書いてあること

  • 主な読者:うつ病から復職した社員の症状が再び悪化した場合の対応を知りたい経営者
  • 課題:再度の休職は可能か? 休職期間が残っていない場合はどうすればいいか?
  • 解決策:休職期間の「通算」のルールを確認する。休職期間が残っていない社員を雇用し続けたい場合、雇用形態の変更など働き方のルールを変える

1 復職した矢先に再び症状が悪化するケースは珍しくない

「休職(私傷病休職)」とは、

社員が私傷病(仕事以外の理由によるケガや病気)で働けない場合、労働契約を維持したまま、一定期間労働義務を免除する制度

です。就業規則で定めた休職期間が満了するまでに社員が働ける状態に回復したら「復職」、そうでなければ「自然退職」となるのが一般的な流れです。

もちろん復職できるのが理想ですが、うつ病のように完治の判断が難しい病気の場合、

社員が復職した矢先に、再び症状が悪化してしまうケース

は珍しくありません。経営者としては、「社員に働く意思があるなら、症状が改善するまで根気強く待ってあげたい」という気持ちもあるでしょう。ただ、他の社員との兼ね合いもあり、ある程度はルールに基づいて対応せざるを得ないのがつらいところです。

そこで、この記事では、「復職した社員の症状が再び悪化しても、雇用を継続できるようにするにはどうすればよいか」を、次の3つに注目して考えていきます。

  1. 休職期間の「通算」の規定を確認する
  2. 雇用形態の変更などによって働き方のルールを変える
  3. 社員の生活保障(傷病手当金や退職金)にも注意する

2 休職期間の「通算」の規定を確認する

休職制度は、法律上の制度ではなく、会社が就業規則で独自にルールを定めて実施します。そして、休職制度がある会社の中には、一定期間内に同じまたは類似の傷病で再び休職したら、休職期間を「通算」する規定を設けているところがあります。具体的には次の通りです。

復職した社員が、その後○カ月以内に、同じまたは類似の傷病により再度欠勤をした場合、もしくは通常の労務提供ができなくなった場合は復職を取り消し直ちに再休職とする。この場合、以後連続または断続する欠勤は、復職前に休職した期間と通算する。

このような「通算」の規定があった場合の流れを確認します。例えば、休職期間が最長6カ月間の会社で、社員がうつ病で2カ月間休職したとします。この場合、復職後すぐにうつ病が再発したら、休職期間は通算され、再休職できる期間は4カ月間(6カ月間-2カ月間)となります。ただし、うつ病以外の病気であれば、それが原因で再休職しても、休職期間は通算されません。

仮に1回目の休職で6カ月間休んだ場合、休職期間の上限に達してしまうので、再休職はできません。その場合、一般的には、休職期間の満了までに復職できなかったとして、自然退職になります(就業規則に定めが必要。なお、うつ病以外の病気による再休職は6カ月間まで可)。

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3 雇用形態の変更などによって働き方のルールを変える

休職期間が残っていない社員をそれでも雇用し続けたいのであれば、「雇用形態の変更や部署移動などによって働き方のルールを変える」ことを検討します。

例えば、「正社員は休職制度の対象だが、パート等は対象外にしている」という会社の場合、

社員の雇用形態を正社員からパート等に変更し、休職制度の対象から外す

という方法で雇用を継続することができます。

また、「パート等にも休職制度を適用する」という会社の場合も、次のように労働日を調整することで、正社員が休んだ場合は「欠勤」扱いとなる日を、「休日」扱いにできる可能性があります(「欠勤」扱いにならなければ、休職制度を適用する必要がない)。

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ただし、雇用形態の変更は会社の一存では行えません。社員との合意が必要です。特に正社員からパート等に転換する場合、一般的には、

  • 業務内容や責任が変わることで、賃金が下がる
  • 所定労働時間が変わることで、年次有給休暇の付与日数が少なくなる

など、従前よりも労働条件が引き下げられるケースが多いです。ですから、書面などで労働条件の変更部分を明確にした上で、合意を得るようにします。

なお、社員と労働条件について相談する際は、

正社員として業務を行える状態に回復した場合、パート等から正社員に戻れるか否かについても明らかにして社員に伝える

ようにしましょう。

4 社員の生活保障(傷病手当金や退職金)にも注意する

最後に、復職した社員が再び働けなくなってしまった場合の生活保障について、「休職期間が残っている場合」と「休職期間が残っていない場合」とに分けて考えてみます。

1)休職期間が残っている場合

社員が一定の要件を満たせば、再休職中に健康保険の「傷病手当金」がもらえます。支給額は「おおむね休職前の賃金の3分の2」です。通常、傷病手当金は、療養のために連続3日以上休んでからでないともらえませんが、

同じ傷病であれば、2回目以降は再び会社を休んだ日(再休職した日など)から支給

されます。ただし、支給期間は、同一の傷病について最初に支給が開始されてから通算1年6カ月間が上限なので、例えば、1回目の休職で傷病手当金を2カ月間もらった場合、再休職での支給期間は1年4カ月間(1年6カ月間-2カ月間)までとなります。

ただし、雇用形態を正社員からパート等に変更した場合、

社員が健康保険の被保険者でなくなり、傷病手当金がもらえなくなる可能性がある

ので注意が必要です。

なお、社員の年次有給休暇(年休)が残っている場合、休職に入る前に取得してもらうことも併せて検討しましょう。一度休職に入ると、労働義務が免除された状態になり、年休が取得できなくなってしまうので注意が必要です。

2)休職期間が残っていない場合

前述した通り、雇用形態が変わると賃金は従前よりも下がるケースが多いので、社員は不安です。こうした場合の対策として、

正社員からパート等に転換した時点で退職金を支給し、当面の生活に充ててもらう

という方法があります。退職金規程などで「雇用形態が正社員からパート等に変更され、かつ社員が雇用形態の変更時に退職金を受け取ることを希望した場合、退職金を支給する」という旨の規定を設けておけば対応可能です。

ただし、その場合、

パート等に転換した社員の症状が改善し、再び正社員に戻った場合の退職金の取り扱い

に注意が必要です。退職金規程などに「社員が退職した場合、退職金を支給する」という定めがあれば、パート等が正社員再転換後に退職する際にも退職金を支給することになりますが、その場合、図表3のように「パート等への転換時に退職金をもらったか否か」によって退職金の算定方法が変わり、支給額に差が出ることがあります。

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以上(2024年4月更新)
(監修 弁護士 田島直明)

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画像:琢也 栂-Adobe Stock

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