書いてあること

  • 主な読者:私傷病休職から復職する社員に、時短勤務を適用することを検討している経営者
  • 課題:当面の間、社員の働き方が変わることになるが、何に注意すればよいか分からない
  • 解決策:時短勤務の労働条件(労働時間や賃金など)が曖昧だと社員とトラブルになる。会社と社員との間で合意書を取り交わし、労働条件を明確にしておく

1 デリケートな復職時こそ、労働条件を明確にする

「休職」とは、社員が私傷病(仕事以外の理由によるケガや病気)で働けない場合、労働契約を維持したまま、労働を一定期間免除する制度です。会社が就業規則等で休職期間の上限を定め、社員が休職期間の満了前に働ける状態にまで回復したら「復職」させる、というのが一般的な流れです。

とはいえ、復職は非常にデリケートな問題で、社員が復職直後から休職前と同じように働こうとして再び体調を崩し、そのまま退職してしまうケースなどが少なくありません。私傷病の内容などにもよりますが、

復職後は当面の間、労働時間の短縮(いわゆる「時短勤務」)などによって業務の負担が軽くなるよう配慮し、経過を見ながら徐々に従前の働き方に戻していく

のが無難です。

ただし、休職前と復職後で労働条件が変わる場合、あらかじめその変更内容について会社と社員が合意しておかないと、トラブルになる恐れがあります。特に時短勤務の場合、労働時間や賃金について、次のような点に注意する必要があります。

  • 社員が無理なく働ける労働時間か、始業・終業時刻のルールや時間外労働の有無などを明確にしているか
  • 労働時間を短縮した分だけ賃金の支給額が減る場合、具体的な支給額や計算方法などを明確にしているか

次章では、私傷病休職からの復職時を想定した「時短勤務の労働条件の合意書」のひな型(専門家監修付き)を紹介します。

2 「時短勤務の労働条件に関する合意書」のひな型

以降で紹介するひな型は、一般的な事項をまとめたものであり、個々の企業によって定めるべき内容が異なってきます。実際にこうした規程を作成する際は、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。

【時短勤務の労働条件に関する合意書】

株式会社○○(以下「甲」)と、従業員○○(以下「乙」)は、乙が○年○月○日から開始する時短勤務の労働条件について、下記の通り合意する。

第1条(目的)

本合意書は、乙が私傷病休職(○年○月○日から○年○月○日まで)から復帰後、休職事由の発生以前の通常の業務と、質・量ともに同程度の業務(以下、通常の業務という)を遂行できる状態に回復するまでの間、時短勤務を行うために必要な労働条件を定めることを目的とする。

第2条(適用)

1)変更後の労働条件は、第4条から第7条までの通りとする。本合意書に定めのない労働条件については、原則として従前(当該私傷病休職の開始日の前日である○年○月○日以前、以下同じ)の通りとする。ただし、従前の内容を適用することに支障があるものについては、甲乙が合意の上、労働条件を決定する。

2)本合意書で定める労働条件の適用期間は、○年○月○日から○年○月○日までの3カ月間とする。ただし、甲が必要と判断した場合、その期間を短縮することがある。

第3条(時短勤務の終了)

1)時短勤務終了時に、乙が通常の業務を遂行できる状態まで回復していると認められる場合は、原則として従前と同一の労働条件で復職するものとする。ただし、従前の内容を適用することに支障があるものについては、甲乙が協議の上、労働条件を決定する。

2)時短勤務終了時に、乙が通常の業務を遂行できる状態まで回復していると認められない場合は、甲は乙に対し、再度の休職を命じることがある。ただし、甲が必要と認める場合は、時短勤務期間を3カ月間、1回に限り延長することができる。

3)甲は第1項、第2項において、乙が通常の業務を遂行できる状態に回復したかを判断するため、乙に対し、医師の診断書の提出を求めることがある。また、甲が診断書を作成した医師に面談を求めた場合、乙はその実現に協力しなければならない。

4)甲が第2項において、乙に対し、再度の休職を命じる場合の休職期間および休職期間を満了した場合の取り扱いについては、就業規則第○条による。

第4条(労働時間)

1)甲は、乙の心身の状態と本人の希望を考慮の上、1日8時間、1週40時間の範囲内で、日・週ごとの労働時間を決定し、乙に対し事前に通知する。

2)甲は、乙の心身の状態と本人の希望を考慮の上、午前8時から午後5時の間で始業・終業時刻を日毎に決定し、乙に対し事前に通知する。

3)乙は、第2項により事前に通知された始業時刻に遅刻し、もしくは終業時刻前に業務を終了する場合、甲に都度報告しなければならない。

4)乙は時短勤務中、甲が特別に認めた場合を除き、時間外労働、休日労働、深夜労働をしてはならない。

第5条(業務内容)

甲は、乙の心身の状態と本人の希望を考慮の上、業務内容を決定する。

第6条(休日・休暇)

休日・休暇の扱いは、従前の通りとする。

第7条(賃金)

1)賃金は、日給月給制から時給制に変更する。

2)時給単価は、業務内容、従前の基本給・諸手当の金額等を勘案し、○○円とする。

3)通勤手当は、実費を支給する。

4)割増賃金等(所定労働時間外の労働に対する賃金、法定労働時間外の労働に対する割増賃金、法定休日の労働に対する割増賃金、深夜の労働に対する割増賃金)の扱いは、従前の通りとする。

5)控除項目(健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料、所得税、住民税、持株会拠出金など)の扱いは、従前の通りとする。

上記内容を証するために本合意書2通を作成し、甲、乙、立会人が記名捺印の上、甲乙が各々1通を所持する。

○年○月○日

 

       甲

 

       乙

 

               立会人

以上(2024年4月更新)
(監修 社会保険労務士 志賀碧)

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画像:ESB Professional-shutterstock

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