書いてあること

  • 主な読者:残業代の計算ミスがないか確認したい経営者、労務担当者
  • 課題:24時間を超えての労働や振替休日など、“たまに出くわす”ケースでの計算に不慣れ
  • 解決策:「労働時間にならない時間」を誤って計算にカウントしていないか確認する

1 知らないうちに発生している? 残業代の未払いや過払い

残業代の計算は意外と複雑で、計算ミスによる未払いや過払いが珍しくありません。計算ミスに気付けば後から過不足を訂正できますが、あまりミスが頻発するようでは社員も不安です。

そこで、この記事では間違えやすい残業代の計算ルールを問題形式で3つ紹介します。次の用語は重要なので、問題に取り組む前に押さえておきましょう。

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なお、残業代には明確な定義がないので、この記事では

所定外労働(時間外労働、休日労働、深夜労働、所定外の法定内労働)に対する賃金

を残業代として扱います。

2 “日またぎ勤務”があった場合の残業代はどう計算する?

1)問題

Aさんの労働条件は次の通りです。

  • 法定労働時間:1日8時間、1週40時間
  • 所定労働時間:9~18時までの8時間(休憩1時間)
  • 法定休日:日曜日
  • 賃金体系:日給月給制(1カ月単位で賃金を計算し、その後不就労分の賃金を控除)
  • 1時間当たりの賃金額:1500円(便宜上、これを残業代の算定基礎額とします)
  • 割増賃金率:時間外労働が25%、休日労働が35%、深夜労働が25%

ある月に、Aさんは次の勤怠管理表の通り働きました。この月のAさんの残業代はいくらになるでしょうか? 赤字の部分に注目しながら考えてみてください。

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2)答え:9万8400円

労働時間を計算する際は、原則として

  • 0~24時までの暦日を「1日」
  • 日曜日から土曜日までの暦週を「1週」(1週間の起算日について特に定めがない場合)

として扱います。なお、1日の労働が24時を超え翌日に及ぶ、いわゆる“日またぎ勤務”をする場合、原則として始業時刻が属する日の労働として扱います。ただし、

  • 1日の労働が24時を超え法定休日に及ぶ場合、24時以降の労働は休日労働になる
  • 法定休日の労働が24時を超え平日に及ぶ場合、24時以降の労働は休日労働にならない

というルールがあるので注意が必要です。

これを基に考えると、この月のAさんの所定外労働は次の通りとなります。

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5日(木)と13日(金)は、どちらも9~26時までを、1日の労働として扱います。

21日(土)は、24~26時までを、22日(日)の0~2時までの労働として扱います。なお、21日(土)の9~24時までの労働は、全て時間外労働です。20日(金)の時点で第3週の実労働時間(時間外労働・休日労働を除く)が40時間(8時間×5日)で法定労働時間に達するからです。

29日(日)は、24~26時までを、30日(月)の0~2時までの労働として扱います。30日(月)は、0~2時までと9~18時までの実労働時間の合計が10時間(休憩1時間を除く)になるので、2時間(10時間-8時間)の時間外労働が発生します。

以上から、この月のAさんの残業代

9万8400円=1500円×(32時間×1.25+16時間×1.35+16時間×0.25)

となります。

3 振替休日や代休を取得した場合の残業代はどう計算する?

1)問題

Bさんの労働条件は次の通りです。

  • 法定労働時間:1日8時間、1週40時間
  • 所定労働時間:9~18時までの8時間(休憩1時間)
  • 法定休日:日曜日
  • 賃金体系:日給月給制(1カ月単位で賃金を計算し、その後不就労分の賃金を控除する)
  • 1時間当たりの賃金額:1500円(便宜上、これを残業代の算定基礎額とする)
  • 割増賃金率:時間外労働が25%、休日労働が35%、深夜労働が25%

ある月に、Bさんは次の勤怠管理表の通り働きました。この月のBさんの残業代はいくらになるでしょうか? 赤字の部分に注目しながら考えてみてください。

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2)答え:4万4400円

今回の問題で注意すべきは、「振替休日」と「代休」です。

  • 振替休日:あらかじめ法定休日として定められていた日を労働日とし、他の労働日に法定休日を振り替えること
  • 代休:法定休日に働いた後で、他の労働日を休日に代えること

例えば、日曜日が法定休日の場合、振替休日を行うと、日曜日の労働は休日労働でなくなります。一方、日曜日に働いた後で代休を取得しても、日曜日の労働は休日労働のままです。

これを基に考えると、この月のBさんの所定外労働は次の通りとなります。

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1日(日)と5日(木)、8日(日)と13日(金)は、振替休日により法定休日が入れ替わります。つまり、1日(日)と8日(日)の労働は、休日労働にならないということです。ですから、8日(日)の18~24時までの労働は、時間外労働になります。

15日(日)と18日(水)も、振替休日により法定休日が入れ替わります。ただし、Bさんは一度18日(水)に休日を振り替えたものの、当日急な仕事が入り出勤しています。既に18日(水)に法定休日が入れ替わっているので、この日の9~18時までの労働は休日労働になります。

22日(日)と25日(水)は、25日(水)が代休のため、法定休日は入れ替わりません。ですから、22日(日)の9~18時までの労働は休日労働になります。

以上から、この月のBさんの残業代は

4万4400円=1500円×(6時間×1.25+16時間×1.35+2時間×0.25)

となります。ただし、Bさんの会社は日給月給制を導入しているので、代休を取得した25日(水)の賃金は、不就労分として控除できます。ですから、実質的な支払額は

3万2400円=4万4400円-1500円×8時間

となります。

4 働いていない時間があった場合の残業代はどう計算する?

1)問題

Cさんの労働条件は次の通りです。

  • 法定労働時間:1日8時間、1週40時間
  • 所定労働時間:9~18時までの8時間(休憩1時間)
  • 法定休日:日曜日
  • 賃金体系:日給月給制(1カ月単位で賃金を計算し、その後不就労分の賃金を控除する)
  • 1時間当たりの賃金額:1500円(便宜上、これを残業代の算定基礎額とする)
  • 割増賃金率:時間外労働が25%、休日労働が35%、深夜労働が25%

ある月に、Cさんは次の勤怠管理表の通り働きました。この月のCさんの残業代はいくらになるでしょうか? 赤字の部分に注目しながら考えてみてください。

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2)答え:1万4250円

始業時刻(終業時刻)が定時より前(後)だからといって、必ず時間外労働が発生するわけではありません。例えば、年次有給休暇の取得中は、そもそも労働義務が免除されているので、労働時間にはなりません。そして、これらを除外して計算した労働時間が法定労働時間の範囲内であれば、時間外労働は発生しないことになります。

これを基に考えると、この月のCさんの所定外労働は次の通りとなります。

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2日(月)の労働のうち、13~15時までの2時間は、時間単位の年次有給休暇を取得しているので、労働時間にはなりません。ですから、18~21時までの3時間のうち、1時間(3-2時間)が時間外労働、2時間が法定内労働となります。

18日(水)の労働のうち、18~21時までの3時間は時間外労働です。この日は13~14時までと15~16時までの計2時間、自社と取引先を往復していますが、この移動時間は労働時間になります。移動時間中は、直接業務を行っていなくても、業務から離脱して自由に行動することができず、会社の指揮命令下にあるからです。

26日(木)の労働のうち、18~20時までの2時間は時間外労働です。この日は18~20時まで外部のセミナー(業務命令)に参加していますが、この時間は労働時間になります。「参加義務のある研修・教育訓練の受講や、使用者の指示により業務に必要な学習等を行っていた時間は、原則として労働時間になる」とされているからです。

以上から、この月のCさんの残業代は

1万4250円=1500円×(6時間×1.25+2時間×1)

となります。

以上(2024年6月更新)
(監修 社会保険労務士法人AKJパートナーズ)

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画像:unsplash

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