、こうした内容を1つ1つ規程に落とし込んでいけば、従業員も安心して海外で働けます。
次章で、海外駐在員規程のひな型を紹介しますので、参考にしてください。
2 海外駐在員規程のひな型
以降で紹介するひな型は一般的な事項をまとめたものであり、個々の企業によって定めるべき内容が異なってきます。実際にこうした規程を作成する際は、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。
【海外駐在員規程のひな型】
第1条(目的)
本規程は、海外関連会社への出向および会社が設置する海外連絡事務所に勤務する従業員など、会社の命令によって1年以上海外に駐在し勤務する従業員(以下「海外駐在員」)の取り扱いについて定めたものである。
なお、本規程に定めのない事項については、駐在責任者の助言を基に協議して定めることとする。
第2条(用語の定義)
1)海外駐在員とは、海外における現地法人に出向し、引き続いて1年を超える予定で勤務することを命じられた者をいう。
2)駐在期間とは、赴任のため、会社の所在地を出発した日より帰任による会社の所在地に到着した日までの期間をいう。
3)1年以内の出向については、会社の海外出張旅費規程(省略)による。
第3条(身分)
1)出向者については、出向期間中、原則として会社の総務部に籍を置き、引き続き当社に勤務したものとする。
2)会社は、出向者であることを理由に他従業員に比して不利益な取り扱いをしてはならない。
第4条(他規程の適用)
海外駐在員に対しては、本規程の他、会社の関係規程および海外の現地規程を適用する。
第5条(勤務時間、休憩および休日)
勤務時間、休憩および休日は現地規程を適用する。
第6条(駐在責任者)
1)現地法人には、駐在責任者を置く。
2)駐在責任者は、駐在員を統括、指導するとともに、相互の協調、親睦を図り、現地生活についての適切な助言、指導に努めなくてはならない。
第7条(海外駐在心得)
海外駐在員は、駐在に当たり、次の事項を遵守しなければならない。
- 常に会社の従業員としての誇りを持ち、会社の信用や名誉を傷つけないような生活態度を保つこと。
- 駐在する地域の法令を遵守し、地域の風俗・生活習慣を尊重すること。
- 安全・衛生・健康管理に十分留意し、帯同する家族を含めて危険にさらすような行動は避けること。
- 駐在責任者の指示に従い、現地採用の従業員などにも配慮し、協力して職務を誠実に遂行すること。
第8条(家族の帯同)
1)海外駐在員は、扶養家族の全員および一部の帯同または単身などの赴任形態に関して原則として海外勤務期間開始以前に選択し、会社へ申請するものとする。
2)海外駐在員は、海外勤務期間開始以降であっても、1カ月以前の事前申請により、会社が認めた場合は、赴任形態を変更できるものとする。
第9条(赴任および帰任)
1)赴任および帰任の発令は、辞令をもって行う。
2)発令を受けた者は、速やかに業務の引き継ぎを行い、1カ月以内に赴任または帰任するものとする。
3)駐在期間は、同一勤務先においては3年間を基準とし、業務の状況、本人の事情などにより、その期間を延長または短縮することがある。
4)帰任後の配属先は、赴任前の所属部門、海外駐在中の職務、業績、適性などを勘案して定める。
5)赴任先の住居については駐在責任者と、帰任時は人事担当部署と相談し、速やかに入居できるよう準備する。
第10条(赴任および帰任休暇)
海外駐在員は、次の場合、新旧任地において特別休暇を受けることができる。
- 赴任時:移動日を除く3稼働日
- 家族呼び寄せ時:家族の到着後3稼働日
- 帰任時:移動日を除く3稼働日
第11条(赴任・帰任支度金)
海外駐在員の赴任時および帰任時に、会社は赴任支度金および帰任支度金として次の金額を支給する。
第12条(荷造り、運送費用)
私用荷物は、現地の生活において必要不可欠なものに限り、その荷造り、運送費について、次の範囲内で実費を会社が支給する。ただし、動植物については、本人負担とする。
第13条(赴任および帰任旅費)
1)海外駐在員が赴任のため日本を出発する日から任地に到着する日までの期間および帰任のため任地を出発する日から日本に到着する日までの期間に関する交通費および宿泊費については、別途定める「海外出張旅費規程」(省略)を適用する。
2)帯同する家族については、本人の職位に準じて交通費および宿泊費を支給する。
3)帯同する家族も含め、旅券交付手数料、旅券査証料、入出関税、予防注射料など渡航手続き上必要な諸経費は実費を会社が支給する。
第14条(給与の種類)
1)海外駐在員の給与の種類は国内給与・海外給与とし、国内給与は円建て、海外給与は現地通貨建てで支給する。
2)国内給与は、留守宅手当および賞与とする。
3)海外給与は、海外勤務給与・家族帯同手当とする。
第15条(給与の計算基準)
海外勤務給与の計算基準は次の通りとする。
- 会社の計算基準に準じて現地法人が行うが、支給の対象となる期間は、赴任日(駐在地到着日)から帰任日(駐在地出発日)までとする。
- 支給日は、現地法人の定めによる。
- 月中にて、海外給与の開始、終了、変更がある場合は、歴日数にて日割計算をする。
第16条(控除額)
海外駐在員が現地法人から受け取る所得に対して駐在地において課される諸税および社会保険料は、現地法人が全額負担する。
第17条(国内の社会保険等)
1)原則として、国内の社会保険制度および雇用保険は、国内勤務時と同一基準で取り扱う。
2)国内における社会保険、諸税、財形、生命保険料などは、海外駐在員本人の申請により、本人に支給される国内給与から控除する。
第18条(教育費補助)
1)海外駐在員の子女が海外勤務地において学校に通学する場合は、入学金、授業料、スクールバスなど学校が提供する通学費用の50%を教育費として補助する。
2)補助対象となる学校は、原則、幼稚園から高等学校までとする。
3)教育費の補助を受けようとする場合は、入学金、授業料、通学費用の納付書またはこれに代わる証拠書類をもって申請しなければならない。
第19条(海外住宅費)
1)海外駐在員の住宅は、会社が無償貸与する施設に居住する場合を除き、現地事情、家族数などを考慮し、駐在員が選択し、駐在責任者の許可を得て決定する。ただし、住宅選択の許可の上限は別に定める。
2)駐在地における住宅費(以下「海外住宅費」)は、現地法人が支払う。ただし、個人負担分がある場合は、海外給与よりこれを控除する。
3)住宅の賃貸借契約は、原則として現地法人が行い、入居に当たって必要な敷金、保証金、手数料などは、現地法人が負担する。
4)帰任、転任に伴う借り上げ住宅の解約損失は現地法人が負担する。ただし、本人の責に帰すものは、本人が負担する。
5)海外住宅費は、次の費用の合計とする。
- 賃貸借契約書に賃借料として記載されている家賃および車庫代。
- 住居にかかる共益費。
- 賃貸借契約書に借主負担と記載されている住居にかかる税金、火災保険料。
- 家具の賃借料。
第20条(一時帰国)
海外駐在員が次の基準に該当し、かつ会社が必要と認めたときは、特別休暇を付与し、帯同した家族を同伴して一時帰国することができる。
- 日本に居住する配偶者または一親等の血族および姻族が出産、危篤、または死亡した場合、10日の特別休暇を付与する。
- 本人または一親等の血族が日本で結婚する場合、7日の特別休暇を付与する。
- 赴任後、海外勤務が2年以上で引き続き相当期間の勤務が予定される場合、10日の特別休暇を付与する。
- その他会社が認めるときは、会社が認めた日数について特別休暇を付与する。
第21条(一時帰国および家族の一時呼び寄せにかかる費用)
1)一時帰国の費用については、原則、第13条第1項および第2項に準じた金額を支給する。
2)家族を帯同していない海外駐在員が家族を一時的に呼び寄せるときは、年間に1回に限り、原則、第13条第1項および第2項に準じた金額を支給する。
第22条(健康診断等)
海外駐在員については、次の通り健康診断を行う。また、この取り扱いは希望により帯同する家族にも適用する。健康診断実施後、診断書の写しを速やかに会社に提出しなければならない。なお、健康診断に要する費用は全額会社負担とする。
- 赴任前。
- 赴任期間中は年1回。
- 帰任後。
第23条(緊急事態への対処)
1)戦争、内乱、クーデター、暴動、誘拐、感染症の流行または大規模自然災害など、緊急事態が赴任地またはその周辺で発生した場合は、赴任先の責任者および総務部と連絡・連携をとりつつ、本人および帯同する家族がいるときはその家族も含めて、安全地域への避難または帰国その他の措置をとる。
2)緊急のため、第23条第1項に従うことが困難であると判断した場合は、安全の確保を優先し、海外駐在員自らの判断で迅速に安全の確保のための措置を講じるものとする。安全を確保した後に、速やかに駐在責任者および総務部に報告するものとする。
第24条(事故報告)
海外駐在員および帯同家族が事故を起こしたり、入院したりした場合には、駐在責任者は、速やかに総務部に報告しなければならない。
第25条(罰則)
従業員が故意または重大な過失により、本規程に違反した場合、就業規則に照らして処分を決定する。
第26条(改廃)
本規程の改廃は、取締役会において行うものとする。
附則
本規程は、○年○月○日より実施する。
以上(2022年7月)
pj00161
画像:ESB Professional-shutterstock