書いてあること

  • 主な読者:社員が傷病や障害によって働けなくなった場合の生活保障や、死亡した場合の遺族に対する保障の内容を見直したい経営者、労務担当者
  • 課題:まずは法律で定められた保険給付について知りたいが、制度が複雑で分かりにくい
  • 解決策:どのような場合にどのような給付が受けられるかを、チャート形式で整理する

1 プライベートでの事故などに対応する保険給付は?

社員が怪我や病気をすると、医療費や仕事を休んでいる間の生活費など、さまざまな出費がかさみます。怪我や病気が重く障害が残った場合は、一層の生活保障が求められますし、死亡した場合は、社員の遺族に対する保障も必要です。

会社の制度(見舞金や弔慰金)や民間の保険などの「備え」をする会社もありますが、その前に押さえておきたいのが、法律で定められた保険給付(社会・労働保険の給付)です。

この記事では、プライベートでの事故など(労災認定されなかった業務中や通勤中の事故などを含む)が起きた場合に支給されるものとして、

健康保険と国民年金・厚生年金保険の給付(傷病、障害、死亡に対するもの)

を紹介します。「療養が必要か」「休業が必要か」など、給付の特徴に注目したチャート図も載せているので、「保険給付って何だか種類が多くて苦手……」という人もぜひご一読ください。

なお、この記事の社員は、65歳未満で健康保険、国民年金・厚生年金保険の加入要件を満たしています(保険料の未納もなし)。健康保険の保険者は全国健康保険協会(以下「協会けんぽ」)とします。

また、労働災害(業務上の事由または通勤により発生した事故など)による傷病、障害、死亡に対する給付については、こちらをご確認ください。

2 傷病に対する主な給付(プライベート編)

1)給付の種類を整理しよう

社員がプライベートの事故などで傷病を負った場合、健康保険の給付を受けられます。主な給付は図表1の通りです。なお、傷病がもとで障害を負った場合の給付については第3章を、死亡した場合の給付については第4章をご参照ください。

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2)給付の支給要件、支給額、支給期間を知ろう

1.療養の給付

社員が診察、薬剤等の支給、治療などを受けた場合に支給されます。

現物給付なので、本来、支給額という概念はありません。通常、社員は保険医療機関や保険薬局に対し、

一部負担金(原則として療養に要した費用の3割)

を支払います。ただし、やむを得ない事情により自費で受診した場合などは、

療養費(健康保険の基準で計算した金額から一部負担金に当たる額を引いた額)

が支給(申請に基づき後日還付)されます。

支給期間という概念はなく、診察、薬剤等の支給、治療などを受けるたびに支給されます。

2.傷病手当金

社員が療養のために働けず、連続3日(公休日等を含む)以上休んだ場合、4日目以降から支給されます。

支給額は、標準報酬月額(月例賃金などの「報酬月額」を区切りの良い幅で区分したもの)を基に、原則として次のように算定されます。

支給額(日額)=支給開始日以前直近12カ月間の各月の標準報酬月額の平均÷30日×2/3

ただし、会社が社員の生活を考え、休業中も賃金の一部を支払う場合などは、傷病手当金が賃金よりも多ければ、その差額が支給されます(傷病手当金が賃金よりも少ない場合は不支給)。

支給期間は、最大で支給開始日から通算1年6カ月です。「通算」なので、出勤などで傷病手当金が不支給となる期間があっても、その期間を除いて1年6カ月間支給されます。1年6カ月を超えた場合は、支給が停止されます。また、社員が後述の「障害厚生年金」や「障害手当金」の支給を受けるようになったときは、傷病手当金の全部または一部が支給停止となります。

3.入院時食事療養費

社員が保険医療機関に入院した場合、入院中の食費について支給されます。

支給額は、厚生労働大臣の算出基準による食事療養費と、「標準負担額」(原則として1食につき460円)を基に、次の計算式で算定されます。この給付は入院先の保険医療機関に支給されるので、社員は標準負担額のみを入院先に支払います。

支給額(1食につき)=厚生労働大臣の算出基準による食事療養費−標準負担額

支給期間は、入院し食事の提供を受ける期間です。

4.入院時生活療養費

65歳以上の社員が医療療養病床(長期療養が必要な患者のための病床)に入院した場合、入院中の食費、居住費について支給されます。

支給額は、厚生労働大臣の算出基準による生活療養費と、「標準負担額」(原則として食費は1食につき460円、居住費は1日につき370円)を基に、次の計算式で算定されます。この給付は入院先の保険医療機関に支給されるので、社員は標準負担額のみを入院先に支払います。

支給額(1食または1日につき)=厚生労働大臣の算出基準による生活療養費−標準負担額

支給期間は、入院し食事の提供などを受ける期間です。

5.保険外併用療養費

社員が健康保険の対象外となる診療のうち、厚生労働大臣の定める「評価療養」(先進医療など)または「選定療養」(特別の療養環境など)を受けた場合に、「評価療養」または「選定療養」のうち、通常の治療と共通する部分(診察、薬剤等の支給など)の医療費については、一般の保険診療と同様に扱われ、保険給付として支給されます。

支給額は、次のように算定されます。

支給額(1回の支払いにつき)=通常の治療と共通する部分の医療費−通常の治療と共通する部分の医療費の一部負担金(原則として医療費の3割)

評価療養または選定療養のうち、通常の治療と共通しない部分の医療費(先進医療、特別の療養環境など)については給付の対象とならず、全額自己負担となります。

支給期間という概念はなく、評価療養または選定療養を受けるたびに支給されます。

6.高額療養費

社員が同じ月(1日から月末まで)に支払った医療費の自己負担額が、一定の額(自己負担限度額)を超えた場合に支給されます。なお、自己負担額は世帯で合算することができます(70歳未満の場合は2万1000円以上のものに限る)。

支給額は、次のように算定されます。

支給額(月額)=同じ月に支払った医療費の自己負担額−自己負担限度額

自己負担限度額は、年齢(70歳未満か70歳以上75歳未満か)と所得(標準報酬月額または報酬月額がいくらかなど)によって、細かく区分されています。例えば、70歳未満で標準報酬月額が28万〜50万円の場合、自己負担限度額は「総医療費」(保険適用される診察費用の総額)を基に次のように計算されます。

自己負担限度額(月額)=8万100円+(総医療費−26万7000円)×0.01

なお、診療を受けた月以前の1年間に、3カ月以上の高額療養費の支給を受けたことがある場合、「多数該当」といって4カ月目から自己負担限度額が軽減されます。標準報酬月額が28万〜50万円の場合、多数該当の自己負担限度額は「4万4400円」です。

自己負担限度額は年齢、所得に応じて変わりますが、協会けんぽのウェブサイト(下記参照)でその一覧を確認できます。

支給期間という概念はなく、同一月に支払った医療費の自己負担額が自己負担限度額を超えるたびに支給されます。

■協会けんぽ「高額な医療費を支払ったとき」■

https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/sb3030/r150/

高額療養費は、医療機関などの窓口で支払った医療費が高額となった場合に、後から申請することで自己負担限度額を超えた額が還付される制度です。例えば、長期入院や手術など、医療費が高額になることが分かっている場合には、事前に申請しておくことで医療機関などでの支払いを自己負担限度額に抑えることができる制度(限度額適用認定)があります。

この制度を利用すれば窓口での支払い額を抑えることができ、後から高額療養費の申請をする必要もなくなります。

3 障害に対する主な給付(プライベート編)

1)給付の種類を整理しよう

社員がプライベートで起こした事故などにより障害を負った場合、国民年金・厚生年金保険の給付を受けられます。主な給付は図表2の通りです。

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なお、以降では「治癒」という言葉が頻繁に出てきますが、

「治癒」という言葉には、「傷病が完治した」という意味の他に、「症状が固定された(症状の回復・改善が期待できなくなった)」という意味もあります

ので、ご注意ください。

2)給付の支給要件、支給額、支給期間を知ろう

1.障害厚生年金

社員が初診日から1年6カ月が経過した日(それまでに傷病が治癒した場合はその日)の時点で、厚生年金保険の障害等級1〜3級に該当する場合に支給されます。ただし、初診日の時点で、社員が厚生年金保険に加入していて、保険料納付要件を満たしている必要があります。

支給額は、厚生年金保険の障害等級に応じて、報酬比例部分の年金額と配偶者加給年金額(生計を維持されている65歳未満の配偶者がいる場合に加算)を基に、次のように算定されます。


(1級)支給額(年額)=報酬比例部分の年金額×1.25+配偶者加給年金額(22万8700円)
(2級)支給額(年額)=報酬比例部分の年金額+配偶者加給年金額(22万8700円)
(3級)支給額(年額)=報酬比例部分の年金額 ※最低保障額は59万6300円

支給期間の制限はありません。ただし、社員が死亡した場合や、障害の程度が厚生年金保険の障害等級3級に満たなくなった場合は支給が停止されます。また、障害厚生年金の支給を受ける社員が、「老齢厚生年金」など他の年金の支給を受けられるようになった場合は、社員がどちらの年金を受け取るかを選択しなければならないことがあります。

2.障害基礎年金

社員が初診日から1年6カ月が経過した日(それまでに傷病が治癒した場合はその日)の時点で、国民年金の障害等級1〜2級に該当する場合に支給されます。ただし、原則として初診日の時点で、社員が国民年金に加入していて、保険料納付要件を満たしている必要があります。

支給額は、国民年金の障害等級に応じて、子の数を基に、次のように算定されます。ただし、子は、社員に生計を維持されていて、年齢が18歳到達年度の末日(3月31日)を経過していない、または20歳未満で、かつ国民年金の障害等級1〜2級に該当している必要があります。


(1級)支給額(年額)=99万3750円+子の加算(注)
(2級)支給額(年額)=79万5000円+子の加算(注)

(注)第2子までは子1人につき22万8700円、第3子以降は子1人につき7万6200円が加算されます。

支給期間の制限はありません。ただし、社員が死亡した場合や、障害の程度が国民年金の障害等級2級に満たなくなった場合は支給が停止されます。また、障害基礎年金の支給を受ける社員が、「老齢基礎年金」など他の年金の支給を受けられるようになった場合は、社員がどちらの年金を受け取るかを選択しなければならないことがあります。

3.障害手当金

社員が初診日から5年以内に傷病が治癒し、障害手当金の障害の状態になったときに支給されます。障害手当金の障害の状態は「労働が制限を受けるか労働に制限を加えることを必要とする程度」とされています。ただし、初診日の時点で、社員が厚生年金保険に加入していて、保険料納付要件を満たしている必要があります。

障害手当金は、報酬比例部分の年金額を基に、次のように算定されます。

支給額(一時金)=報酬比例部分の年金額×2 ※最低保障額は119万2600円

支給期間という概念はなく、1回のみ支給されます。

4 死亡に対する主な給付(プライベート編)

1)給付の種類を整理しよう

社員がプライベートで起こした事故などにより死亡した場合、健康保険、国民年金・厚生年金保険の給付を受けられます。主な給付は図表3の通りです。

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2)給付の支給要件、支給額、支給期間を知ろう

1.埋葬料

社員が死亡した際、社員により生計を維持されていた者(親族関係になくても可)で埋葬を行う者に支給されます。埋葬料の支給を受ける者がなく、会社などが埋葬を行った場合には、埋葬を行った者に「埋葬費」が支給されます。

埋葬料は5万円、埋葬費は埋葬に要した費用(上限5万円)が支給されます。

2.遺族厚生年金

社員が死亡した際、社員により生計を維持されていた配偶者・子・父母・孫・祖父母に支給されます。妻以外については、原則として次の要件を満たす必要があります。

  • 子・孫:18歳到達年度の末日(3月31日)を経過していないこと、または20歳未満で国民年金の障害等級1〜2級に該当すること
  • 夫・父母・祖父母:死亡当時に55歳以上であること

上の要件を満たす遺族同士の場合、配偶者または子の優先順位が最も高くなります。

支給額は、報酬比例部分の年金額を基に、次のように算定されます。

支給額(年額)=報酬比例部分の年金額×3/4

なお、社員の妻に関しては、次の要件を満たす場合、妻が40歳から65歳になるまでの間、年額59万6300円が加算されます。

  • 夫の死亡時、妻が40歳以上65歳未満で、生計を同じくしている子(前述の遺族厚生年金の支給要件を満たす子)がいない場合
  • 遺族厚生年金と遺族基礎年金を受けていた子のある妻が、子が18歳到達年度の末日(3月31日)に達した(障害の状態にあゴ合は20歳に達した)等のため、遺族基礎年金を受給できなくなった場合(40歳に達した当時、遺族基礎年金を受給していた場合に限る)

支給期間の制限は原則としてありません。ただし、子のない30歳未満の妻は5年間のみの受給です。加えて、夫・父母・祖父母の受給開始は60歳からとなります。ただ、夫の場合については遺族基礎年金を受給できる場合に限り、60歳未満であっても受給することができます。

なお、支給を受ける遺族が死亡した場合は、支給されなくなります。また、遺族厚生年金の支給を受ける社員が、「障害厚生年金」など他の年金の支給を受けられるようになった場合は、社員がどちらの年金を受け取るかを選択しなければならないことがあります。

3.遺族基礎年金

社員が死亡した場合、死亡した社員の収入によって生計を維持していた子のある配偶者・子に支給されます。なお、「子」とは、18歳到達年度の末日(3月31日)を経過していない子、または20歳未満で国民年金の障害等級1〜2級に該当する子を指します。

支給額は、子の数を基に、次のように算定されます。

支給額(年額)=79万5000円+子の加算

第1子・第2子は子1人につき22万8700円、第3子以降は子1人につき7万6200円が加算されます。子が支給を受ける場合は、第2子以降の数を基に加算されます。

支給期間の制限は原則としてありません。ただし、遺族基礎年金を受け取る配偶者または子が死亡した場合や、子が18歳になった年度の3月31日に到達した場合や子の障害の程度が国民年金の障害等級2級に満たなくなった場合などは支給が停止されます。

また、遺族基礎年金の支給を受ける社員が、「障害基礎年金」など他の年金の支給を受けられるようになった場合は、社員がどちらの年金を受け取るかを選択しなければならないことがあります。

以上(2023年6月更新)
(監修 人事労務すず木オフィス 特定社会保険労務士 鈴木快昌)

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画像:pixabay

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