突然ですが、御社では退職金制度を導入していますか? 一般的に社員数が少ない会社ほど、退職金制度の導入率は低く、また、最近では「もう社員が定年まで働く時代じゃないから……」と制度自体を廃止するケースも珍しくありません。
一方、社員の退職金制度に対するニーズは、もしかしたら今後高まっていくかもしれません。

「人生100年時代」といわれるほどの高齢化の陰で、公的年金の支給額が減少し続けていて、老後の生活資金が足りなくなる恐れがある

からです。仮に御社に充実した退職金制度があれば、今働いている社員は安心ですし、新たに社員を採用する際のPRなどにも使えるでしょう。
この記事では、退職金制度を導入したり、見直したりする予定のある会社が、退職金の支給額などを検討する材料として、まず老後の生活にどのぐらいの資金が必要なのかを紹介します。


あわせて読む【小さな会社の退職金制度】シリーズ

1 年金の保険料は増加、支給額は減少

年金支給額の画像です

厚生労働省「厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、2021年4月時点での公的年金(老齢基礎年金+老齢厚生年金)の支給額は、年175.2万円です。10年前は年182.4万円だったことから、10年間で7.2万円減額していることが分かります。1度の食事にかかる費用が約1000円だと仮定すると、24日分の食事代がなくなってしまう計算です。
年金支給額が減少している理由の1つは、「少子高齢化」により現役世代1人で支えなければならない高齢者の数が増加しているからで、この傾向は今後も変わらない可能性が高いです。だからこそ、もしも年金の支給額減少を退職金でカバーできるのであれば、それは社員にとっては非常に魅力的です。
とはいえ、退職金制度を充実させるには、そもそも老後の生活にどのぐらいの費用がかかるのかを知っておく必要があります。数年前に「老後2000万円問題」が話題になりましたが、本当に2000万円あれば足りるのでしょうか? 早速、シミュレートしてみましょう。

2 2000万円じゃ足りない? 老後資金のシミュレーション

高年齢者雇用安定法では、会社は定年を定める場合は60歳以上に設定し、なおかつ65歳まで社員が働ける措置(定年延長や再雇用制度など)を講じなければならないとされています。そこで、ここでは社員が65歳で退職した後の老後資金についてシミュレートしてみます。
なお、シミュレーションは統計データを参考にした一例です。実際の内容は、社員の生活水準や希望するライフスタイルによって大きく変わることを理解しておきましょう。

1)夫婦2人暮らしのケース

夫婦2人暮らしのケースの画像です

総務省統計局「家計調査年報」によると、2021年における65歳以上の夫婦のみの無職世帯の実収入は月23.7万円です。年金などで社会人(大学卒)の初任給くらいのお金が入ってきます。一方、同じ世帯にかかる生活費は、月25.5万円です(22.4万円が食費や住居・水道光熱費などの消費支出、3.1万円が税金や社会保険料などの非消費支出)。

実収入(23.7万円)から生活費(25.5万円)を引くと、毎月1.8万円の赤字

になります。厚生労働省「簡易生命表」によると、2021年における平均寿命は、男性が81.47歳、女性が87.57歳ですから、退職してから20年以上赤字続きになる可能性があります。
 65歳で退職して夫婦ともに85歳まで生きると仮定した場合、

  • 実収入:23.7万円×12カ月×20年=5688万円
  • 生活費:25.5万円×12カ月×20年=6120万円
  • 実収入-生活費:5688万円-6120万円=-432万円

ですから、83歳から84歳にさしかかるタイミングでお金がなくなってしまうことになります。432万円分の老後資金を何らかの方法で補填しないといけません。そして、仮にこの先90歳、95歳と平均寿命が延びていけば、補填すべき額はさらに大きくなります。
ちなみに、「老後2000万円」が話題になった際に取り上げられた2017年の家計調査年報では、毎月5.5万円の赤字でした。近年はコロナ禍で消費支出が落ち着いていましたが、今後はコロナ禍前の状態に戻っていくことも考えられます。

2)独身のケース

独身のケースの画像です

家計調査年報によると、2021年における65歳以上の単身無職世帯の実収入は月13.5万円です。年金などでフルタイムのパートくらいのお金が入ってきます。一方、同じ世帯にかかる生活費は月14.4万円です(13.2万円が食費や住居・水道光熱費などの消費支出、約1.2万円が税金や社会保険料などの非消費支出)。

実収入(13.5万円)から、生活費(14.4万円)を引くと、毎月0.9万円の赤字

になります。
 夫婦2人暮らしのケースと同じく、65歳で退職して85歳まで生きると仮定した場合、

  • 実収入:13.5万円×12カ月×20年=3240万円
  • 生活費:14.4万円×12カ月×20年=3456万円
  • 実収入-生活費:3240万円-3456万円=-216万円

ですから、こちらも83歳から84歳にさしかかるタイミングでお金がなくなってしまうことになります。
 ちなみに、2017年の家計調査年報では、毎月4.1万円の赤字でした。独身の場合も夫婦2人暮らしのケースと同じように、消費支出がコロナ禍前の状態に戻っていく可能性に注意する必要があるでしょう。


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3 どんな退職金制度なら老後資金を賄えるの?

前章のシミュレーションで、年金などの実収入だけでは老後資金を賄いきれないことが分かりました。退職金制度の内容を検討する際の1つのポイントは、

老後資金の赤字(「実収入-生活費」のマイナス分)を退職金で補えるかどうか

です。前章のシミュレーションの数字を参考にするなら、夫婦2人暮らしの場合はあと432万円、独身の場合はあと216万円を、退職金で補う必要があります。ただ、前述した通り、家計の赤字は今後広がっていく可能性があるので安心はできません。
ちなみに、東京都産業労働局「中小企業の賃金・退職金事情」によると、中小企業の社員(大学卒の場合)が定年退職時にもらえる退職金は、2022年平均で約1092万円です。また、退職金制度の導入率は減少傾向にあるものの、それでも2022年時点で71.5%の中小企業が導入していますから、制度を社員に魅力的に見せるには、ある程度工夫が必要です。
社員にとって魅力的な退職金制度の選択肢としては、

  • 同業他社よりも多くの退職金を払う
  • 運用次第で退職金を増やせる制度を導入する
  • 退職金が多く支払えないなら、老後資金を補う他の福利厚生を導入する

などがあります。制度の例をいくつか紹介しましょう。

制度の例の画像です

こうした退職金制度をうまく活用すると、社員は老後資金の赤字を補うだけでなく、逆に黒字に転じさせて自分の趣味や大切な人のために使うお金を作れる可能性も出てきます。
ただ、退職金制度にはメリットと同時にデメリットもあります。ここでは詳細を割愛しますが、例えば企業型DCのように社員が自分で運用する制度の場合、運用成績に応じて退職金を増やせる可能性がある反面、運用に失敗すると元本割れしてしまう恐れがあるのです。
退職金制度ごとのメリット・デメリットや、実際に運用する場合のアクションプランについては、こちらの記事に記載していますので、参考にしてみてください。

「退職一時金 vs 企業年金」「DB vs 企業型DC」魅力的なのはどっち?


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【小さな会社の退職金制度】シリーズ

以上

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