リース会社に勤める中堅社員のAさん。最近、服装がガラリと変わりました。どうやら、先月参加したイベントで他の参加者に刺激を受け、服装をカジュアルにしたようです。
Aさんの会社はカジュアルな服装が認められていますし、会話で横文字を使うのも普通です。ただ、Aさんの場合、どこか“ 板についていない” 印象がある上に、急激な変わりっぷりも気になります。
そこで、課長がAさんに声をかけてみました。
「Aさん、ここのところずいぶんと印象が変わったね!」
するとAさんは、次のように答えました。
「課長もスーツにネクタイなんてダメですよ。そんな堅苦しい格好では、いいアイデアなんて出てきません」
課長はため息をついた後、言いました。
「確かに格好から入ることも大事だ。ただ、スーツをジーンズに替えただけで、すごいアイデアが出てくるものなのかな?」
スーツ族とジーンズ族
考え方や立場の違いを、団塊ジュニアやミレニアル世代などといったグループで区別することがあります。「スーツ族とジーンズ族」の違いもこれと同じようなものかもしれません。
一般的なビジネスパーソンの場合、警察官の制服のように誰もが一目で職業を認識できるようにしたり、工場の作業着のように労災のリスクを徹底的に低減したりする必要はなく、割と自由に服装を選択することができます。
にもかかわらず、服装選びに対する考え方は立場によって大きな違いがあります。最近は減ってきたように思いますが、「お客様に失礼だから、スーツを着てビシッとしなければダメだ!」という意見や、「スーツは堅苦しい印象になるし、窮屈で生産性が低下する!」という意見があり、互いに相容れない部分があるようです。
服装選びのポイント
スーツとジーンズ(ここでは、カジュアル全般の意味)のどちらが仕事の服装としてふさわしいかについてはケース・バイ・ケースですが、仕事の服装を選ぶ基準は次の2 つです。
- 相手に失礼のないこと
- 仕事がしやすいこと(動きやすい、快適など)
単純に考えれば、相手に失礼のない服装はスーツにネクタイが無難、仕事がしやすい服装はジーンズよりもっと楽なジャージーが好ましいといえるでしょう。
とはいえ、例えばIT 系のイベントにガチガチのスーツ姿で参加したら浮いてしまいます。同様に、いくら動きやすいとはいえ、ホテルのフロントがジャージーで勤務したら違和感があります。
「守破離」に当てはめてみよう
冒頭のAさんは、参加したイベントで自分が知らなかった新しい雰囲気に刺激を受け、服装という分かりやすいところから取り入れました。この姿勢を、柔軟で向上心があるととるか、短慮で場当たり的ととるかは、Aさんの言動次第です。
この問題は、「守破離」で考えてみると分かりやすいです。具体的には次のイメージです。
- 「新しいアイデアを得るためにイベントに参加した。まずは周囲に合わせ、その格好をまねながら、ルールや考え方を深く理解する(「守」の段階)。その上で自分なりのアレンジを加え(「破」の段階)、最終的に自分のオリジナルスタイルを確立する(「離」の段階)」
そうではなく、「手段の目的化」に陥っているようなら問題です。「手段の目的化」とは、目的を達成するための手段ばかりに目がいき、その手段を講じること自体が目的にすり替わってしまっている状態です。
Aさんがイベントに参加した目的は、ビジネスの課題解決や人脈拡大のはずです。それを忘れず、まず服装をまねてみたのなら問題はありません。
しかし、服装をカジュアルに変えたことに満足し、本来の目的を達成するための努力を怠ってしまうのは本末転倒です。
継続すること、味方を得ること
変化を起こそうと頑張る中堅社員は、組織の宝です。せっかくの取り組みを、単に「ジーンズ族にかぶれた人」という残念な評価で終わらせないためにも、本来の目的を達成する努力を継続しましょう。
その際、「スーツ族とジーンズ族」といったような、目的とは直接関係のない二項対立を作り出し、不要な摩擦を生むことは、絶対に避けなければなりません。
新しいことを始めようとするときは摩擦が生じます。中堅社員はそうした摩擦を恐れず、前に進む勇気を持ちたいものですが、その勇気はスーツをジーンズに替えただけで示せるものではありません。正しい目標を設定し、継続的に取り組むことを忘れないようにしましょう。
Point
- 中堅社員は変化を起こす勇気を持とう!
- ただし、「手段の目的化」に陥らないように注意する。
- 不要な二項対立も作ってはならない。
以上(2019年8月)
pj00423
画像:Eriko Nonaka