書いてあること

  • 主な読者:社員に健康で長く働いてもらいたい経営者
  • 課題:社員の高齢化が進むと生活習慣病などのリスクが高まってくる
  • 解決策:福利厚生として会社の負担を抑えつつ、社員に人間ドックの受診を励行して健康経営を進める。SDGsにもつながる

1 実はニーズが高い「人間ドック受診の補助」

社員の高齢化が進むと、加齢によって

生活習慣病(脂質異常症(高脂血症)、高血圧症、糖尿病など)予備軍も増加

します。生活習慣病を放っておくとさまざまな問題が起こるため、会社としても放っておけません。そこで提案するのが「人間ドック」の受診です。人間ドックには、

  • 定期健康診断などよりも検査項目が多く、自覚症状のない病気なども早期発見できる可能性がある
  • 脳疾患や心臓疾患、性別に特有のがん、など分野を絞って受診することもできる

といった特徴があります。

実は、社員の人間ドック受診へのニーズは高く、過去に労働政策研究・研修機構が、会社員8298人の「自分にとって特に必要性が高い福利厚生」を調査した際も、「人間ドック受診の補助」が第1位(21.8%)になっています(労働政策研究・研修機構「企業における福利厚生施策の実態に関する調査(2020年7月)」)。

ただ、人間ドックは高額で、日帰りで3万円から7万円程度、1泊2日で4万円から10万円程度となります(地域や医療機関によって異なります)。また、原則として医療費控除の対象にもなりません。だからこそ、人間ドックの受診費用を会社が補助してあげれば、社員の健康維持、モチベーションアップを同時に実現することができるのです。

この記事では、社員に健康で長く働いてもらいたいと考える経営者向けに、法定外の福利厚生制度として「人間ドック受診の補助」を行う際のポイントを解説します。

2 人間ドックの受診費用を経費で処理するためには

人間ドック受診の補助に関して、一定の要件を満たす場合には、福利厚生費(経費)として処理して差し支えないものと考えられます。ただし、税務署から指摘された場合には、会社は損金にできませんし、社員も給与等として所得税が課税されますので、実際に行う場合は、税理士などの専門家へよくご相談されてください。

なお、一定の要件を満たした上で、きちんと取り組みがされていることを証明するために、人間ドックの受診について就業規則に定め、また実際に人間ドックの受診をする際は社員が希望するか否かを聞いて、その結果も残しておくことをお薦めします。

1)全社員に受診機会があること

全社員が受診できるようにしておく必要があります。よく役員だけが人間ドックを受診しているケースがありますが、これだと福利厚生費とはなりません。

一方、健康管理の必要性から「一定年齢以上の希望者」を対象とすることはできます。例えば、全社員に健康診断を実施した上で、生活習慣病予防のため、年齢35歳以上の希望者全員の2日間の人間ドックによる受診費用の一部を負担するといった具合です。

2)人間ドックの費用は、実費費用の範囲内で会社が負担すること

人間ドックの受診費用は、実費費用の範囲内で会社が負担する必要があります。なお、社員の請求に基づいて会社が社員に受診費用を支払う場合でも、会社が当該受診費用を負担したことに変わりはないものと考えられます。その場合は、領収書を保管し、実費費用の範囲内であることが確認できるようにしておきましょう。実際の受診費用を超えて補助を行うと、福利厚生費として認められませんので注意が必要です。

3)常識範囲内の金額であること

社員が受ける経済的利益が著しく多額である場合は、原則として、福利厚生費として認められません。なお、国税庁の質疑応答事例にある「一般的に実施されている人間ドック程度の健康診断の実施が義務付けられている」との記載から、前述した人間ドック1泊2日の場合の費用(4万円から10万円)程度であれば、許容範囲であると考えられます。

■国税庁 質疑応答事例「人間ドックの費用負担」■

https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/gensen/03/03.htm

3 人間ドックでの検査の特徴―時短・お手軽な検査も登場

1)自覚症状のない病気なども早期発見できる可能性がある

労働安全衛生法により実施が義務付けられている健康診断(定期健康診断)では、社員が受診すべき法定項目が決められています。人間ドックの検査項目は定期健康診断などの法定項目よりも多く、自覚症状のない病気なども早期発見できる可能性があります。

日本人間ドック学会が公表している「人間ドック(1日)の基本検査項目」と「定期健康診断の法定項目」を比較すると次のようになります。

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2)分野を絞って受診することもできる

脳疾患や心臓疾患、性別に特有のがん(子宮がんなど)など、分野を絞って集中的に検査できる医療機関もあります。例えば、社員に健康上の不安に関するアンケートなどを実施し、特に不安の多い疾病などがあれば、人間ドックで集中的に検査するという運用が考えられます。

その他にも、

  • 遺伝子検査を取り入れた「遺伝子検査付き人間ドック」
  • X線画像をAIが解析し、疾病リスクを予想する「疾病リスク予測AI」

などの最新の検査手法もオプションとして取り入れる診療機関が増えてきました。

「遺伝子検査」は、将来発症する可能性のある病気を見つけるDNA検査と体内にがん細胞があるかどうかを検出することのできるRNA検査があります。検査により、各種がんの発症や細胞の老化度などが分かります。

「疾病リスク予測AI」は、1年分の健康診断データを基に、「〇年後の△疾病リスクが□%」という数値を予測します。予測できる疾病は、利用する医療機関によって異なりますが、各種がんや糖尿病、心臓疾患、認知症などです。

3)時短・お手軽な検査も登場

従来の人間ドックは、短いものでも検査に数時間を要することが多かったですが、最近は、

  • 約30分で脳ドックの受診が終わる「スマート脳ドック」
  • 血液・尿を郵送してがんや生活習慣病の検査をする「オンライン人間ドック」

など、あまり時間のかからない検査も登場しています。

「スマート脳ドック」は、Webでの予約と問診票を事前に送付し、検査後の受診結果をパソコンやスマートフォンから確認できるようにして、滞在時間を短縮した脳ドックです。検査内容は通常の脳ドックと同じで、頭部MRIやMRA(脳血管の立体画像検査)、頸部MRAなどを実施します。

「オンライン人間ドック」は、自分で採取した数滴の血液と尿を郵送すると、検査機関が検査し、2~3週間後に、検査結果を自宅に届けるものです。検査結果を見て電話やチャットで相談できるサービスもあります。

4 人間ドックの受診が求められる背景

1)約6割が40歳以上―日本の労働市場

現在の日本の労働市場では、40歳以上の人が労働力の多数派で約6割をしめています。

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2)定期健康診断受診者の約6割が「異常あり」

厚生労働省の「定期健康診断実施結果報告」によると有所見率(健康診断を受けた人のうち、「異常なし」以外の人の割合)は、2008年に50%を超え、2022年は58.3%となっています。

年齢や性別は調査対象外のため傾向は分かりませんが、約6割の人が何らか「異常あり」。そして、再検査や治療を受けるように促されても、忙しいからなどといって後回しにしがちです。

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3)健康経営への関心の高まり

経済産業省は、特に優良な健康経営を行っている会社を認定する「健康経営優良法人認定制度」を行っており、申請・認定件数は年々増加しています。

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補足:SDGsにも資する

2030年に17のゴールを目指しているSDGsでは、その3に「すべての人に健康と福祉を」、8に「働きがいも経済成長も」というゴールを設定しています。

福利厚生の充実をはじめとした健康経営は、

  • 3 すべての人に健康と福祉を
  • 8 働きがいも経済成長も

の達成に資することになります。社員の健康を支援することは、社員がいきいきと長期的に働くこと、ひいては労働生産性の向上と社会の持続的な成長へとつながるのです。

以上(2024年4月更新)
(監修 株式会社フェアワーク 吉田健一)

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画像:fpdress-Adobe Stock

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