近年、職場の上司や先輩(いわゆるオトナ世代)は、若手社員の言動を理解できないイライラ、腑に落ちないモヤモヤを抱えつつも、指導の際は「パワハラ」と感じさせないように、気遣いや遠慮が求められるようになりました。
そもそもオトナ世代が若手にストレスを感じる原因は、オトナの考えと、若手の行動とのすれ違いによるものがほとんどです。しかし、若手に対して「けしからん!」と怒ったり、「理解できない!」と嘆いたりしていたことを、冷静に分析するだけでスッキリすることもあります。
本連載は、拙著「イライラ・モヤモヤする 今どきの若手社員のトリセツ」を一部抜粋し再構成してお届けします。
- オトナ世代が違和感をもつ若手社員の言動を具体的にピックアップ
- ギャップやストレスの正体を分析
- 円滑なコミュニケーションや適切な指導法を考察
という3ステップで、指導の妨げとなるストレス解消のヒントを探っていきます。
1 たった1時間も残業できないの……?
オトナのイライラ
明日中に仕上げる予定だった会議資料。議長だった上役に緊急の仕事が入り、会議の時間が早まってしまった。部下に頼むのは気が進まないが、どう考えても手分けして作成しないと間に合わない。そしたら案の定、「明日の朝から取り掛かるのでいいですか?」って。それじゃギリギリ過ぎるから頼んでるってのに……。
若者のホンネ
もちろん残業はイヤですよ。でも、どうしても残業しなきゃダメなときはやってるつもりです。でも今回の資料って、明日の朝イチからやっても間に合いそうじゃないですか。そりゃギリギリかもしれないけど、間に合うんなら、今日は帰ってもよくないですか?
ギリギリだと資料の完成度が不安。何かミスがあったときの手直しが効かない。だから、定時の鐘が鳴っても、夜のうちに作業して今日中に資料を仕上げておくべきだと考えるオトナ世代。
逆に、ギリギリでも間に合うのなら、定時後の時間を費やしてまで資料を仕上げる必要はないと考える若手社員。残業をめぐるお互いの価値観の溝。これも、なかなか埋まらない溝でしょう。
昔は、とにかく長時間働くことが美徳であり正義でした。今から30年以上も前、平成に入ったばかりの頃に、「24時間戦えますか?」というCMのキャッチコピーが大流行しました。また「5時からオトコ」という健康ドリンクのCMもバンバン流れていました。
ちなみに「5時からオトコ」というのは、5時までは適当に仕事をこなして、会社終わりの5時から元気になるサラリーマンのこと。今どきの若者から、「じゃ、5時まではなんだったんすか?」とツッコミが入りそうです。
2 24時間戦わない時代
当時はスマホなんかないから、1回会社を出れば何をしようが見つからない。夕方までうまくサボりつつ、夕方になって会社に戻って残業して頑張ってますアピール。
当時の評価は仕事量。たくさん働ける(と見える)馬力は、出世に必須の時代でした。
つまり5時からオトコは、24時間戦う前提の社会における必然的ワークスタイルだったのです。こうやって振り返ってみると、相当歪んだ時代だったように感じませんか。
一方で、今の時代は「労働時間」に対して、強く意識する必要に迫られています。リーマンショック以降右肩上がりに景気が回復、人手不足が広がる中で長時間労働が横行しました。こうした過重労働に歯止めを掛けるためにも、2019年に働き方改革関連法案が施行され、職場では厳格な残業規制が運用されることになりました。
この働き方改革の流れ、生産性を大事にする若者の価値観と相性がいいのは明らかですよね。今の職場では、残業嫌いの若手社員のほうが正当化されがちです。「同じ量の仕事を、昔より短い時間でやらないといけない。昔の人はいくらでも時間をかけられたが今は違う」。オトナからすると、なんか生意気な発言に聞こえますが、大義名分としては彼らのほうに分があります。
若手が残業を嫌う理由は、もう1つあります。5時からの過ごし方が、昔とはまったく違うんです。彼らは、SNSで何百人とか千人超というフォロワーとつながり、いくつものコミュニティに所属して、マルチに活動しています。
だからこそ、仕事を効率良くこなし、自分がやりたい活動のためにどうやって時間を生み出すか。彼らは常に時間を気に掛けているのです。
そして時間を貴重な資源だと感じて大切にする若者が、残業(=夜遅くまで仕事すること)と並んで嫌うのが朝礼(=朝早くから会社に行くこと)です。
3 朝礼で時間を奪われたくない
オトナのイライラ・モヤモヤ
朝礼ってのは、仕事のスイッチを入れるためにあるわけでさ。みんなが集まって、顔を見合わせることで士気を高めていく。そこに意味があるんだから、連絡事項を話すだけならメールでいいとか、そういうことじゃないんだよね。話す内容は極論すればどうでもいいんだよ。
若者のホンネ
朝礼なんて要らないと思う。連絡事項をみんなの前で話すだけならメールでよくね? フレックスタイムとかテレワークとか、柔軟な働き方が大事だといわれる時代に、朝から拘束されるって、どうなのよ?
あなたの会社では「朝礼」は行われているでしょうか。始業時に部署ごとに集まって、現在の成績、今後の目標、今日の予定が共有され、上司からの訓示が述べられる。かつては、どこの会社でも見られる風景でした。
しかし、今どきの若手社員は、明らかに朝礼には否定的です。ある企業が新社会人への意識調査を行ったところ、無駄に感じる時間として朝礼がトップでした。理由としては「上司の訓示が長い」「スローガンの連呼に意味があると思えない」「その時間を仕事に充てたい」「スピーチさせられるのが嫌だ」などなど。
そんな若手の気持ちを代弁するかのように、朝礼を廃止する企業も少なくはありません。情報がメールなどで共有できるようになったこと、フレックスタイムの導入で始業の時間がそろわなくなったこと、などがその理由の大半です。
4 異彩を放つ朝礼に学ぶ
一方で、オトナ世代は、朝礼が当たり前で育ってきました。朝礼には、「顔を見て声を聞いてこそ、組織としての団結が強まる」「情報共有だけが目的ではない」などなど、組織としての意思統一が図れることや、気分のスイッチが切り替わることといった精神面での効能を感じている人が少なくありません。そういうオトナは、朝礼がない(なんとなく出社して、なんとなく仕事を始める)風景に、物足りなさや不安を感じてしまいます。
朝礼に逆風が吹き荒れる中、実はユニークな朝礼で注目を集めている企業もあります。全国にチェーン展開するある飲食店は、外部から多くの見学者を集めるほどの朝礼を行っています。朝礼時間は15分。内容としてはスピーチ、ナンバーワン宣言、あいさつとハイの訓練、最後に店の目標の宣言と一本締め。それこそ若者が嫌がる朝礼の典型的な例です。
あまりにテンションが高いこともあり、この会社の朝礼に賛否両論があるのは、筆者も知っています。しかし、ここで論点にしたいのは、その内容ではなく「漫然としたルーティンとしての朝礼」ではなく、「明確な目的ももった朝礼」を開催していること。だからこそ、見学者の一部からは「自分の職場でも同じような朝礼をやりたい」などといった声が出てくるのだと思うのです。
真逆に、「ローテンション型の朝礼」で、朝礼を工夫している企業もあります。あるコンサルティング企業では、「感謝」を中心に据えた朝礼を行っていて、一緒に働いたスタッフに感謝する内容のスピーチをするのです。急激に効果が出たわけではないものの、感謝し感謝されることで、少しずつ社内の雰囲気が良くなっていったといいます。
5 イライラ・モヤモヤ解消法
オトナ世代には仕事に費やせる時間がたっぷりあったけど、自分たちは違う。今どきの若手社員たちは、こういう感覚で日々仕事しています。
職場に流れる時間の感覚が、オトナと若手で大きく違うんです。ところが、それを理解できていないオトナは、自分の時計で若者を縛ってしまいます。上司の時間も部下の時間も平等に流れている。せめてこの認識は必要かもしれません。これは筆者自身、自戒の念も込めて言っています。
そういった意味からも、残業をお願いする場合は、なぜ、この残業が必要なのかを語るべきです。もちろんダラダラ働くのではなく、濃ゆい時間にする前提で、です。
また朝礼を行う場合には、若者にその意味を納得してもらうことが必要です。だからこそ、漫然とした朝礼ではなく、目的を持った有意義な集まりにする意識を持ってください。
もちろん、その内容は、職場それぞれのカルチャーによって違っていいと思います。いずれにせよ、情報の共有だけならメールで可能な時代だからこそ、目的をもった工夫を施す。それが実践できれば、今どきの若手社員にとっても、朝礼は必要なものに変わっていくかもしれません。
●関連著書
イライラ・モヤモヤする 今どきの若手社員のトリセツ
(PHPビジネス新書)
イライラ・モヤモヤを解消するには相手を知ること。若者の働き方研究家が彼らの「脳内=ホンネ」を翻訳し、ケース別に対処法も指南
以上
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