書いてあること
- 主な読者:経営状態が厳しく、社員の整理解雇を検討する経営者
- 課題:整理解雇は有効性の判断が厳しい。対象となる社員のためにしっかりと対応したい
- 解決策:整理解雇の成立を左右する「4要素」を押さえつつ、適法に行った証拠を残す
1 経営危機下に行う「整理解雇」
整理解雇とは、
「会社が経営危機に陥った」「特定の事業部門を廃止することになった」など、経営上の理由から、余剰人員を削減するために行う解雇(リストラ)
です。整理解雇で注意しなければならないのは、
社員側に落ち度がない解雇なので、普通解雇(能力不足などを理由とした解雇)よりも、「有効」と認められるハードルが高い
という点です。裁判などで整理解雇が「無効」になったケースは少なくなく、会社が敗訴した場合、解雇した社員から係争中の賃金の支払いや損害賠償を求められることもあります。
こうしたトラブルを防止する上でのカギとなるのが、
「整理解雇の4要素」と呼ばれる、整理解雇の成立を左右する4つの要素
です。経営者にとっても経営危機による整理解雇は無念であり、だからこそ実施する際は適法に進めなければなりません。以降で4要素の考え方を詳しく紹介するので、確認してみましょう。
なお、4要素を押さえることは大切ですが、実務では訴訟になった場合などに備え、「適法に整理解雇を行った」といえる証拠を残しておくことも重要です。次のような証拠がないと、裁判で「整理解雇ついて十分に検討していない」と判断される恐れがあるので注意しましょう。
- 人員削減の必要性があると判断した経営会議の議事録、整理解雇の計画書
- 解雇を回避するための措置(経費削減、人件費削減、配置転換・出向、希望退職の提案等)に関する検討や実施の記録
- 被解雇者の選定基準が分かる資料、人事考課表
- 対象社員、労働組合への説明に用いた資料、協議の議事録
2 整理解雇の成立を左右する「4要素」
前述した通り、整理解雇は社員側に落ち度のない解雇であるため、裁判では次の4要素を考慮し、普通解雇(能力不足などを理由とした解雇)よりも、解雇が有効かを厳しく判断します。
過去には、これらを「4要件」として「どれか1つでも欠ければ整理解雇は無効になる」と判断した裁判例がありますが、最近は「4要素を総合的に考慮して妥当といえなければ無効になる」という考え方にシフトしています。
3 要素1:人員削減の必要性
人員削減措置が経営上の必要性に基づいているかを判断します。人員削減の必要性がどの程度あるかがポイントです。レベルは次の4つに分けられ、1.が最も必要性が高く、4.が最も低くなります。
- 「倒産必至」の状態
- 「客観的に高度の経営危機」下にある状態
- 「会社の合理的運営上やむを得ない必要性」がある状態
- 「経営方針の変更等により余剰人員が生じる」状態
過去には、1.の「倒産必至」の状態でなければ、人員削減の必要性は認められないとした裁判例がありますが、最近は認められる範囲が広がっています。その代わり、人員削減の必要性のレベルに応じて、「要素2:解雇回避努力義務の履行」のレベルが変わってきます(詳細は後述)。
人員削減の必要性が否定される典型例は、(特に1.の「倒産必至」、2.の「客観的に高度の経営危機」にある状態で)人員削減を行いながら、次のような矛盾する行為をした場合です。
- 大幅な賃上げを実施した場合
- 多数の新規採用を実施した場合
- 高額な配当を実施した場合
4 要素2:解雇回避努力義務の履行
整理解雇を回避する努力を尽くしているかを判断します。整理解雇前に次の3つを検討・実施しているかがポイントです。
- 経費の削減(広告費、交際費などの削減)」
- 人件費の削減(役員報酬の削減、残業削減、昇給停止など)
- 解雇回避措置(新規、中途採用の停止・縮小、配置転換・出向・転籍の実施、提案、希望退職者の募集など)
こうした手段を講じずに、いきなり整理解雇に踏み切っても、基本的には無効となります。ただし、前述した通り、「要素1:人員削減の必要性」のレベルに応じて、会社に求められる解雇回避努力義務の履行のレベルは変わってきます。
例えば、1.の「経費の削減」や2.の「人件費の削減」をしても経営危機から立ち直れない場合、3.の「解雇回避措置」は必ずしも求められません。逆に会社が経営危機の状態になければ、3.の措置は強く求められます。
5 要素3:人選の合理性
被解雇者を選定するための合理的な基準を設定し、公正に適用しているかを判断します。被解雇者の選定基準が、次の3つを満たしているかがポイントです。
- 明示的な基準設定(選定基準が社員に明示されているか)
- 基準自体の合理性(整理解雇がやむを得ないといえる選定基準になっているか)
- 基準適用の相当性(選定基準が公正に適用されているか)
1.の「明示的な基準設定」については、選定基準が社員に明示されている場合、人選は合理的だと判断されやすくなります。
2.の「基準自体の合理性」については、勤務成績(欠勤日数、遅刻回数など)、会社への貢献度(勤続年数など)、再就職の可能性を踏まえた経済的打撃の低さ(例:対象年齢が30歳以下)などを基準にすると、人選は合理的だと判断されやすくなります。
3.の「基準適用の相当性」については、合理的な選定基準があるのに、気に入らない社員を整理解雇の対象にするなど恣意的な運用をした場合、整理解雇は無効と判断されやすくなります。
6 要素4:手続きの妥当性
被解雇者などに十分な時間をかけて丁寧な説明を行ったかを判断します。整理解雇の前に、次の2つを実施しているかがポイントです(2.は労働組合がある場合のみ)。
- 被解雇者に対する整理解雇の必要性と時期、希望、方法についての説明、協議
- 労働組合に対する整理解雇の必要性と時期、希望、方法についての説明、協議
1.も2.も、整理解雇の有効性に与える影響が小さいとされています。ですが、整理解雇の有効性の判断は分かりにくいですし、訴訟などのトラブルを事前に回避するという意味でも実施しておいたほうがよいでしょう。
特に「要素3:人選の合理性」については、「合理的な基準」の判断が難しいので、そこで社員の納得が得られなくても、説明、協議によって会社の誠意を見せるようにします。また、「要素1:人員削減の必要性」が低いような場合、配置転換の意向も確認しておくことも重要です。
なお、労働組合との労働協約の中に「整理解雇についての協議条項」が定められている場合、協議事項に反する整理解雇は認められないので、労働組合がある会社は注意が必要です。
以上(2023年12月更新)
(執筆 日比谷タックス&ロー弁護士法人 弁護士 堀田陽平)
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