書いてあること
- 主な読者:自転車通勤制度の導入を検討している経営者
- 課題:保険への加入など、リスク管理を含めて制度を整備したい
- 解決策:自転車通勤は許可制とする。本稿で紹介するひな型を参考に制度を整備する
1 自転車通勤制度を導入するには
1)自転車通勤のリスク。どこに注意して許可すべき?
自転車通勤には、健康増進、通勤ラッシュの回避など、企業と従業員に双方にさまざまなメリットがあります。特に、コロナ禍では「密を避けられる」という点で、自転車通勤を希望する従業員が増えているようです。
一方、電車通勤に比べ車両や歩行者との交通事故を起こしやすいなど、自転車通勤特有のリスクもあります。そのため、自転車通勤は許可制とし、「保険に加入している」など一定の要件を満たす従業員についてのみ認めるのがよいでしょう。
自転車通勤を希望する従業員がいた場合、具体的には次の点などを確認します。
1.保険への加入
自転車による交通事故が増加傾向にあることや、事故による賠償金が高額化しているとされます。そのため、東京都など全国各地の自治体では、保険への加入を義務化しています。
保険への加入が義務付けられていない地域であっても、従業員の自転車通勤を承認する場合、従業員の保険への加入は必須としたほうがよいでしょう。その際は、保険の契約期間が通勤許可期間をカバーしているかについても確認します。
2.駐輪場の確保
企業で駐輪場を整備していない場合、従業員が自ら駐輪場を確保している旨を証明する書類を提出してもらうなどして、駐輪場を確保していることを確認する必要があります。
3.合理的な通勤経路
通勤に必要以上に時間を掛けて疲弊し、業務に支障が出るようでは本末転倒です。どの程度の距離まで自転車通勤を認めるかは企業によって異なりますが、疲労によって業務に支障がないよう、距離にして10キロメートル、時間にして1時間程度を目安に、通勤距離・時間の限度を決めるのがよいでしょう。
自転車通勤を許可するかを検討する際は、自宅から会社までの通勤経路を申告してもらいます。従業員の通勤経路を把握しておくと、万一、事故が起こったとき、労働者災害補償保険(以下「労災保険」)の通勤災害として認定されずに、従業員が不利益を被ることを防ぐこともできるでしょう。後述の通勤手当を幾ら支給するか決める際の基準にもなります。
1.から3.の内容を確認するに当たっては、保険証書のコピー、駐輪場の契約書、通勤経路を示した資料を「自転車通勤許可申請書」「誓約書」とともに提出させ、総務部などの担当部署で確認した上で自転車通勤の可否を判断するとよいでしょう。詳細は第2章をご確認ください。
2)通勤手当の取り扱い
自転車通勤者に対する通勤手当の支給方法の一つとして、通勤距離に応じて一定額を支給する方法があります。通勤手当の計算方法は、1キロメートル当たりの支給額を設定した上で、通勤距離に応じた額を支給する方法や、数キロメートルごとにテーブルを設けて、テーブルごとに支給額を変更する方法などが考えられます。
1カ月当たりの非課税限度額は次の通りです。
通勤距離ごとの非課税限度額を基準に、自動車通勤をする従業員などと公平性が保たれるように自転車通勤の手当の額を決めるとよいでしょう。
次章では、ここまでの内容を踏まえた自転車通勤規程のひな型を紹介します。
2 自転車通勤規程のひな型
以降で紹介するひな型などは一般的な事項をまとめたものであり、個々の企業によって定めるべき内容が異なってきます。実際にこうした規程を作成する際は、自転車活用推進官民連携協議会が公表している「自転車通勤導入に関する手引き」を参考にしたり、必要に応じて専門家のアドバイスを受けたりすることをお勧めします。
■自転車活用推進官民連携協議会が公表している「自転車通勤導入に関する手引き」■
https://www.jitensha-kyogikai.jp/project/
【自転車通勤規程のひな型】
第1条(総則)
本規程は、従業員が通勤のために自転車を使用する場合の取り扱いについて定める。
第2条(適用範囲)
1)本規程は、従業員が所有者または使用者となっており、専ら通勤のために使用する自転車について適用する。
2)本規程は、会社の許可を得た上で業務に使用する自転車については適用しない。
第3条(許可条件)
1)自転車による通勤を希望する者は、会社に申請して許可を受けなければならない。
2)自転車による通勤は、次の各号を全て満たす従業員に認める。
1.自宅から会社までの直線距離が10キロメートル未満の者であり、自転車による通勤時間が1時間を超えない者。
2.安全運転に支障のない者。
3.自転車保険に加入している者。
3)従業員の自宅から会社までの経路については、安全且つ合理的 でなければならない。
4)自転車通勤の許可期間は1年以内とし、毎年4月1日に更新する。
5)更新は自動更新とせず、所定の承認手続きを取らなければならない。
第4条(許可)
1)自転車通勤を希望する者で第3条第2項各号の要件を満たした者は、所定の書類を添えて「自転車通勤許可申請書」を提出し、総務部長の承認を得なければならない。
2)「自転車通勤許可申請書」の記載内容に変更があった場合には、速やかに総務部長に報告し、再度、自転車通勤の許可を受けなければならない。
第5条(禁止事項)
1)運転に際しては、次の各号に該当する行為をしてはならない。
1.自転車を業務に使用すること。
2.労働時間中に私用で自転車を使用すること。
3.許可を受けた自転車を他者に使用させること。
4.飲酒運転をすること。
5.過度の疲労等、安全運転が困難と予想される状態で運転すること。
6.整備不良の自転車を使用すること。
7.安全のための装備(ヘルメット、グローブ)をせずに運転すること。
8.携帯電話を使用しながら運転すること。
9.傘を差しながら運転すること。
10.夜間、無灯火で運転すること。
11.2人乗りをすること。
13.その他、道路交通法等の各種法令により禁止されている行為や会社が不適と認める行為をすること。
2)第1項各号に該当する行為をした場合には、自転車通勤の許可を取り消すことがある。
第6条(安全教育)
自転車通勤を許可された従業員は、会社が主催する安全教育を年に1回受けなければならない。
第7条(事故等の取り扱い)
1)自転車での通勤途中に事故を起こした場合は、速やかに上長に報告し、その指示に従わなければならない。
2)第1項における事故について、会社は第三者に対する賠償責任を負わない。また、事故に伴う物損についてもその補償を行わない。
3)第1項における事故により会社が損害を受けたとき、会社は当該従業員に対して、賠償請求を行うことがある。
4)駐輪場内での自転車の破損・盗難等について、会社は一切の補償を行わない。
第8条(通勤手当等)
1)自転車による片道の通勤距離が2キロメートル以上の場合には、通勤距離に応じて、1キロメートル当たり400円を通勤手当として支給する。
2)通勤に使用する自転車の修理費その他一切の費用については、従業員の自己負担とする。
第9条(自転車の無断駐輪禁止)
1)自転車通勤をする従業員は、原則として会社の指定する駐輪場に通勤で使用する自転車を駐輪するものとする。
2)会社指定の駐輪場を利用しない特別な理由がある場合には、第4条に定める書類に加え、利用しない理由等を記載した事由書及び代替として利用する駐輪場の利用許可証等を添付した上で総務部長に提出し、許可を得るものとする。
3)会社の指定する駐輪場もしくは事前に許可を得ている駐輪場以外の場所に駐輪してはならない。
第10条(罰則)
従業員等が故意または重大な過失により、本規程に違反した場合、就業規則に照らして処分を決定する。
第11条(改廃)
本規程の改廃は、取締役会において行うものとする。
附則
本規程は、○年○月○日より実施する。
以上(2020年11月)
(監修 人事労務すず木オフィス 特定社会保険労務士 鈴木快昌)
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画像:ESB Professional-shutterstock