1 新卒3年以内の離職率がジリジリと増加中

今回から新シリーズが始まります。武田斉紀の『人が辞めない会社、10のヒント』です。

企業の経営者や人事担当者から「社員がすぐに辞めて困っています」というご相談をいただくことが増えてきました。以前からも似た話はあったのですが、最近は規模や業種によらず頻繁に耳にするようになりました。

「大卒の新卒は3年で3割が辞めてしまう」という数字はずいぶん前から聞かれますが、昨今の状況はどうなっているのでしょうか。

厚生労働省から、新規学卒就職者の離職状況が毎年発表されています。新卒で入社して3年ですから最新データは令和3年(2021年)3月卒業者が対象です(2024年10月25日発表)。それによると

新卒の3年以内の離職率は、大卒で34.9%(前年比2.6ポイント上昇)、高卒で38.4%(同1.4ポイント上昇)だそうです。

5年間を遡って比較すると、大卒では2021年(34.9%)、2020年(32.3%)、2019年(31.5%)、2018年(31.2%)、2017年(32.8%)と

漸増傾向にあると分かります。

規模別を見てみましょう。従業員数1、000人以上では28.2%、500~999人で32.9%、100~499人で35.2%、30~99人で42.4%、5~29人で52.7%、5人未満では59.1%。高卒でも同じように1、000人以上で27.3%から、5人未満で62.5%まで増加しています。

規模が小さくなるほど新卒3年以内の離職率が高くなっており、事態は深刻です。

業種別の調査結果もあり、

最も高いのが大卒・高卒共に「宿泊業、飲食サービス業」

で大卒が56.6%(前年比5.2ポイント上昇)、高卒が65.1%(同2.5ポイント上昇)。

高卒では3人採用しても2人が、大卒でも2人に1人超が辞めてしまう現状なのです。

ちなみに3年以内の離職率が高い5業種は、順に1位「宿泊業、飲食サービス業」、2位「生活関連サービス業、娯楽業」、3位「教育、学習支援業」、4位(高卒は5位)「小売業」、6位(高卒は4位)「医療、福祉」となっています。

新卒だけでなく転職者全体ではどうかというと、総務省統計局の2023年12月の調査報告によれば、3カ月を1期とする推移で転職者数は6期連続、転職希望者は10期連続で増加し続けています。就業者に占める割合も、転職者、転職希望者共に同じように増加、

転職希望者は数の上でも占める比率も過去最多です。

すなわち新卒・中途に限らず、せっかく採用した従業員の流出が、年々進んでいることが分かります。“採っても辞める、採っても辞める”状況に陥っているのです。

2 若手の転職自体へのハードルが下がっている?

社員全体で転職者やその比率が漸増している中でも、若手の転職が目立っている理由に挙げられるのが「我慢が足りない」という指摘です。そうでしょうか。

最近の若手社員は、人手不足から空前の売り手市場でちやほやされて採用されているように思われるかもしれませんが、彼らとて「自分に本当に合った1社を見つけよう」ともがいてきました。

大卒の場合、多くの学生は大学3年時からインターンシップに参加したり、何十社もの説明会に参加したり、応募書類もその都度個別にカスタマイズして提出したりと、学生時代の多くの時間を割いて就職活動をしてきているのです。

「タイパ(タイムパフォーマンス)重視」の傾向が強いといわれる若手が、そうして選んで入社した1社を簡単に辞めたいと思うでしょうか。あまりにタイパが悪いでしょう。彼らだってできることなら、時間をかけて選んだ1社で働き続けたいはずなのです。

一方で転職が身近になり、特に若手は転職自体をかつてのような少し後ろめたい行為ではなく、“前向きな選択”と捉えるようになっています。せっかく選んだ1社ではあるけれど、「合わないなら石の上にも3年どころか、1年でも時間がもったいない」と考えるのです。

昭和世代からすれば「我慢が足りない」と見えていても、彼らは「合わないと分かった時点で我慢して居続けることは時間がもったいない(タイパが悪い)し、自分と会社双方にとってプラスにならない」と判断しているのでしょう。

もっといえば、今の若者は「まだ20代」とも「まだ10代」とも考えていない節があります。彼らの同世代には既に結果を残したり、日本どころか一気に世界に羽ばたいていたりする仲間がいっぱいいるのです。

その昔にも10代、20代で名を馳せた人はいましたが、数もスピードも勢いも違います。お金がなく、先生もいなくともYouTubeを見て学んで、金メダルを獲ってしまう世代。明確な根拠の提示もなしに「とにかく20代は下積みを」といった考えは通用しません。

今の会社、今の仕事は、現在と未来の自分にとってどれだけプラスなのか。もっと良い会社や仕事はないのか。あると分かれば迷わずそちらを選択するのです。

若手の早期退職増加の理由に、退職代行業者の存在を挙げる人もいます。

お金を出せば自分の退職意向を代わりに会社に伝えて、手続きまで進めてくれるから、安易に退職を考えるようになっているのではないかと。事実、退職代行業者の取扱件数はうなぎ上りに増えているようです。

影響がゼロとはいいませんが、私はそれが早期退職増加の直接的な理由ではないと考えます。なぜなら退職代行業者に依頼する時点で、本人の退職意向が固まっている可能性が高いからです。

退職代行業者を利用しなくても、直接会って話さずに手紙やメールを送るだけで退職意向を伝える人、最悪は突然消えてしまう人だっているでしょう。代行業者はあくまで手続きを代行しているにすぎません。

会社への恩義やメリットを感じ、今後も関係を保ちたいなら自分で直接伝えるでしょうし、そうでないなら退職代行業者も利用する。代行業者から連絡があった場合は、少なくとも本人には直接伝えづらい何かがあったと考えるべきでしょう。

3 そもそもの採用自体が難しくなり、諦める中小も

多くの企業の「社員がすぐに辞めて困っています」という嘆きの原因が、離職率の漸増だけにとどまらないのはご承知の通りです。そもそも採用自体が難しくなっていることです。

原因の原因を真因と呼ぶようですが、採用難の真因は1つではありません。まず「少子化」です。日本の少子化は、従前の想定以上に進んでおり、採用したくとも対象者の数が減っているのです。

加えて「グローバル化」もあります。外資系企業が日本人を積極的に採用したり、日本企業が海外進出に向けて求人を拡大したりしています。結果、特に優秀な人材に対する採用競争の激化が止まりません。

大手企業を中心に初任給をかつてないほどの幅で増額提示する、あるいはキャリア次第で破格の好待遇で迎える企業が増えてきました。

数年前までは大卒初任給は基本給が20万円余り、大手と中小で差があってもせいぜい数万円でした。しかし今や30万円以上を提示する大手企業が次々と現れています。

高額の初任給はさまざまな手当を含んでいたり、一部の職種だけに適用にしていたりというケースもありますが、優秀な学生なら是が非でも採りたい、競合他社に採られたくないという意思が伝わってきます。

外資系の中には、相対的な円安も相まってさらに上の金額を提示する企業も見られます。大手ならなんとか対抗できたとしても、中小では国内大手に対抗することすらままならないでしょう。

そのせいか、リクルートワークス研究所「第42回 ワークス大卒求人倍率調査(2026年卒)」によると、大卒の2026年卒では従業員300人未満の企業の求人数が前年比7.9%、3.4万人も減少しているのです。一方で学生側の希望者は33.3%と大幅に減少し求人倍率は前年比2.48ポイント増の8.98倍。学生の就職希望先が初任給を大幅に増額した大手に引っ張られていることが分かります。

中小企業の求人数の大幅減少は、採用競争に着いていけず、諦めて求人自体をやめてしまった結果なのでしょう。

しかしながら、採用自体をやめたところで事態は好転しません。先ほどのように早期退職者がジワジワと増加する中では、座して死を待つのみではないでしょうか。

4 「採っても辞めてしまう上に、そもそも採れない」を解決する10のヒント

冒頭で紹介した企業経営者や人事担当者の「社員がすぐに辞めて困っています」との声は、「採っても辞めてしまう上に、そもそも採れない」という嘆きのようです。

そこで今シリーズでは、『人が辞めない会社、10のヒント』と題して、多くの企業が抱えている悩みを解決するためのヒントを第2回~第11回までで毎回1つ、計10個紹介していきます。

切り口を「採用」「仕事」「組織」「人と人」などに整理しながら、多角的に解説していきます。また、“ヒント”は原因の究明にとどまらず、最もお困りの中小企業の皆さんにも実践していただけそうな具体策を目指します。

ただ「採用力向上」については、過去のシリーズでも取り上げたことがありますので、今回は「退職防止」のほうに重きを置いてお話しするつもりです。

もちろん以前「採用力向上」についてお話しした頃とは、先ほど触れた初任給や待遇格差問題など状況が変わっていますので、「それでも中小企業にも勝機はある」ことをお伝えしたいと思います。決してあきらめてはいけません。

最終回の第12回では、10のヒントを振り返りながら、各社でどうとらえて実践していっていただければよいかのアドバイスで締めくくりたいと存じます。ご期待ください。

5 取るべき対策の1つは、一人ひとりの「辞める“本当の理由”を丁寧に拾う」こと

さて、次回から10のヒントをご紹介する前に、皆さんの会社で見つめ直し、今後継続的に取り組んでいただきたいことがあります。

前提として「何人中の何人が辞めた」という数字ばかりにとらわれるのではなく、辞めた「何人」はそれぞれが一人ひとりの人間であることを忘れないでください。

その上で会社は、退職を選択した一人ひとりの「辞める理由」を正しく把握できているでしょうか。退職時に本人が口にした理由が“本当の理由”とは限りません。

私が人事部でキャリア採用に関わり始めた数十年前は、まだ転職が一般的ではありませんでした。応募者が会社に「転職を考えている」とバレようものなら、上司は徹底的に説得して慰留するのです。はたして慰留に応じれば幸せになれるかというと、会社の裏切り者のレッテルを貼られて左遷の憂き目に遭うことも珍しくなかったのです。

転職者を受け入れる側としては、内定した際は、次に家族を説得すること。そうして転職を確実にしてから会社に“ゆるぎない決意”として報告するようにアドバイスしていました。

また、もし転職理由を聞かれた際には、前の職場や上司への不満を口にしないよう厳命しました。上司の面目を潰すことになるからです。上司は自分が理由で部下が退職したとしたくないため、「だったら改善しよう」とますます強く慰留するのです。

そこで勧めていたのは、嘘でもいいので個人的なプライベートの理由をつくって、慰留を押し切ることでした。典型的なケースは、「親の介護」や「親が商売をしていて跡を継ぐことになった」などです。最近では「親の介護」には会社からの配慮も進んできており、理由にしづらいかもしれませんが。

時代も進んで転職自体が身近な存在になってきた今でも、「実家を継ぐことになった」はよく聞く嘘の理由です。情報社会でSNSなどもありますから、継いでいない、あるいは実家が商売すらしていないなどの嘘はバレやすくなってきましたが、言い張ればいいのです。退職してしまえば、前の会社がもう後を追うことはありません。

会社にもよりますが、本人が既に決心していると分かれば以前ほど慰留するケースは減っています。かといって不満を吐露して辞めるのは、やはり後味が悪いものです。

そこで多く聞かれるのは「新しくやりたいことが見つかったので」という理由。“本当の理由”の一部であることも多いのですが、直接的な退職理由は前職への不満だったというケースは少なくありません。送り出す側は当人の不満に気付くことなく、「分かった。新しい世界で頑張ってね」と笑顔で手を振ってくれるのです。

話を戻しましょう。本人がわざわざ本音を言わずに去っていくのに、ではどうやって転職の“本当の理由”を聞き出せばいいのでしょう。

例えば、本人と仲の良かった職場の仲間、よく相談していた相手などに聞いてみることです。「退職したからまあいいでしょう」と話してくれるケースもありますし、「今後の改善に生かしたいのでぜひ」と頼み込んで話してもらうことも必要でしょう。

そうやって退職していった一人ひとりの退職理由を丁寧に拾っていけば、今この会社に何が足りないのか、どんな手を打てば退職者を減らせるかのヒントが見つかる可能性が高いのです。

6  同時に今働いている一人ひとりの「辞めない理由を丁寧に拾う」こと

退職者の辞める“本当の理由”を追って今後の改善に活かしていくだけでは、残っている社員にはさほど響かないかもしれません。個々に現状への不満はありながらも、この会社で働く選択をしてくれているのですから。

今働いている社員に対しては、1 on 1などの面談を通して現状への不満は拾いつつも、一人ひとりの「辞めない理由を丁寧に拾う」ことをお勧めします。

恐らくその理由は、あなたの会社が持っている他社にない“強み”である可能性が高いのです。例えば、教育制度の充実、公正で分かりやすい人事評価、細かく配慮された人事制度、職場の雰囲気が合う人には合う、社会や地域からの信頼やブランド力など。それらを失ってしまっては、彼らですらも会社を去る選択をしかねません。

他社にない“強み”はむしろ強化していくように取り組みましょう。

自社ならではの“強み”の強化は、人材確保だけでなく、企業としての競争力にも直結するはずです。

退職する一人ひとりの「辞める理由」と、働いている一人ひとりの「辞めない理由」の2つを丁寧に拾っていくことで、自社ならではの“強み”と“課題”が浮き彫りになってくることでしょう。

それらをシリーズで取り上げる10のヒントと照合していけば、あなたの会社が「人が辞めない会社」に生まれ変わるための処方箋も見えてくると思います。

第1回を最後までお読みいただきありがとうございました。次回からは『人が辞めない会社、10のヒント』を順にご紹介していきます。

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※武田が以前上梓した書籍『新スペシャリストになろう!』および『なぜ社長の話はわかりにくいのか』(いずれもPHP研究所)が、ディスカヴァー・トゥエンティワンより電子書籍として復刻出版されました。前者はキャリア選択でお悩みの方に、後者はリーダーやトップをめざしている方にお薦めです。

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以上(2025年7月作成)
(著作 ブライトサイド株式会社 代表取締役社長 武田斉紀)
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