この記事では、現役社労士が直面した小さな製造業の労災の事例として、「保護具を着用しなかったせいで負傷した社員について、『本人のミスなので労災ではない』と判断してしまった会社」の話を紹介します(実際の会社が特定できないように省略したり、表現を変えたりしているところがあります)。

1 保護メガネを着用しなかったという理由で、労災保険を使わせなかった……

社員数20人で、溶接作業が中心の工場に勤めるCさん。ある日、業務時間中に保護メガネの着用を忘れて作業していた際、目に金属片が入ってしまいました。Cさんは作業を中断し、水で洗い流すなどの応急処置をしましたが、痛みが激しく視界もぼやけた状態です。

社長に報告したところ、「保護メガネを着用せずにけがをしたなら自己責任。会社が補償する必要はない」と言われ、Cさんも「自分のミスだから仕方ない」と思い込んでしまいます。

病院に行くと角膜に傷ができており、医師から「数日間の安静が必要」と診断されました。しかし、社長は「有給休暇を使って休むように」と指示し、労災保険を使うことを拒否。結局、Cさんは健康保険で診療を受けなければならなくなりました。

2 「本人のミスかどうか」は労災認定には関係ない

業務中の事故でけがをした場合、それが労災になるかどうかは、

  • 業務遂行性:その事故は、「会社の支配・管理下にある」ときに発生したのか
  • 業務起因性:その事故は、「業務と因果関係がある」といえるか

を基準に判断されます。つまり、

事故が「本人のミスによるものかどうか」は労災認定には関係ない

ので、「自己責任だから労災申請しなくていい」という言い分は通用しません。

このケーススタディーでは、Cさんは会社の支配・管理下にある業務時間中に、溶接作業で生じる金属片によってけがをしているので、労災認定される可能性が高いでしょう。

3 社員への「安全衛生教育」を徹底する

社員が「故意に事故を起こした」「私的な用事をしていて事故に遭った」などの特殊なケースでなければ、業務中におきたけがは、基本的に労災になるので労災保険を使うことを徹底しましょう。

また、会社には社員がけがや病気をせずに働けるよう配慮する「安全配慮義務」があるので、

「安全衛生教育」の実施体制に問題があれば、会社は労災発生の責任を問われる

こともあります。現場に「作業中は必ず保護メガネを着用すること!」などの張り紙をした上で、社長や管理職からも口頭で指導する体制を整える必要があるでしょう。

なお、社員にも自身の健康を守り、安全に働けるよう努力する「自己保健義務」があるので、安全管理を徹底させるためにも、社内規程(就業規則本則や安全衛生管理規程)で、

  • 社員には作業前に保護具を着用する義務があること
  • 着用義務に違反し、注意・指導をしても改善しない場合、懲戒処分の対象とすること

などを定めておくとよいでしょう。

以上(2025年5月作成)

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画像:ChatGPT