書いてあること
- 主な読者:場所や時間にとらわれない働き方を実現したい経営者
- 課題:労働時間管理など、労務上、どのような問題があるのか分からない
- 解決策:労働時間管理、健康管理、就業規則の見直しのポイントを紹介する
1 テレワークの労務のポイント
1)制度の概要
テレワーク(リモートワーク)は、パソコンやタブレット、スマートフォンなどを使って場所や時間にとらわれずに働く勤務形態です。自宅で仕事をする在宅勤務、勤務先以外のオフィススペースで働くサテライトオフィス勤務などが含まれます。
会議支援システムやチャットツールなどの発達と、「会って話すのが最高」という認識が変化し、時間効率やコスト削減も重視されるようになったことで、テレワークの導入企業が増えています。
2)労働時間管理のポイント
テレワークでは、オフィス備え付けのタイムカードを使って始業・終業時刻を把握することができません。そこで、一般的にはテレワークを行う社員からの自己申告(始業・終業時に、オフィスに電話で連絡を入れるなど)や、ノートパソコンでも打刻が可能な勤怠管理システムによって、始業・終業時刻を把握することになります。
難しいのが、「子どもの保育園の送迎」「自宅での家族の介護」など、私用のために業務を中断する「中抜け」です。中抜けの時間、その間の賃金を決めなければなりません。
中抜けがあった場合の労働時間管理の例は次の通りです。なお、図表1では本来の始業時刻を9:00、終業時刻を18:00、休憩時間を12:00~13:00(1時間)とします。
「休憩時間として扱い、終業時刻を繰り下げる場合」は、中抜けの時間の賃金は無給とし、企業は社員に対し、終業時刻を繰り下げた時間(1時間)を含めた8時間の労働に対する賃金を支払います。
「時間単位の年次有給休暇として取り扱う場合」は、中抜けの時間の賃金は有給とし、企業は社員に対し、7時間の労働と1時間の年次有給休暇(合計8時間)に対する賃金を支払います。
3)健康管理のポイント
テレワークを行う社員が健康障害に陥りやすいのは、長時間労働です。問題は、「社員が虚偽の始業・終業時刻を申告(打刻)するケース」です。実際は業務が終了していないのに、「定時で業務が終了した」と嘘をついてサービス残業をすることがあります。
対策として考えられるのは、「勤務時間の途中で、社員から業務状況を報告させるタイミングを設け、その状況を基に管理職が残業命令を出す」「深夜・休日などに、外部から社内システムに入れないようアクセス制限を行う」などです。
また、非常に根本的なところですが、テレワークは仕事であり、働く場所が違うだけです。発熱した社員が、「出勤はつらいのでテレワークをします」と申告してくることがありますが、これは認めてはいけません。
4)就業規則の見直しのポイント
まず、テレワークの対象を定めます。通常、育児・介護を行う社員などに限定する例が多いですが、対象範囲が狭すぎると効果が限られますし、対象外となった社員の不満にもつながります。また、新型コロナウイルス感染症が重要な問題となっている昨今、多くの社員をテレワークの対象にせざるを得ないケースもあります。
平時においては、新入社員など明らかにテレワークに向かない社員を除き、「自立して業務を遂行できると管理職が判断した社員」をテレワークの対象とする旨を定め、緊急時には会社の判断で拡大できるようにするとよいでしょう。
必要に応じて、賃金規定も見直します。例えば、在宅勤務では社員の自宅の水道光熱費などが上昇する可能性があるので、「テレワーク勤務手当」などとして上乗せします。逆に、通勤しなくなるので通勤手当を削減または廃止することができます。
2 時差出勤の労務のポイント
1)制度の概要
時差出勤は、所定労働時間を変更せず、始業・終業時刻を変更する労働時間制度です。始業・終業時刻を繰り上げる(または繰り下げる)ことで、社員は通勤ラッシュを避けられます。また、社員のリズムに合わせて、集中しやすい時間帯に働けるようになります。
図表2では、本来の勤務時間を「9時始業・18時終業」、時差出勤の勤務時間を「10時始業・19時終業」としています。実際は「11時始業・20時終業」など、時差出勤の勤務時間を複数用意することも可能です。
2)労働時間管理のポイント
時差出勤は始業・終業時刻を変更するだけで、所定労働時間には変更がないため、労働時間管理の方法は通常時とほぼ変わりません。ただし、深夜労働(原則として22時から翌日5時までの労働)の扱いには注意しましょう。
例えば、勤務時間が「9時始業・18時終業」のAさん、「10時始業・19時終業」のBさん、「11時始業・20時終業」のCさんがそれぞれ4時間ずつ残業したとします(全員、休憩は1日1時間とします)。
この場合、3人の実労働時間は同じ(12時間)でも、深夜労働の時間数がそれぞれ異なることになります。深夜労働について、会社は25%以上の割増賃金の支払いが必要です。
- Aさん(9時始業・22時終業)の深夜労働:0時間
- Bさん(10時始業・23時終業)の深夜労働:1時間
- Cさん(11時始業・24時終業)の深夜労働:2時間
3)健康管理のポイント
時差出勤のメリットの1つは、社員が通勤ラッシュを避けられることです。しかし、社員の自宅からオフィスまでの距離や、利用する路線によっては、かえって混雑した時間帯に通勤することになり得るので、社員に状況を確認してみるとよいでしょう。
さらに注意すべきは、早く出勤してきた社員の長時間労働です。終業時刻が19時だと、それほど遅く感じません。しかし、時差出勤で7時に出勤していたら、すでに11時間働いていることになります(休憩1時間の場合)。実際の時間と労働時間の感覚にズレが生じるため、注意が必要です。
4)就業規則の見直しのポイント
始業・終業時刻は、就業規則の絶対的必要記載事項です。時差出勤によって始業・終業時刻を変更したり、複数の勤務時間を設けたりする場合は、その旨を就業規則に記載します。
テレワークと違い、時差出勤は全社員を対象として差し支えないでしょう。ただし、複数の勤務時間を設ける場合、1つの勤務時間に社員が偏ると、顧客対応などの業務に支障が出る恐れがあります。そのため、「時差出勤の勤務時間については、社員の希望を聴取した上で業務の状況などを勘案し、会社が決定・通知する」といった規定を設ける必要があるでしょう。
以上(2020年4月)
(監修 シンシア総合労務事務所 特定社会保険労務士 白石和之)
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