「ごちそうさまでした~♪」

満腹・満足げな部下たちに別れを告げた中堅社員のAさん。今月は大忙しだったため、頑張った五人の部下たちをねぎらおうと奮発して焼き肉をおごりました。食事会は大盛り上がりで、「チームの結束が強まった!」と実感できました。

ただ、切実な問題が1つ……。Aさんの財布の中身がさみしいのです。

食事会の目的と、その成果を考えれば、飲食代を会社に請求しても問題ないでしょう。しかし、Aさんの会社では、「上司は部下に必ずおごる」という暗黙の了解があり、Aさんもそれに従っているのです。内心、Aさんはこう思っています。

「自分もよく上司におごってもらうけど、皆会社に請求していないのかな。毎回自腹では、正直、きついはずだ。出世もいいけど、部下におごったためにお小遣いがなくなるのはちょっとな」

「上司はおごるもの」という強迫観念

上司が集まると、「部下にどこまでおごる?」という話に割とよくなります。部下におごるのはいいけれど、毎回だと金銭的につらいので、他人がどこまでおごっているのかを知りたいのです。

とにかく上司は、部下から「ケチだ!」と思われたくはありません。そのため、「前回はおごったので、今回もおごらないと……」とか、「Bさんにはおごったから、Cさんにもおごらないと……」などと考えてしまうのです。

一方、上司にとってはうれしい? 意外な事実があります。部下の立場にある人に話を聞いてみたり、アンケートを見てみたりすると、部下は上司のおごりをそれほど期待していないようです。「気を使うし、おごってもらうのは申し訳ない。それに、フラットな気持ちで話ができない」というのがその理由です。

「部下におごらなければならない」という思いは、上司が持つ強迫観念のようなもので、この傾向は年配の上司に多く見られるようです。年功序列・終身雇用という雇用慣行の中で、「給料が低い若手を援助するのは上司の役割である」という雰囲気があったのでしょう。

とはいえ、おごるのは効果的?

とはいえ、「おごるのや~めた!」ということにはなりません。財布事情は別として、食事会は上司と部下とのコミュニケーションの場であることは間違いないからです。

普段とは違う雰囲気でリラックスできますし、おいしい食事があれば会話も弾みやすくなります。上司から食事に誘われた部下は、最初、「上司と二人はつらいな~。説教されるのでは……」などと敬遠するかもしれませんが、「おいしいお店があるから、一緒に食べに行こう。おごるよ!」とカジュアルに誘えば、部下も上司の誘いに応じやすくなります。

結局、上司はある程度は部下におごることになりそうですが、それが毎回だと、部下は「上司の誘い=タダ飯」と期待するかもしれません。バブル時代、ご飯をおごってもらうだけの「メッシーくん」がいましたが、“メッシー上司”になるのは避けたいものです。

おごるか否かの基準を持つ!

ということで、上司は「おごるか否かの基準」を持ちましょう。単純ですが分かりやすいのは、

  • 仕事なのか、プライベートに近いのか?

という基準です。

この基準を冒頭のAさんに当てはめてみましょう。食事会の目的は「部下をねぎらい、やる気を明日につなぐ」ことであり、完全に仕事です。しかも成果が上がっています。これなら、会社に飲食代を請求しても問題ないでしょう。

なお、こうした飲食代を「いくらまで請求していいか?」は、会社の規則で定められているはずです。経費を請求する場合は、事前に確認しましょう。

上司の素直な気持ちが大切

ここまでの話とは逆に、「会社に経費請求するまでもなく、むしろ自分で支払いたい」と上司が感じるケースがあります。

例えば、上司が一人の人間(人生の先輩)として部下にアドバイスをする場合や、頑張っている部下を何らかの形で応援したいと思う場合は、こんなふうに考えるものです。難しく考えずに、「上司がおごりたいと思ったら、おごる」というシンプルな判断をすればよいでしょう。ただし、懐具合とのバランスはとっておかないと長続きしません。

そうした意味では、食事でなく、コーヒーをおごるだけでも十分です。豪華な食事を1回するよりも、何度も一緒にコーヒーを飲むほうが、コミュニケーションの回数も増えます。

いずれにしても、中堅社員になったら、使う経費が増えてきます。部下との食事会に限らず、会社のお金と自分のお金の区別を明確にしなければなりません。

  • 「出世するほど、お金にきれいになる」

というのが、中堅社員の1つのテーマです。

また、今どきの問題として気をつけたいのが、ハラスメントです。部下と二人だけで食事などに行く場合、そこでの言動にはいつも以上に注意しておいたほうが無難です。こちらの意図とは全く関係のないところで、セクシュアルハラスメントやパワーハラスメントを指摘されることがあるかもしれないからです。そうした懸念があるなら、食事会は三人以上としたほうが無難です。

Point

  • 「上司はおごるもの」という強迫観念から解放され、「おごるか否かの基準」を設ける。
  • 大切なのはコミュニケーションの質!

以上(2019年8月)

pj00420
画像:Eriko Nonaka

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