書いてあること

  • 主な読者:今の状況に応じて「優秀な社員」を再定義し、人材育成につなげたい経営者
  • 課題:ビジネスの環境が大きく変わる中、昔のエースの作法が通用しなくなってきた
  • 解決策:会社の期待する成果とそれをコンスタントに達成している社員を再定義する

1 コンピテンシーをバージョンアップ!

「コンピテンシー」とは、

高い成果を上げる「ハイパフォーマー」の行動特性

です。例えば、野球で150キロ超の球を投げる投手には、図表1のような共通した投球動作があるといわれます。こうした高い成果を上げるための要素1つ1つがコンピテンシーです。

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そして、このコンピテンシーを可視化し、採用、配置、教育、人事評価などに活用するのが「コンピテンシーマネジメント」です。コンピテンシーマネジメントという言葉は使わなくても、

社内の優秀な社員がやっていることを他の社員にも横展開する

ことは、多くの会社が日常的に行っていると思います。成果に結びつく行動を「型」として共有することは人材育成の基本です。ただ、問題は

過去のコンピテンシーが、今の時代に通用しなくなってきていること

です。「昭和だな~」などと今っぽくないことを揶揄(やゆ)することがありますが、実際のビジネスでも古めかしいやり方を推奨し、組織で共有しているケースがあります。こうした組織が成果を上げたり、業務効率化を実現したりできるわけがありません。現在のように経営環境の変化が急激なときにはコンピテンシーの見直しが必要です。

そこで、この記事ではコンピテンシーマネジメントのポイントを分かりやすく紹介します。

2 遠慮なく変える。ただし、大切なものは残す

コンピテンシーの見直しで起こりがちな問題は、

過去のハイパフォーマーに忖度(そんたく)し、コンピテンシーの変更ができないケース

です。例えば、ベテラン営業部長の行動特性をコンピテンシーとしている場合、部下などはその営業部長のやり方を否定しにくいものです。この点は、経営者が率先して変えていくしかありません。ただし、

「古いものは全てダメだ」と、過去のコンピテンシーの良いところまで否定してしまう

ことは避けましょう。営業相手の調査を徹底することや、礼儀礼節を欠かさないことなど、時代に関係なく大切なことがあります。

3 コンピテンシーを明らかにしていく

1)成果とは

成果の定義は会社次第ですが、「QCDV」という指標を使うとまとめやすくなります。

  • Q(Quality):ミス、エラー、事故、不良などがない
  • C(Cost):投入資源(ヒト、モノ、カネ、時間など)が少ない
  • D(Delivery):納期に遅れない(または納期より早い)
  • V(Value):プラス(売上、出来栄え、生産量、品質)が多い、高い

よく間接部門は成果が定義しにくいといわれますが、そのようなことはありません。「ミスが少ない、省力化されている、余裕を持って決算業務を終える、採用コストを抑える」など考え方次第で成果を定義できます。ここで定義した成果をコンスタントに上げている社員がハイパフォーマーです。

2)コンピテンシーのイメージ

例えば、営業職が「新規取引の成功」という成果を上げた場合、その裏には「情報収集力」「プレゼンテーション力」「条件交渉力」「ビジネスマナー」など、さまざまなコンピテンシーがあります。コンピテンシーマネジメントでは、こうしたコンピテンシーを洗い出した上で、「コンピテンシーモデル」という1つの箱にまとめます。

コンピテンシーモデルをゼロからつくるのは大変なので、一般的なものをたたき台にして、自社に合わせてブラッシュアップしていきます。図表2は、人事政策研究所が提唱しているコンピテンシーモデルの一例です。

画像2

4 コンピテンシーマネジメントの流れ

1)コンピテンシーインタビュー

「コンピテンシーインタビュー」とは、

ハイパフォーマーとコンピテンシーを明らかにするためのインタビュー

です。インタビューの対象者は、会社が期待する成果を上げている社員ですが、この時点では、必ずしもコンスタントに成果を上げていなくても構いません。

インタビューの内容は、

  1. 過去(直近2~3年など)に、どのような成果を何回出しているか
  2. 1.の成果を出すために、どのような行動をしたか
  3. 2.の行動を選択したのは、どのような意図によるものか

などです。いずれの質問にも明確に答えられる社員は、特定の行動特性によって高い成果をコンスタントに上げているハイパフォーマーと評価できます。また、同じ職種にハイパフォーマーが複数人いて、同じ行動特性がある場合、その行動特性は重要なコンピテンシーとなります。

なお、インタビューだけでハイパフォーマー、コンピテンシーを決めるのは早計なので、実際の社員の業務の様子を観察した上で判断します。

2)コンピテンシーモデルの設計

コンピテンシーインタビューが終了したら、一般的なコンピテンシーモデルをたたき台にして、自社に合わせてブラッシュアップしていきます。

出来上がったコンピテンシーモデルを、ハイパフォーマーだけでなく他の社員にも確認してもらいます。優れたコンピテンシーでも、特定の人間しか実践できないようでは効果が限定されます。ハイパフォーマーにコンピテンシーのポイントを説明してもらいつつ、他の社員が実践できるかを確認します。あまりにも高度なものは、コンピテンシーモデルから削除します。

3)採用、配置、教育、人事評価などへの落とし込み

コンピテンシーを採用、配置、教育、人事評価で活用するイメージは次の通りです。

1.採用

面接などでコンピテンシーモデルを活用すれば、求職者がその時点でどのようなコンピテンシーを持っているのか、そのレベルはどの程度なのかなどがイメージできます。

2.配置

コンピテンシーモデルの活用で人材の行動特性を把握できていれば、おのずと最適な職種が発見できます。

3.教育

ハイパフォーマーのコンピテンシーを基準にOJT教育を実施したり、必要な研修を組んだりすることができます。また、成果の上がらない社員については、コンピテンシーモデルとその社員の行動特性とを比較することで、指導の方向性を決めることができます。

4.人事評価

コンピテンシーマネジメントでは、最終的な結果のみならず、それに至るまでのプロセスも評価します。テレワークなどで働きぶりの見えにくい社員も、コンピテンシーに沿ったプロセスを踏んで業務を進めているかどうかで評価できます。

以上(2024年9月更新)

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画像:pixabay

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