書いてあること

  • 主な読者:顧客の考えを知り、次の施策に活かしたいマーケティング担当者、営業担当者
  • 課題:顧客アンケートの結果を効果的に理解したい
  • 解決策:散布図を利用して自社のやるべきことを把握する

1 回収したアンケート結果を自社の戦略に活かすには…

あらゆるビジネスにおいて、顧客の考えを知ることは極めて重要です。顧客を理解するときに有効な方法の一つがアンケートです。アンケートは、顧客や見込み客、その他一般の消費者、企業などの考えを知るツールとして、さまざまなシーンで活用されています。特に今どきは、インターネットを通じて、簡単かつ安価にアンケートを実施することも可能になりました。

そうして実施したアンケートの後には多くのデータが得られますが、その内容を理解し、自社の戦略に反映することができているでしょうか。

今回はアパレル商品に対する顧客アンケートを参考に、アンケートの大量の回答の中から、次の戦略のヒントを見つけ出す「散布図」について解説します。顧客の声を、次の施策に活かす際のご参考にしてください。

2 アンケート結果から相関関係を見抜く

今回は、次の図表1の1~10の質問項目についてアパレル商品に関する「満足度」を聞き取り、点数を平均化します。そこに別途質問するアパレルブランド全体に対する満足度の点数を「総合満足度」とします。この総合満足度と1~10の質問の満足度の相関係数を算出し「重視度」を設定しています。

相関係数をざっと説明すると、2つの異なる数値データ同士の関連の強さを表す指標です。相関係数は、-1から1の範囲を取り「相関係数が0から1の場合は、正の相関がある(一方のデータが大きくなればなるほど、もう一方のデータの値も大きくなる関係)」と言います。一方で「相関係数が-1から0の場合は負の相関がある(一方のデータが大きくなればなるほど、もう一方のデータの値は小さくなる関係)」といいます。

相関係数はエクセルの「CORREL関数」を使って算出できます。算出したいデータの範囲を選択し、関数の中から「CORREL」を選択します。

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質問1(商品の種類)とアパレルブランド全体に対する質問の相関係数が0.3で、質問2(デザインセンス)とアパレルブランド全体に対する質問の相関係数が0.7だったとします。この場合、商品の種類よりもデザインセンスに満足している顧客のほうが、ブランド全体に対しても満足している傾向が強いということになります。つまり、このブランドは商品の種類よりもデザインセンスを重視している顧客が多いと解釈できます。

1)散布図を使ってみる

図表1のアンケート結果を「見える化」するための方法として、ここで散布図の登場です。散布図は2つの項目の関係を明らかにするために用いられる図表です。縦軸と横軸の目盛り上のデータが該当する場所に点をプロット(打点)することでグラフに情報を反映していきます。

注意点としては、散布図で分かるのは「2つの量の間に見た目の関係性があるか」ということで、「2つの項目に因果関係がある」とは言えません。

今回は、平均満足度を縦軸に、重視度を横軸に取って散布図を作成します。例えば、質問1「商品の種類」に関する平均満足度と重視度は次の通りです。

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平均満足度と重視度の算出例によると、質問1「商品の種類」の平均満足度は78.75、重視度は0.44なので、散布図上の該当する位置にマークと「商品の種類」と表示しています。

また、一般に相関係数が0.2以下の場合は、ほとんど相関がないといわれているので、今回は重視度が0.2以下の質問は散布図の対象外とします。散布図の軸の表示範囲の基準となる平均満足度や重視度の平均値も、対象外とした項目の値を除いて算出した値を使用するようにします。

残りの質問の結果も、散布図に反映していくと、次のような図表3が出来上がります。

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この散布図の結果を、次のような項目で分類すると、このアパレルブランドが取り組むべきことが見えてきます(図表4ご参照ください)。

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1から5のそれぞれの領域が意味するところは次の通りです。

1.最重要改善項目

この領域は他の領域に比べて「平均満足度が低く重視度が高い」領域です。顧客はこの領域の質問が示す内容に対し、重要視しているにもかかわらず不満に思っているという危険な状態を意味します。

つまり、この領域に属する質問が示す内容は最も重要で、企業にとって、早急に改善を要する内容といえます。今回の例では、質問6「他の商品との組み合わせ」が該当します。

2.品質維持項目

この領域は他の領域に比べて「平均満足度が高く重視度も高い」領域です。この領域は、顧客はこの領域に属する質問が示す内容に対し、重要視していてかつ満足しているといえます。

この領域に属する質問が示す内容は、企業にとって、今の品質を維持すべき内容です。今回の例では、質問2「デザインセンス」、質問3「着心地」、質問4「色合い」が該当します。

3.戦略再考項目

この領域は他の領域に比べて「平均満足度が高く重視度が低い」領域です。この領域に属する質問が示す内容に対し、顧客は満足してはいるが重要視していないといえます。

この領域に属する質問が示す内容は、顧客にとって当たり前になっている可能性があるので、顧客があまり重要視していないからといって安易に品質を下げるのは危険ですが、企業にとって他の質問が示す内容と比較して、力の入れ具合を再考すべき内容といえます。今回は、質問1「商品の種類」が該当します。

4.見極め項目

この領域は他の領域に比べて「平均満足度が低く重視度も低い」領域です。顧客はこの領域に属する質問が示す内容に対し、不満に思っているが重要視していないといえます。

企業は、この領域に属する質問が示す内容について、アンケートの自由回答の内容などからこれから重要視される可能性があるかどうかを見極める必要があります。

例えば、顧客が長い間重要視していたが、一向に変化がないので今は諦めているといったような可能性がある場合は、その質問が示す内容を改善することで顧客にかつての期待を呼び起こし、ブランド全体の満足感を高めることができる可能性があります。

今回の例では、質問8「値段」、質問9「店頭従業員の提案内容」、質問10「販売店の立地や数」が該当します。

5.中間項目

この領域は他の領域に比べて「平均満足度も重視度も平均的」な領域です。企業はこの領域に属する質問が示す内容に対し、基本的には品質の維持を心掛けて余裕があれば改善するというスタンスでよいでしょう。

今回の例では、質問5「肌触り」、質問7「耐久性」が該当します。

2)分析結果の実効性を高めるには

これまで紹介したように、アンケートの結果から、質問ごとに顧客の重視度を算出し、散布図で分かりやすく図示することで、調査対象の商品やサービスが抱える問題や優先的に改善すべき内容を直感的に分かるように明らかにすることができます。

重点的に改善すべき質問が決まったら、その質問について顧客が記したフリーコメントを抽出してみましょう。そのコメントの内容を分類し、顧客が特に重視していることや不満に思っていることをさらに深く掘り下げることで、より効果のある具体的な改善策の立案に役立てることができます。 

さらに、アンケートの回収数が多ければ、年齢や性別、アンケート実施店舗など顧客の属性ごとに散布図を作成することで、顧客ターゲットごとに最適な改善策を立案することができます。

今回紹介した方法は、アンケートに総合満足度を聞く質問を1つ入れるだけで、簡単に実施できます。ぜひ一度お試しください。

以上(2021年10月)

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画像:pexels

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