新型コロナウイルス感染症の拡大を受けて、採用市場で改めて注目されているのが、SNSを利用した就職・採用活動「SNS採用」です。多くの企業が対面での説明会や選考を取りやめ、SNSをはじめとするウェブ媒体を使った採用方法にシフトチェンジしています。
携帯電話販売を行うアロージャパンは、まだSNS採用がメジャーではなかった頃からLINEを活用した採用に取り組み始め、2015年からは子会社を通じて自社のノウハウを踏まえたコンサルティングなどの支援も行っています。
この記事では、アロージャパンなどの成功事例を基に、SNS採用を成功させるために実践すべきことを紹介します。

1 SNS採用の特徴・メリット

SNS採用は「ソーシャルリクルーティング」と呼ばれ、Twitter、Instagram、LINEなどのソーシャルネットワークサービス(以下「SNS」)を使った採用方法のことです。
SNS採用のメリットは、非対面で採用活動ができる、コストが低いといったことだけではありません。次のような特徴を活かすことで、企業は従来の採用方法にはないメリットが得られます。

1)応募の増加や、辞退率の低下が期待できる

SNS上では、DM(ダイレクトメッセージ)や、返信機能を用いて手軽にコンタクトをとることができます。
「株式会社○○、〇〇課、〇〇様――」。
SNSではこのような、いわゆるビジネスメールのような前置きが不要です。手軽にエントリーができるため、求職者側にとって、問い合わせのハードルが下がります。その手軽さから、人気企業のSNSには毎日100件近くDMが来ることもあります。言うまでもありませんが、採用で成功するための第一歩は、数多くの応募があることです。
また、企業と求職者とが手軽にコンタクトでき、互いに繋がる頻度や密度が高まることは、求職者の反応を見ることができるとともに、彼らのハートを掴みやすくなるというメリットもあります。法人向けコンサルティングを営む日本創造教育研究所(日創研)は、合同説明会などの参加者の多くが、次の選考に進んでくれないことが大きな課題でした。従来は合同説明会に30人が参加しても、次の選考に進むのは5人ほどでした。ところが、LINE採用のツールを導入し、参加者に対して説明会後もメッセージを送るようにしたことで、次の選考に進む人数が10人に増えました。
さらに同社では、従来は25人の内定者のうち8人が内定を辞退していましたが、LINE採用のツールの導入後は、内定辞退者が2人にまで減少しました。同社からのLINEを通じたメッセージが確実に届き、内定者へのフォローの効果を高めた結果、内定者の同社に対する帰属意識を強めることに繋がったことが要因といえるでしょう。

2)リアルな社内の雰囲気などが伝わりやすいので、ミスマッチが起こりにくい

SNSではナビ媒体(就活サイト)とは違い、企業と求職者の双方が情報の発信、または受け取ることができます。
ナビ媒体は企業側が一方的に情報を開示しており、掲載される情報量は限定的で、更新頻度もそこまで高くありません。一方、SNS上で発信される情報は鮮度が高く、実際の社員同士のやりとりや求職者の率直な感想が伝えやすいため、求職者に社内のリアルな雰囲気や、社風などを知ってもらうことができます。その上で応募してくれる求職者は、自社に共感してくれた、モチベーションの高い人材といえるでしょう。
また、企業にとっては、求職者のSNS上での投稿や、メッセージのやり取りから、面談時に比べて「飾っていない」状態の人となりや様子をうかがい知ることができます。これは選考時に、評価の参考になるでしょう。

3)自社が求める潜在層に直接アプローチが可能

良質な「求職者潜在層」に直接アプローチができるのも、SNS採用の特徴・メリットといえます。SNSのユーザーは、自分の興味・関心に近いアカウントをフォローし、情報収集をしています。こうしたユーザーの多くは、「いますぐには、就職・転職は検討していない」という人です。しかし、企業が日ごろからSNS上で情報発信をし、SNS採用に取り組んでいることが認知されていれば、こうしたユーザーの就職・転職先候補として検討対象に上がります
また、実際に企業説明会を実施する場合で考えてみましょう。従来であればナビ媒体に説明会日時を掲載し、応募のあった人を招待するだけでした。
一方、SNSの場合「会社説明会を開催しますよ」という情報を流した時点で、既読人数や「いいね」などの反応が見られ、実際にどのくらいの人数が興味を示しているのか知ることができます。さらに、SNSの特徴であるシェアや「いいね」は情報を拡散させることができるため、ターゲットの周辺にいるグループを含めて、広く情報を拡散させることができます。

2 スタートから運用までの具体的な流れと成功のための心得

1)目的に合ったSNSのアカウントを取得

これまでの採用活動と同様に、SNS採用でも「どういう人材がほしい」「どのくらいの年齢がよい」など、ある程度の求める要件を定めた上で採用計画を立てるやり方は変わりません。どこ(Where)の、誰(Who)に、どんな情報(How)を届けたいのか、を明確化した上で、運用するSNSを決めるのがよいでしょう。
まずSNSのアカウントを作成する前に、「自分たちが採用したいセグメントに合ったSNSはどれか」を判断します。例えば、比較的年齢が若くアクティブな層を狙いたいのであればInstagram。ピンポイントに情報発信し、コミュニケーションを目的とするのであればLINE。幅広いターゲットへの情報発信やファン化(ブランディング)をするのならTwitterなどです。後述しますが、アカウントの数が多すぎると投稿頻度が減って逆効果になることもありますので、運用するSNSの選択は重要です。

2)「毎日投稿」が原則

運用するSNSが決まった後は、投稿内容(投稿テーマ)を考えます。
ここで重要なのは「毎日投稿」することです。毎日投稿を行う理由は、SNSは常にアクティブであることが効果的だからです。今や日常生活に当たり前のように存在するSNSに対して、ユーザーが求めているのは「新鮮で有益な情報」であり、新鮮さをアピールするためには投稿頻度が高いことが重要です。
人員の確保が難しく、どうしても毎日投稿が困難な場合は、週2~3回の投稿でもよいでしょう。新鮮さは欠けてしまいますが、しっかりとアカウントが生きている証として、運用していくことに意味があります。

3)パッと見て「どんなアカウントなのか」判断ができるように

ターゲットと目的を決めて、投稿内容の方向性も決定したら、アカウントを開設します。
アカウント開設時には、アイコンやプロフィールの入力も必要になります。企業情報を発信するアカウントなら会社をアイコンにしましょう。発信者が明確で、人間味を出すのであれば顔写真などを使います。投稿内容に合わせたアイコンに設定し、プロフィールは「どんなアカウントなのか」を説明する内容を記載します。
また、TwitterやInstagramなどのSNSには、プロフィールにリンクを掲載することができます。複数のSNSを運用する場合は、URLを掲載して導線を確保しておくと、一度に複数のSNSのアカウントを見てくれる可能性があるので、効率的に運用することができます。
アカウント開設後はまだまだ認知度も低く、フォロワーや友達人数を一気に増やすことは難しいですが、積極的に投稿を行ったり、フォローしてくれた人に対してお礼のメッセージを送ったりするだけでもグッとファンが増えます。
手軽にコンタクトがとれるからこそ、企業がユーザーにとって身近な存在になり、ファン化しやすくなるのがSNS採用におけるメリットでもあります。

3 SNS採用の効果を高める、経営者など個人のブランディング

1)「社風を知ってから企業概要を知る」がSNSの在り方

SNSがどれだけ採用に有用かということは理解していただけたかと思いますが、1つポイントとして必ず知っておくべきことがあります。それは、ファーストインプレッションが今までとは逆になるということです。
従来のナビ媒体の場合、企業名や事業内容などの企業認知から入り、説明会や面接を経て働いている人や社風を知るといった流れですが、SNS採用ではそれが全く逆。働いている人や社風などを知ってから企業名、事業内容などの企業概要の認知にいたります。
つまり「会社認知→社風などを知る」ではなく、「社風などを知る→企業概要の認知」と、今までとは入口が逆になるのです。この点を意識した上で、SNS採用に取り組むことが大切です。それでは、実際にどのように情報発信をしていくべきなのか、以降では事例を挙げてポイントを紹介します。

2)23人の企業の社長に7.4万人のフォロワー

トゥモローゲート株式会社は従業員総数23人(2020年11月時点)という小規模な企業ながらも、SNS上で「ブラックな企業」というワードで非常に話題となりました。それを発信した西崎康平社長のツイートが有益なものであることも相まって、Twitterフォロワー数はなんと7.4万人(2020年11月時点)にも及んでいます。
これは「ブラックな企業」と銘打ってアピールし、過酷な労働を強いる「ブラック企業」を避けたい学生がインターネットで検索すると、トゥモローゲートにたどり着くという仕組みです。実際には、真っ黒なオフィス、真っ黒なHPなど、コーポレートカラーがブラックというだけなのですが、このようなプロモーション戦略で2000名もの学生からエントリーがありました。
また、アロージャパンでは「ざっきーとゆってぃー」という採用担当者の日常を配信するアカウントがTikTokで人気を博し、今では34万人(2020年11月時点)のフォロワーがいます。採用担当の普段の様子をSNSで知ることで、採用担当に興味を持った人が企業にも興味を持ち始めるという流れができています。アロージャパンへの選考に関する問い合わせは、TikTok運用前と比較して2倍以上に増えました。
このように、従来までの事業内容などから入る形は、SNS採用ではなかなか通用しづらいのが現状です。まずは、経営者の人となりや、社風を知ってもらうための情報発信がSNS採用を成功させる最も有効な手段なのではないでしょうか。

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2020年12月29日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

※上記内容は、株式会社日本情報マートまたは執筆者が作成したものであり、りそな銀行の見解を示しているものではございません。上記内容に関するお問い合わせなどは、お手数ですが下記の電子メールアドレスあてにご連絡をお願いいたします。

【電子メールでのお問い合わせ先】
inquiry01@jim.jp

(株式会社日本情報マートが、皆様からのお問い合わせを承ります。なお、株式会社日本情報マートの会社概要は、ウェブサイト https://www.jim.jp/company/をご覧ください)

ご回答は平日午前10:00~18:00とさせていただいておりますので、ご了承ください。

Leave a comment

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です