この記事では、現役社労士が直面した小さな製造業の労災の事例として、「休憩時間中、会社の設備が原因で負傷した社員について、『休憩時間中のけがだから、労災ではない』と判断してしまった会社」の話を紹介します(実際の会社が特定できないように省略したり、表現を変えたりしているところがあります)。

1 休憩時間中のフォークリフトとの接触事故で、労災保険を使わせなかった……

社員数15人の部品加工工場に勤めるEさん。工場内ではフォークリフトで材料や製品を移動させていますが、カーブミラーが未設置の曲がり角がある上、スペースが狭くて通路の区画が曖昧……。さらに休憩スペースの出入り口とフォークリフトが頻繁に通る通路が隣接していて、いつ接触事故が起きても不思議ではない状態です。

ある日の休憩時間中、Eさんは用を思い出して休憩スペースを出ようとした際、通路のカーブを曲がってきたフォークリフトに接触し、右足を骨折してしまいました。しかし、社長は「休憩時間中の事故だから労災ではない」と判断し、Eさんは健康保険で治療を受けることになってしまいました。

2 休憩時間中も、会社の施設内で発生した事故は労災になり得る

休憩時間中の事故については、社員が業務から解放されて自由に過ごせる状況であれば、原則として労災になりません。ただし、会社の施設内で休んでいて、かつ会社の設備が原因でけがをした場合は、

  • 緊急時など必要があれば、会社が社員に干渉できる(業務遂行性)
  • 会社が安全管理を怠り、社内に潜む危険が顕在化したといえる(業務起因性)

という理由から、労災認定されることがあります。

このケーススタディーでは、社長が「休憩時間中の事故だから労災ではない」と判断していますが、Eさんは休憩時間中、工場内の休憩スペースで過ごしているので、業務遂行性は認められるでしょう。加えて、

  • 曲がり角の見通しが悪いのに、カーブミラーが設置されていない
  • 休憩スペースが危険な位置にあるにもかかわらず、明確な動線区分がされていない

という、会社の安全管理が不十分な状態でフォークリフトと接触し、けがをしているので、業務起因性も認められるでしょう。つまり、労災認定される可能性が高いです。

3 事故が起きないよう、環境整備を徹底!

製造業の現場では、フォークリフトや台車など、車両と人との接触事故が起こりやすいです。「スペースが限られているし、ある程度の事故は仕方がない」というような考えだと、いざ事故が起きたとき、安全配慮義務違反で責任を問われることになりかねません。

まずは、会社としてできる限りの事故防止策が取れているかを確認しましょう。例えば、

  • 床にラインを引く、安全柵・ブザー・カーブミラーを設置するなど、物理的な環境整備を徹底する
  • 休憩スペースの配置を再検討し、通路をフォークリフトが横断しないようにする

といった具合です。また、フォークリフトの運転者だけでなく、休憩スペースを利用する全社員に対して、「危険箇所の共有」「利用時の注意点」を周知徹底する必要があります。

以上(2025年5月作成)

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画像:ChatGPT