書いてあること

  • 主な読者:働き方改革に乗り出すに当たり、就業規則を見直したい経営者、人事労務担当者
  • 課題:法改正の内容が多岐にわたり、何から手を付ければよいか分からない
  • 解決策:「企業の取り組みは義務か」「就業規則等の変更は必要か」「全企業に関連する内容か」によって、法改正の内容を区分けする

1 待ったなしの働き方改革

2019年4月1日より「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」(以下「働き方改革関連法」)が順次施行されています。中小企業も、2020年4月1日に「時間外労働の罰則付き上限規制」の適用などが控えており、いよいよ本気で働き方改革に乗り出さなければなりません。

まず取り組むべきは、就業規則等の見直しです。働き方改革関連法の内容は多岐にわたりますが、努力義務のものや、就業規則等の変更までは必要ないものもあるので、優先順位を付けて取り組みましょう。

2 働き方改革関連法の内容を区分けしよう

働き方改革関連法の内容は、次のように区分けできます。

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就業規則等の見直しという観点から考えると、取り急ぎチェックが必要なのは、図表の網掛けの部分です。次章以降で、法改正の内容と就業規則等の変更のポイントについて詳しく見ていきましょう。

3 全企業に関連するもの

1)時間外労働の罰則付き上限規制

1.法改正の内容

社員に時間外労働を命じる場合、次の3つを遵守することが必要となりました(1.は現行では基準告示あり。2.と3.は中小企業の場合、2020年4月1日適用)。違反した場合、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられます。

  • 時間外労働の上限について、月45時間、年360時間(いずれも休日労働を含まない)を原則とする(現行の基準告示に「限度時間」として定めていたものを法律に格上げ)(注)
  • 臨時的な特別な事情があって労使が合意する(特別条項)場合でも、月100時間未満(休日労働を含む)、年720時間(休日労働を含まない)を上限とする。ただし、時間外労働(休日労働を含まない)が月45時間を超えられるのは年6カ月まで
  • 特別条項の有無にかかわらず、いかなる場合も月100時間未満(休日労働を含む)、2~6カ月平均80時間(休日労働を含む)を上限とする

例外として、自動車運転の業務、建設事業、医師、鹿児島県および沖縄県における砂糖製造業、新技術・新商品等の研究開発業務については、適用が猶予・除外されます。

(注)1年単位の変形労働時間制(対象期間が3カ月を超えるもの)を導入している場合、月42時間、年320時間(いずれも休日労働を含まない)を原則とします。

2.就業規則等の変更のポイント

社員に時間外労働を命じるには、労働基準法第36条に基づく労使協定(以下「36協定」)の締結と、所轄の労働基準監督署への届け出が必要です。なお、法改正に伴い36協定の新書式が公表されているため、事前に確認しておきましょう。

また、就業規則には「36協定で定める時間外労働時間が、労働基準法等で定める上限を超えることがない」旨を追記しておきましょう。

2)中小企業に対する割増賃金率の猶予措置廃止

1.法改正の内容

社員の時間外労働が1カ月当たり60時間を超える場合、その時間については50%以上の割増賃金の支払いが必要です。しかし、これまで中小企業の場合、この50%以上の割増賃金の支払いについては猶予措置が設けられ、当面の間努力義務とされていました。

働き方改革関連法では、この猶予措置が廃止され、中小企業においても時間外労働が1カ月当たり60時間を超える社員については、50%以上の割増賃金を支払うことが義務付けられました(2023年4月1日施行)。

2.就業規則等の変更のポイント

就業規則で時間外労働の割増賃金率を定めている場合、時間外労働が1カ月当たり60時間を超える場合の割増賃金率が50%を下回らないよう変更する必要があります。

なお、この50%以上の割増賃金率のうち25%については、代替休暇を付与することで代用できるので、制度を導入する場合は就業規則にその旨を定めておきましょう。ただし、代替休暇制度を導入するには、労使協定の締結が必要です(届け出は不要)。

3)5日以上の年次有給休暇の時季指定義務化

1.法改正の内容

10日以上の年次有給休暇(以下「年休」)が付与される社員について、10日以上のうち5日を、企業が時季を指定して基準日から1年以内に付与しなければならない旨が定められました(2019年4月1日施行)。

なお、5日のうち社員の時季指定や、計画的付与(企業があらかじめ年休の取得日を決め、計画的に取得させる制度)により取得された年休の日数分(5日を超える場合には5日分)については、企業が指定する必要はないとされています。

2.就業規則等の変更のポイント

就業規則において、年休の付与日数のうち5日について、企業が時季を指定して取得させる旨を追記しておきましょう。ただし、企業が時季を指定する際は、社員の意見を聴取し、社員の希望に沿った取得時季になるように努めなければなりません。

なお、中小企業の場合、慢性的な人手不足により、社員が年休を取得しにくいケースが少なくありません。例えば、計画的付与を導入すると、年休付与日数のうち5日を超える部分(例:年休付与日数が10日の場合、5日(10日-5日))については、企業が取得日を決め、年休を計画的に取得させることができます。ただし、計画的付与を導入するには労使協定の締結が必要です(届け出は不要)。

4)時間外労働が80時間超の社員に対する面接指導の強化

1.法改正の内容

時間外労働(休日労働を含む)が1カ月当たり80時間を超え、疲労の蓄積が認められる(または健康上の不安を有している)社員が申し出た場合における、医師による面接指導の実施が、努力義務から義務へと変更されました(2019年4月1日施行)。

なお、「新技術・新商品等の研究開発の業務」「高度プロフェッショナル制度の業務に従事する社員」については、面接指導の実施に関するルールが異なります(詳細は後述します)。

2.就業規則等の変更のポイント

就業規則において、「時間外労働(休日労働を含む)が1カ月当たり80時間を超え、疲労の蓄積が認められる社員が申し出た場合に、医師による面接指導を実施する」旨の規定を追記しておきましょう。

社員の過重労働防止を強く推進したいのであれば、「(社員の申し出がなくても)疲労の蓄積が認められる場合に面接指導を実施する」など、対象となる社員を広く取る規定にしておくのもよいでしょう。

4 対象企業が限定されるもの

1)産業医の産業保健業務に必要な情報の提供を義務化

1.法改正の内容

産業医の選任義務がある社員数50人以上の事業場に対し、産業医が産業保健業務を行うために必要な情報を提供することが義務付けられました(2019年4月1日施行)。

産業医に提供する情報の具体的な内容は次の通りです。

  • 健康診断や面接指導実施後の措置の内容(措置を講じない場合はその理由)
  • 時間外労働(休日労働を含む)が1カ月当たり80時間を超えた社員の氏名と、時間外労働の時間数(高度プロフェッショナル制度の業務に従事する社員については、健康管理時間が1週間当たり40時間を超えた場合、その超過時間が1カ月当たり80時間を超えた社員の氏名と、その超過時間数)
  • その他社員の業務に関する情報で、産業医が社員の健康管理等を適切に行うために必要と認めるもの

2.就業規則等の変更のポイント

社員の個人データは法令に基づく場合などを除き、あらかじめ本人の同意を得ずに第三者に提供してはならないとされています。働き方改革関連法が施行されれば、産業医の産業保健業務に必要な情報は、法令に基づくものとなるため、社員本人の同意がなくても産業医に提供することは理論上可能です。

とはいえ、病歴や健康診断等の結果といった健康管理上の個人情報は、取り扱いに特に留意すべき「要配慮個人情報」です。社員とのトラブルを防ぐに当たり、産業保健業務のために産業医に健康管理上の個人情報を提供することがある旨を就業規則に追記しておくのが無難です。機微な内容であるため、自社の就業規則を見直す際は、専門家の意見などを参考にするとよいでしょう。

なお、社員の心身の状態に関する情報の取り扱いについては、情報を適正に管理するために、厚生労働大臣の指針に基づき必要な措置を講ずることが義務付けられることになります。

2)産業医の勧告に関する衛生委員会等への報告を義務化

1.法改正の内容

産業医から、社員の健康を確保するために必要な事項について勧告を受けた場合、その勧告の内容を衛生委員会または安全衛生委員会に報告することが義務付けられました(2019年4月1日施行)。

衛生委員会は、労働安全衛生法に基づき、社員の健康障害の防止・健康の保持増進などについて審議するために設置される委員会です。設置義務があるのは、社員数50人以上の事業場です。衛生委員会に加えて、安全委員会の設置義務もある事業場(社員数50人以上または100人以上で特定の業種に該当するもの)は、2つの委員会をまとめて安全衛生委員会とすることができます。

2.就業規則等の変更のポイント

就業規則に「安全衛生管理に関する事業場責任者の職務」などの項目があれば、産業医から勧告を受けた場合の衛生委員会等への報告を職務に追加しておくとよいでしょう。

3)特定の業務に従事する社員に対する、医師による面接指導を義務化

1.法改正の内容

「新技術・新商品等の研究開発の業務」「高度プロフェッショナル制度の業務(注)」に従事する社員について、時間外労働時間(休日労働を含む。高度プロフェッショナル制度の業務に従事する社員については、1週間当たり40時間を超えた健康管理時間)が100時間を超えた場合、社員の申し出がなくても医師による面接指導を実施することが義務付けられました(2019年4月1日施行)。

なお、新技術・新商品等の研究開発の業務に従事する社員については、上の要件に該当する場合だけでなく、前述の「時間外労働(休日労働を含む)が1カ月当たり80時間を超え、疲労の蓄積が認められる(または健康上の不安を有している)社員が申し出た場合」にも面接指導を実施する義務があります。

(注)金融商品の開発業務・ディーリング(売買)業務・アナリスト業務、コンサルタント業務といった高度な専門的知識を必要とする等の業務が該当します。なお、高度プロフェッショナル制度の導入に当たっては、一定の年収や労使委員会の決議などの要件を満たす必要があります。高度プロフェッショナル制度が適用される社員は、労働基準法の労働時間、休憩、休日および深夜の割増賃金の規定が適用除外となります。

2.就業規則等の変更のポイント

就業規則には、面接指導の対象となる業務と社員の範囲、時間外労働(休日労働を含む)が1カ月当たり100時間を超えた場合に、医師による面接指導を実施することを定めておく必要があります。

なお、時間外労働時間(休日労働を含む。高度プロフェッショナル制度の業務に従事する社員については、1週間当たり40時間を超えた健康管理時間)が100時間を超えた場合は、社員の申し出や疲労の蓄積等を必要としません。そのため、就業規則においては、通常の社員に対する面接指導とは別に規定を設ける必要があります。

また、就業規則には直接関係ありませんが、この法改正に伴い、管理監督者を含む全ての社員を対象とした労働時間の把握(高度プロフェッショナル制度の対象となる社員は健康管理時間の把握)が企業に義務付けられています。

具体的には「タイムカードによる記録、パーソナルコンピュータ等の電子計算機の使用時間の記録等の客観的な方法その他の適切な方法」によって労働時間を把握した上で、労働時間の状況の記録を作成し、3年間保存するための措置を講じる必要があります。自社の労働時間管理の体制についても、見直しが必要になるかもしれません。

以上(2019年10月)
(監修 人事労務すず木オフィス 特定社会保険労務士 鈴木快昌)

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画像:ESB Professional-shutterstock

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