書いてあること
- 主な読者:社員の賃下げを検討している経営者
- 課題:労働組合や社員とトラブルにならないよう、法令にのっとって手続きを進めたい
- 解決策:専門家が監修した賃金引き下げに関する労働協約や個別の同意書を使用する
1 労働条件の不利益変更を行うのに必要な書面とは?
会社の業績が悪化したり、社員の成果が著しく低かったりなどで、「賃下げ」を検討せざるを得ないケースがあります。ただ、賃下げは「労働条件の不利益変更」になるので、実行するには次のいずれかの手続きが必要です。
- 労働組合の同意を得て、労働協約を変更する
- 合理的な内容であることなどを前提に、就業規則を変更する
- 個々の労働者の同意を得て、労働契約を変更する
その際、1.については「賃金引き下げに関する労働協約」、2.と3.については「賃金引き下げに関する個別の同意書」といった具合に、手続きに応じた書面を用意しておくのが望ましいです。2.については本来、就業規則の変更内容が労働契約法第10条の要件を満たす合理的なものであれば個別の同意書は不要なのですが、賃下げは何かとトラブルになりやすいので、やはり用意しておいたほうが無難です。
以降で専門家が監修した労働協約や個別の同意書のひな型を紹介するので、ご確認ください。
2 賃金引き下げに関する労働協約のひな型
以降で紹介するひな型は一般的な事項をまとめたものであり、個々の会社によって定めるべき内容が異なってきます。実際にこうした協約を作成する際は、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。
【賃金引き下げに関する労働協約のひな型】
株式会社○○○○(以下「甲」)と△△△△労働組合(以下「乙」)は相互に協力して会社の発展を図るため、会社が従業員に支払う賃金について次の通り労働協約を締結する。また、本協約は就業規則その他、会社と従業員間における全ての協定または契約に優先する。
第1条(目的)
本協約は会社が従業員に支払う賃金支給水準の変更について定めるものであり、これに関連して賞与、退職金の算定基準となる賃金も変更される。
第2条(定義)
本協約において各用語の定義は、次に定めるところによる。
1.賃金:別途定める「賃金規程」(省略)第○条の年功給、職能資格給、技能給のことをいう。
2.賞与:賃金規程第○条の賞与をいう。
3.退職金:別途定める「退職金規程」に基づく退職金をいう。
4.従業員:就業規則第○条の従業員をいう。
第3条(賃金の改定)
本協約の締結後の最初に到来する賃金支払日より、会社は本協約「別表」(省略)に基づいて計算した賃金を従業員に支払う。
第4条(賞与の改定)
本協約の締結後最初に到来する賞与支給月より、会社は本協約「別表」(省略)に基づいて計算した賞与を従業員に支給する。ただし、本協約により賞与の支給月数が変更されることはない。
第5条(退職金の改定)
本協約の有効期間中に生じる退職金の算定は、本協約「別表」(省略)に基づいて行うものとする。
第6条(有効期間)
本協定の有効期限は○年○月○日から1年間とする。
締結日 ○年○月○日
甲 株式会社○○○○
代表取締役 〇〇〇〇
乙 △△△△労働組合
委員長 〇〇〇〇
3 賃金引き下げに関する個別の同意書のひな型
以降で紹介するひな型は一般的な事項をまとめたものであり、個々の会社によって定めるべき内容が異なってきます。実際にこうした同意書を作成する際は、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。
【賃金引き下げに関する個別の同意書のひな型】
△△△△(従業員氏名)は、本同意書で定める賃金改定について、○年○月○日、別紙説明資料の提示を受けた上で、会社から十分な説明を受けてその内容を理解し、同意した。本同意書の締結後、会社が支給する賃金、賞与、退職金が次の通り変更される。
1.賃金
- 年功給: 円
- 職能資格給: 円
- 技能給: 円
2.賞与
本同意書の締結後、賞与の計算の基礎となる賃金は本同意書「別表」(省略)に定める額に基づく。
3.退職金
本同意書の締結後に生じる退職金の計算の基礎となる賃金は、本同意書「別表」(省略)に定める額に基づく。
締結日 ○年○月○日
甲 株式会社○○○○
乙 △△△△(従業員氏名)
以上(2024年3月更新)
(監修 弁護士 八幡優里)
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