書いてあること

  • 主な読者:社員を関連会社などに転籍させる予定があり、転籍規程を整備したい経営者
  • 課題:在籍出向との違い、具体的に転籍規程に定める内容が分からない
  • 解決策:在籍出向では自社と社員の労働契約が維持されるが、転籍では労働契約が終了する。転籍規程には、「転籍は社員の同意を得て行う」旨を明記する。

1 「転籍は社員の同意を得て行う」のが原則

「転籍」とは、現在会社に在籍している社員が、関連会社などと新たに労働契約を結び直してその籍を移すことです。転籍出向とも呼ばれ、よく「在籍出向」とセットで語られますが、

  • 在籍出向では、自社と社員の労働契約が維持されるのに対し、
  • 転籍では、自社と社員の労働契約が維持されず終了する

社員を転籍させる場合、事前に就業規則(転籍規程など)に転籍に関する定めを設ける必要があります。定める内容はさまざまですが、まず大切なのは、

「転籍は社員の同意を得て行う」旨を明記する

ことです。転籍は社員との労働契約を終了させる性質上、同意を得た上で行うのが原則とされており、この同意に関するルールがあいまいだと社員とトラブルになる恐れがあります。

そのため、例えば、会社が転籍後の労働条件について定めた「転籍同意書」を作成し、社員がその内容に同意した場合に転籍させるなど、同意取得の手続きを明確に定める必要があります。次章ではここまでの内容を基に、関連会社への転籍を想定した転籍規程のひな型を紹介します。

2 転籍規程のひな型

以降で紹介するひな型は一般的な事項をまとめたものであり、個々の企業によって定めるべき内容が異なってきます。実際にこうした規程を作成する際は、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。

【転籍規程のひな型】

第1条(転籍制度)
会社は、当社の関連会社(以下「転籍先」という)との相互援助および共存共栄などを目的に、会社の従業員が3カ月の出向期間を経て転籍先に転籍する制度を設ける。

第2条(転籍先)
転籍先は次の各号に定める通りとする。会社は転籍先に変更がある場合は、速やかに本規程を見直し、従業員に周知しなければならない。

  • ○○株式会社 東京都
  • ××生産工場 東京都
  • △△株式会社 東京都

第3条(転籍の対象となる従業員など)
1)転籍は、入社後5年を経過した従業員のうち、会社から転籍条件の提示を受け、これに同意した者(以下「転籍者」)を対象に行う。転籍者は、別表第1「転籍同意書」に記入の上、遅滞なくそれを所属長に提出しなければならない。また、会社は、転籍先となる関連会社を明らかにした上で、その就業規則の写しを交付するなど、転籍先における転籍者の労働条件を通知するものとする。
2)転籍により、会社と転籍者との労働契約は消滅する。転籍者は新たに転籍先と労働契約を交わすものとする。
3)会社は、会社が提示した転籍条件に従業員が同意しないことを理由に、解雇、降格など不利益な取り扱いをしない。

第4条(労働条件)
転籍者の労働条件は、本規程に特別な定めがない限り、転籍先の労働協約、就業規則、労使協定、そのほか従業員の労働条件に関して定めた規程に従うものとする。

第5条(退職金)
1)退職金は、転籍者が転籍先を退職した日より3カ月後に支給する。
2)退職金の算定期間は、転籍者が会社に入社した日から転籍先を退職するまでの期間を通算した期間とする。
3)第2項以外で、会社と転籍先の退職金規程で異なる内容がある場合は、原則として会社の規程を適用する。

第6条(社会・労働保険)
健康保険、介護保険、厚生年金保険および雇用保険などの社会・労働保険については、転籍時に転籍先に移行する。

第7条(福利厚生施設)
転籍者の社宅・寮は転籍先がこれを調達し、転籍者は転籍先の定める賃借料を支払うものとする。

第8条(福利厚生制度)
転籍者の福利厚生制度は転籍先のものを適用するものとする。会社が実施し、転籍者が利用していた福利厚生制度で転籍先が実施していないものがあるときは、会社および転籍者が協議の上で対応を決定する。

第9条(転籍費用など)
1)転籍者の転籍にともなう旅費、荷造費、運送費などの転籍費用は、会社の基準に基づいて転籍先が支払うものとする。
2)会社は、転籍者の申請に応じて、3労働日の転籍休暇を付与する。転籍休暇は有給とする。

第10条(復籍)
転籍者が、自らの責に帰さない事由によりやむなく転籍先を退職し、転籍者が会社への復籍を希望する場合は、事情を斟酌し、会社と転籍先が協議の上、会社への復籍を認めることがある。

第11条(罰則)
転籍者が故意または重大な過失により懲戒処分を受けることになった場合、転籍前の事案については会社の就業規則、転籍後の事案については転籍先の就業規則に照らして処分を決定する。

第12条(改廃)
本規程の改廃は、取締役会において行うものとする。

附則
本規程は、○年○月○日より実施する。

■別表第1「転籍同意書」■

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以上(2021年9月)

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画像:ESB Professional-shutterstock

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