1 アルバイトにも年次有給休暇を
「御社で働くパートやアルバイトの方々は年次有給休暇を取得されていますか?」と質問をすると、驚く事業主が予想以上に多いというのが個人的な印象です。実際に、ある事業主の方から、「本当にパートやアルバイトも年次有給休暇を取らせないといけないか?」と相談をされたこともあります。なぜなら、パートやアルバイトの方々は事前に労働する日や時間が決まっていない場合が多く、働くことができる(働きたい)日時を申告して、その日程を考慮して事業主がシフトを組むことがあるからです。シフトを組むのに大変苦労されている事業主の立場からすれば、自分で働きたい日や時間を選ぶことができるのに、なんで年次有給休暇まで与えなければならないのか、と理解に苦しむというのが本音なのでしょう。しかし、労働基準法では、1週間の所定労働日数が4日以下(週以外の期間で所定労働日数が定められている場合は年間所定労働日数が216日以下)の労働者は、その所定労働日数に比例して算定された日数の年次有給休暇を付与しなければならないと定められています。具体的な日数は下記のとおりです。
それでは、昨今のパート・アルバイトなどの非正規労働者に関わる労働市場の変遷を踏まえて、どのように年次有給休暇を取得させればいいのかご説明させていただきます。
【週所定労働日数が4日以下かつ週所定労働時間が30時間未満の労働者の付与日数】
(※)週以外の期間によって労働日数が定められている場合
(参考)
労働者の方へ | 年次有給休暇取得促進特設サイト | 働き方・休み方改善ポータルサイト
2 非正規労働者の動向
1990年代に機械化やロボット開発の技術進展に伴い人件費抑制を目的に非正規労働者の採用を増やす企業が増えていきました。その結果、正社員(正規労働者)の求人が減少して就職氷河期を迎えたのもこの時期です。また、非正規労働者の増加には、育児や介護などの家庭の事情を踏まえて仕事と家庭の両立せざるを得ない事情とも関係しています。さらに、世帯収入を少しでも増やしたい人、両親の収入を補うために学費を自分で稼ぐ学生も増えてきた時代でもありました。そのような人たちにとっては、育児や介護、学業の合間に自分の都合に合わせて働ける非正規雇用というのが最適です。2004年には、労働者全体の1/3を非正規労働者が占めるようになり、それ以降、非正規労働者の比率は上昇傾向が続き、2022年には非正規労働者の割合が36.9%に達しています。そのうちパートとアルバイトで約70%を占めています。今後も、非正規労働者の比率は維持するものと考えられていますので、事業主にとっては非正規労働者を会社の主要な戦力としてとらえて、働きやすい職場を提供することがますます強まってくることを再認識する必要があります。
出典:1999年までは総務省「労働力調査(特別調査)」(2月調査)長期時系列表9、
2004年以降は総務省「労働力調査(詳細集計)」
3 年次有給休暇の発生要件と管理方法
上記でもご説明しましたとおり、正社員でも、パートやアルバイトでも要件を満たせば年次有給休暇を付与しなければなりません。その要件とは、①6か月間の継続勤務②全労働日の8割以上の勤務(出勤率)の2要件です。①6か月間の継続勤務は、労働契約の内容ではなく、勤務の実態に即して実質的に判断されます。②全労働日の8割以上の勤務とは、簡単にいえば、「出勤日数÷所定労働日数」で算出され、それが8割以上であれば年次有給休暇が発生します。ただし、パートやアルバイトの場合、週の所定労働日数が決まっていない場合もありますので、この所定労働日数の計算は、直近6か月間に実際に働いた日数(労働日数)の2倍もしくは前年1年間に実際に働いた日数が基準となります。(労働基準監督署の立入検査で指摘された場合も同様に算出します)例えば、週1日もしくは2日しか働かない学生アルバイトでも、過去6か月間で合計30日間の勤務をした場合、所定労働日数はその2倍の60日間となり、下記の図であれば、1年間の所定労働日数48日~72日の欄に該当するため、1日の年次有給休暇を付与することになります。さらに引き続き1年間勤務を継続すれば、2日の年次有給休暇を付与することになります(グレー部分)。
【週所定労働日数が4日以下かつ週所定労働時間が30時間未満の労働者の付与日数】
(※)週以外の期間によって労働日数が定められている場合
ここで、事業主の皆さんの頭を悩ますのが、パートやアルバイトの入社日が異なり付与する基準日も異なること、それぞれの所定労働日数も異なること、同じパートやアルバイトでも基準日時点における所定労働時間が決まっていない場合は、過去1年間の労働日数の合計によっては該当する所定労働日数の欄が毎年異なる可能性があることなど、個々の勤怠管理をしなければならないことです。タイムカードや独自で作成されたエクセルなどで管理されている方も多いと思いますが、トラブルを回避するためにも、スマホでもシフト管理ができるようなアプリの導入などをお勧めしています。勤怠管理のコストは別途かかりますが、パートやアルバイトを雇用している事業主の皆さんにとっては有効な手段ですので、検討をしてみてください。
いずれにしましても、年次有給休暇は本人からの申告(時季指定権といいます)により取得するものですから、少なくとも毎年パートやアルバイトの方々には、年次有給休暇の付与日数を伝えて、取得しやすい職場環境を整えることが不可欠です。
さらに、2019年4月から年10日以上の年次有給休暇が付与された労働者は、そのうち5日は必ず取得させることが事業主の義務となりました。例えば、週3日のシフトで働く、継続勤務年数が長いパートやアルバイトの方々は、10日以上の年次有給休暇が発生する場合(黄色赤字の部分)があり、事業主は5日の年次有給休暇を取得させる義務が生じますので、十分注意してください。5日の年次有給休暇を取得させることができなかった場合には罰則(違反者1人につき30万円以下の罰金)が事業主に科される可能性もあります。また、年次有給休暇を付与されたパートやアルバイトがいる場合には、その方々の年次有給休暇管理簿の作成も事業主の義務となっていますので忘れないでください。
4 パート・アルバイトの年次有給休暇時の賃金
年次有給休暇を取得した場合には当然ながら賃金が発生します。パートやアルバイトの場合には、その日に働く時間も異なることもあるため、年次有給休暇を取得した日の賃金はいくらにすればいいのでしょうか?以下3つの方法をご紹介します。
- ① 通常の賃金から算出する
所定労働時間が一定の労働者であれば、所定労働時間に時給などをかけることによって勤務した場合に支払われる賃金を計算することができます。勤務予定シフトの時間分による賃金の算出は、1日の労働時間が一定の労働者に多く用いられる計算方法です。 - ② 平均賃金から算出する
以下の算出方法のうち、金額の高いほうを平均賃金として選択する方法です。この方法は、所定労働時間が一定ではない場合に有効です。- ・過去3ヶ月間にその労働者へ支払われた賃金の総額÷その期間の総日数
- ・過去3ヶ月間にその労働者へ支払われた賃金の総額÷その期間の実労働日数の60%
- ③ 標準報酬日額から算出する
パートやアルバイトの方々が社会保険に加入しているのであれば、標準報酬日額から有給休暇取得時の賃金を算出する方法も用いることができます。その場合は、報酬月額の等級で区分した「標準報酬月額」を日割りし「標準報酬日額=標準報酬月額÷30」の計算式で支払う賃金を算出します。
パートやアルバイトの勤務体系に合わせて、いずれかの方法を選択してください。
以上(2025年2月作成)
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画像:photo-ac