1 日陰も休憩もほとんどない環境なのに、熱中症になったら自己責任と言われた……
2 会社の安全配慮義務が原因で熱中症になったのなら、労災になり得る
3 万が一の発症時は、すぐ医療機関を受診&労災の手続きを
この記事では、現役社労士が直面した小さな建設業の労災の事例として、「社員が日陰も休憩もほとんどない環境で熱中症になったのに、『本人の自己責任なので労災ではない』と判断してしまった会社」の話を紹介します(実際の会社が特定できないように省略したり、表現を変えたりしているところがあります)。
1 日陰も休憩もほとんどない環境なのに、熱中症になったら自己責任と言われた……
社員数10人の屋根工事会社に勤めるベテラン社員のAさん。夏場の猛暑日が続く中、Aさんは屋根のふき替え作業を長時間続けていました。現場には日陰がほとんどなく、しかも社長が「早く終わらせよう」とせかすため、水分補給も十分にできません。そんな環境で仕事をしていたAさんは、作業中に突然、めまいや吐き気を感じ、倒れてしまいました。
同僚がAさんを日陰に移動させ、社長に報告しましたが、社長は「体調管理が甘かったんだろう」「水分をちゃんと取っていたら、こんなことにはならなかったはず」と、Aさんの自己管理不足を責める始末……。さらに、「大した症状ではないだろう」と判断し、労災対応や医療機関への報告も行わず、Aさんを自宅で休ませるだけにとどめてしまいました。
2 会社の安全配慮義務が原因で熱中症になったのなら、労災になり得る
業務中の事故でけがをした場合、それが労災になるかどうかは、
- 業務遂行性:その事故は、「会社の支配・管理下にある」ときに発生したのか
- 業務起因性:その事故は、「業務と因果関係がある」といえるか
を基準に判断されます。
Aさんは、屋根のふき替え作業中に突然、めまいや吐き気を感じたので、業務遂行性は認められるでしょう。問題は、業務起因性ですが、会社には安全配慮義務(労働者が安全に働けるよう配慮する義務)があるため、
安全配慮義務を果たさなかったことで事故が発生したのであれば、業務との因果関係があるとして、業務起因性が認められる可能性が高い
です。屋外作業や高温多湿の環境が原因で起こる熱中症は、会社が管理すべき作業環境が大きく影響します。Aさんのケースでは、「休憩を十分に与える」などの安全対策が取られておらず、安全配慮義務を十分に果たしているとはいえないので、労災になり得ます。「本人の体調管理が甘かった」「水分をちゃんと取らなかった」では済まされないのです。
3 万が一の発症時は、すぐ医療機関を受診&労災の手続きを
熱中症は重篤化すると生命に関わる危険があります。熱中症の疑いがある社員がいたら、まずは速やかに作業を中断させ、医療機関を受診するよう指示しましょう。労災であれば、
4日以上の休業が発生した場合、労働基準監督署に「労働者死傷病報告」を遅滞なく提出しなければなりません。4日未満でも、四半期ごと(3カ月ごと)にまとめて報告が必要
です(違反は労働安全衛生法により50万円以下の罰金の対象)。なお、2025年1月からは「電子政府の総合窓口(e-Gov)」での提出(電子申請)が義務化されています。
ここまでが、社員が熱中症になった場合の対応ですが、もちろん「予防」も大切です。
- 定期的な休憩時間の確保
- スポーツドリンクの用意
- 日除け・テントや遮光ネットの設置
- 冷却ベストやファン付き作業服の導入(作業服や保護具の通気性が悪い場合)
など、会社が取れる予防策は多岐にわたります。熱中症の初期症状(めまい、だるさ、吐き気、頭痛など)を社員に周知し、チーム全員で互いの体調をチェックし合えるようにするなど、安全衛生教育も不可欠です。
夏の建設現場は、何もしなくても熱中症になるリスクがあります。
社員の自己責任では片付けられない(会社が責任を問われる可能性がある)
ということを念頭に置いて、会社主導で積極的に対策を講じましょう。
以上(2025年6月作成)
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画像:ChatGPT