書いてあること
- 主な読者:リモートワークをやめ、オフィス勤務を復活させている経営者など
- 課題:法改正の関係で、オフィス環境が法定基準を満たさなくなっている恐れがある
- 解決策:特に2022年に法改正のあった「照明」「トイレ」「洗面設備等」「休養室・休養所」「休憩設備」「救急用具」「室温」「作業環境測定」のルールを確認する
1 リモートワークをやめた会社は2022年の法改正に注意!
コロナ禍で広まったリモートワークですが、最近はオフィス回帰の動きが広まっています。その場合に注意が必要なのは、労働安全衛生法とその関係法令で定められている「オフィス環境の衛生基準(以下「法定基準」)」です。
会社は「照明の明るさ」「トイレの数」などについて、法定基準を守らなければならないのですが、図表1の通り、2022年(4月と12月)にルール変更があった関係で、知らないうちに法令に違反している可能性があるのです(違反は努力義務の場合を除き、6カ月以下の懲役または50万円以下の罰金)。
以降で、図表1のそれぞれの項目について法令上のルールを紹介するので、今のオフィス環境に不安がある場合は確認してみてください。
2 照明
照明は、社員の作業内容に応じた「照度(照明の明るさ)」が法定基準を満たすようにしなければなりません(義務)。照度は、光の量を表す「ルクス」という単位で表され、照度計で測定できます。作業場所はルクスが高いほど明るく、低いほど暗くなります。
2022年12月1日からは、社員の作業内容と、作業内容ごとに満たすべき照度の基準が次のように変更されています。
パソコン操作・計算などの「精密な作業」と電話応対などの「普通の作業」が「一般的な事務作業」に統合され、資料の袋詰めなど文字を読む必要のない「粗な作業」が「付随的な作業」に名称変更されました。作業に必要な照度も引き上げられているので注意が必要です。
オフィスの照明・採光は、図表2の基準の照度を満たした上で、「明暗の対照が著しくなく、かつ、まぶしさを感じさせない方法」とされています。
- まぶしいと感じる場合は、照明を明るさの調節ができるものに変える、カバーのついた照明に変える、
- 暗すぎる場合は、テーブルライトを設置する
などの対策が必要です。また、オフィス全体の照度は基準通りでも、パーテーションで作業スペースが暗くなるといったケースでは、基準を満たさなくなる恐れがあるので注意しましょう。
3 トイレ
トイレは、社員の性別や人数に応じて、次のように設置しなければなりません(義務)。
- 男性用トイレ(大):男性社員60人までにつき1個以上
- 男性用トイレ(小):男性社員30人までにつき1個以上
- 女性用トイレ:女性社員20人までにつき1個以上
また、2022年4月1日からは、「独立設置型のトイレ」に関するルールが新設されました。
独立設置型のトイレとは、プライバシーが保護され、社員が性別などに関係なく利用できる、完全個室のトイレのこと
で、具体的には次の基準を満たすものをいいます。
独立設置型のトイレを設置すると、そのトイレ1個につき、会社の男性社員と女性社員を、実際の人数よりも10人ずつ減らしてカウントすることができます。例えば、男性社員が70人いる場合、独立設置型のトイレを1個設置することで、男性社員は60人(70人−10人)としてカウントされ、会社が設置しなければならない男性用トイレの数が次のように変わります。
- 通常:男性用トイレ(大)2個以上、男性用トイレ(小)3個以上
- 独立設置型のトイレを設置:男性用トイレ(大)1個以上、男性用トイレ(小)2個以上
ただ、このルールは、会社が建物の都合上、トイレを男女別に設置できないケースなどに対応するためのものなので、法定基準を満たすからといって、今ある男性用・女性用トイレの数を減らしてスペースを節約するといったことはできません。
また、独立設置型のトイレを設置する場合、トイレは男女共用になり、重い持病や障害がある社員も使うことが想定されますから、次のような事項についても検討する必要があります。
- 手洗い設備(トイレ内に設けるのが基本)
- 消臭や清潔を保つマナー
- サニタリーボックスの管理方法
- 盗撮や侵入などの犯罪を防ぐ方法(非常用ブザーの設置など)
- 体調が悪くなったときの措置(マスターキーを使って外部からの解錠を可能にするなど)
4 洗面設備等
会社は社員数に関係なく、社員が顔を洗える洗面設備を設置しなければなりません。加えて、業務上、社員の服が汚れたり、濡れたりすることがある場合は、更衣室やシャワー設備、乾燥機などを設置しなければなりません(義務)。
また、2022年4月1日からは、社員が更衣室やシャワー設備を、性別に関係なく安全に使えるよう、プライバシーに配慮することが会社に求められるようになりました。プライバシー保護の基本的な考え方は、前述した独立設置型のトイレと同じです。
5 休養室・休養所
休養室・休養所とは、体調が悪い社員や生理中の女性社員が横になって休むことのできる場所のことです。部屋の場合は「休養室」、施設の場合は「休養所」といいます。会社は、
社員が50人以上または女性社員が30人以上いる場合、休養室・休養所を「男女別」に設置
しなければなりません(義務)。
また、2022年4月1日からは、オフィスの空いているスペースを臨時の休養室として使う場合などに、社員がすぐに利用できる体制を整えることが求められるようになりました。例えば、
社員が体調不良を訴えたら、すぐに折りたたみ式のベッドを出せるようにする
といった具合です。また、社員が安心して休めるよう、プライバシーと安全に配慮することが求められるようになりました。例えば、
- 入口や通路から直視されないように目隠しを設ける
- 関係者以外の出入りを制限する
- 緊急時に安全に対応できるよう、救急用具を揃えておく
といった具合です。
6 休憩設備
休憩設備とは、社員が食事をしたり、休憩したりするための場所です(設置は努力義務)。設置に関する具体的な基準は特にありません。
ただし、2022年4月1日から「休憩スペースの広さや設備内容については、衛生委員会などで調査審議・検討するのが望ましい」旨が示されたので、衛生委員会がある社員数50人以上の会社などは認識しておいたほうがよいでしょう。例えば、「同じタイミングで休憩する社員が多い場合、今の休憩設備は窮屈でないか」などについて確認してみましょう。
7 救急用具
会社は、負傷した社員の応急手当に必要な救急用具を備えて、清潔に保たなければなりません(義務)。救急用具の品目については、以前は最低でも
- 包帯・ピンセット・消毒薬
- 火傷薬(業務上、火傷の恐れがある場合)
- 止血帯、副木、担架等(業務上、重傷者が出る恐れがある場合)
の3つを用意することが義務付けられていたのですが、2022年4月1日からは具体的な品目が削除され、各社が想定される事故などに応じて必要な品目を準備することになりました。
ホワイトカラーの会社でも、はさみやカッターによるけが、階段での転倒などが起こり得るので、救急用具は必需品です。一概には言えませんが、包帯・ピンセット・消毒薬などの他、感染予防のためのマスク・ビニール手袋・手指洗浄薬などを用意しておく必要があるでしょう。
また、救急用具の保管場所や使用方法、応急手当後の対応ルール(医療機関への搬送など)については、あらかじめ社内で共有しておきましょう。
8 室温
会社には、空調設備(エアコンや加湿器など)がある部屋の室温を、法令で定める基準に設定することが求められています(努力義務)。
2022年4月1日からは、室温に関する努力目標値が次のように変更されています。
- 法改正前:17度以上28度以下
- 法改正後:18度以上28度以下
9 作業環境測定
オフィスに中央管理方式の空調設備がある会社は、原則2カ月以内に1回、次の項目に関する作業環境測定をし、その記録を3年間保存しなければなりません(義務)。
- 一酸化炭素・二酸化炭素の含有率(原則、検知管方式の測定器で測定)
- 室温・外気温(0.5度目盛の温度計で測定)
- 相対湿度(0.5度目盛の乾湿球の湿度計で測定)
このうち、一酸化炭素・二酸化炭素の含有率の測定については、検知管方式と同等以上の性能がある場合、他の測定器の使用も認められています。2022年4月1日からは、具体的な測定器の例として次の2つが示されています。
- 一酸化炭素の場合:定電位電解法を用いる測定器
- 二酸化炭素の場合:非分散型赤外線吸収法(NDIR)を用いる測定器
なお、作業環境測定に必要な機器は、各都道府県の産業保健総合支援センターなどで貸し出している場合があります。また、自社で行うのが難しい場合は、「作業環境測定士」に依頼することもできます。
以上(2023年6月更新)
(監修 社会保険労務士 志賀碧)
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