書いてあること
- 主な読者:採用面接に関するトラブルを防ぎたい経営者
- 課題:求職者の緊張をほぐすための雑談が法律違反になり、SNSなどで炎上してしまう
- 解決策:面接官も求職者から試されていることを理解し、11項目の“NG質問”を押さえる
会社のSNSが炎上している!! こんな報告がA社の社長に入ってきました。どうやら数日前に面接した相手がSNSに次のような投稿をしたようです。
「A社は採用面接で、出身地とか家族構成とか、採用に関係ないことをやたらと聞いてくるので気持ち悪い。というか、これって法律違反じゃない?」
情報は拡散し、「ひどい会社だ」という否定的な意見があれば、「それくらいいいでしょ」という肯定的な意見もあります。とにかく、A社にとって好ましくない事態なのですが、社長は釈然としません。
「確かに聞いたよ。『生まれはどちらですか?』『ご両親は何の仕事をしていますか?』ってね。でも、これは相手の緊張をほぐすための雑談だよ。なぜ、こんなにたたかれないといけないの?」
1 緊張をほぐす雑談が“就職差別扱い”になる不思議
日ごろから人と話す機会が多い社長は「コミュ力」が高いです。だからこそ、採用面接の面接官になったら、相手の緊張をほぐすための雑談もします。「お互いにリラックスして話しましょう」という優しさに他なりません。
ところが、この優しさが法律違反につながります。職業安定法とその関係法令では、
求職者に聞いてはいけない “NG質問”
が定められていて、その中に「本籍・出生地」「家族」「尊敬する人物」「購読新聞・雑誌・愛読書」などが含まれているのです。これらの質問は「就職差別につながる恐れがある」ということなのですが、「なぜ、愛読書を聞いたら就職差別になるのか?」という疑問は、一旦置いておきましょう。ルールはルール。まずは“NG質問”を確認してみたいと思います。
2 聞いてはいけない11項目の“NG質問”
厚生労働省は、就職差別につながる恐れがある情報として、
- 本人に責任のない事項
- 本来自由であるべき事項(思想・信条にかかわること)
の2つを挙げ、これらに該当する質問の例を11項目紹介しています。
採用面接でこれらの質問をしたらアウトです。身元確認の観点から、本籍・出生地、家族などは聞いておきたいという人もいるでしょうが、求職者の適性や能力には直接関係がないので、聞いてはいけません(質問する代わりに住民票を提出させるなどの対応も、採用段階では不可)。
ただ、これらの内容でも、相手が自ら進んで話す分には問題ないそうです。「私は◯◯県の出身なので寒さに強く……」「最近読んだ◯◯という本に感銘を受け……」などと話す求職者は結構いますよね。
また、“NG質問”をしても罰則はありませんが、
ハローワークから改善命令が出される場合があり、これに従わないと、厚生労働省ウェブサイトで会社名が公表されたり、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されたりすることがあるので要注意
です。ちなみに、2020年度は求職者からハローワークに「本人の適性・能力以外の事項を把握された」との苦情が797件寄せられており、うち46.9%は「家族に関すること」となっています。
3 逆に採用面接で聞いてもよい“OK質問”は?
1)求職者の適性・能力に関する質問
“NG質問”はできませんが、
例外として、求職者の適性・能力に関する質問はOK
です。例えば、
- リモートワークが可能かを確認するため、住宅状況について質問する
- 業界への習熟度を確認するため、業界誌の例を幾つか挙げ、読んでいるかを質問する
といったケースです。ただし、求職者とのトラブルを防ぐため、
「なぜ質問するのか」を求職者に説明し、了承を得た上で答えてもらうのが無難
です。
2)求職者の思想・信条に関係ない質問
求職者の適性・能力に関する質問の他に、
求職者の思想・信条に関係ない質問もOK
です。例えば、次のような質問です。
このような質問は単なる雑談と考えられていますが、念のため、
「これは合否には関係がないのですが……」などと断ってから質問するのが無難
です。
やれやれ。少し前なら当然だった質問も、時代の流れの中で変わってきたのでしょうか。それとも、採用の現場とルールメイクの感覚が大きくズレているのでしょうか。よかれと思ったことが裏目に出る。そんな世知辛い世の中ですが、ルールは守らなければなりません。
このシリーズでは、思わず頭を抱えたくなったり、噴き出したりしてしまうような「世知辛い人事労務のルール」を紹介していきます。次回のテーマは、「社員に定時で帰ってほしいだけなのにジタハラ(時短ハラスメント)?」です。
以上(2022年7月)
(監修 弁護士 田島直明)
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画像:metamorworks-shutterstock