書いてあること
- 主な読者:採用活動のデジタル化を検討したい経営者
- 課題:デジタルは苦手。それに人を採用するのだから、リアルのほうがいい?
- 解決策:いい人材に自社からアプローチして、人材データベースを構築。関係を温めて、採用候補者をあぶり出 して採用につなげる。こうした一連の活動がデジタルの力を借りることで、適切に行える
新型コロナウイルス問題は、採用市場を激変させました。空前の人手不足から一変し、企業の採用意欲は劇的に冷え込んでいます。しかし、こうして他社の採用活動が慎重になることは、逆にいい人材を獲得できるビッグチャンスともいえます。勇気は必要なものの、不況期こそ「攻めの採用活動」に転じるべきなのです。
そして採用のカギを握るキーワードが「デジタル」です。本連載では、ウィズコロナ時代の採用における明暗を分けていくであろう「リクルーティングDX(デジタル・トランスフォーメーション)」のノウハウについて解説していきます。
第2回のテーマは、ダイレクト・リクルーティングとその進化形、タレントプールとリクルーティング・オートメーションについて。横文字だらけで「?」かもしれませんが、できるだけ分かりやすくお伝えしていきます。最先端のデジタル・リクルーティングについて学んでいきましょう。
1 ダイレクトの定義
本稿の理解を深めるためにも、まずはダイレクト・リクルーティングについての解説から始めていきたいと思います。
ダイレクト・リクルーティングとは、
- 人材サービスに頼ることなく(=企業がダイレクトに行う)、
- 自ら欲しい人材を見つけて(=候補者にダイレクトにコンタクトを取り)採用すること
ダイレクトには、こうした2つの意味が込められています。
もう少し補足しましょう。ダイレクト1.は、「求人広告への掲載」や「人材紹介」といった人材サービスへ採用業務(=母集団形成)を発注することが採用のアウトソーシングだとしたとき、その対比として、自社で積極的に採用活動を展開することを指しています。
第1回でお伝えしたように、Indeedをはじめとする「求人検索エンジン」から“直接”自社の「採用ホームページ」に誘導するという手法は、求人広告メディアを介さないという点で、まさにダイレクト・リクルーティングといえます。採用ホームページ=オウンドメディアを主軸とした採用は“手っ取り早い”という観点から「ファスト・リクルーティング」とも呼ばれています。
ダイレクト2.は、企業が求めている人材に対し“直接”アプローチするという採用のやり方を示しています。応募があった際に選考する「待ちの採用」ではなく、企業が自ら欲しい人材を“直接”スカウトする「攻めの採用」ともいわれます。日本においてダイレクト・リクルーティングといえば、1.よりも2.のスカウト手法を指すことが一般的でしょう。ちなみにダイレクト・リクルーティングは和製英語で、このようなスカウト方式を英語では「ダイレクト・ソーシングDirectsourcing」と呼びます。
2 データベース・リクルーティング
日本において、こういった「スカウト」系のダイレクト・リクルーティングは、求人サイトに登録した求職者データベースを対象に始まりました。求人広告を掲載した際のオプションサービスとして、登録者に対してオファーを送ることができるようになったのです。このサービスは企業側、求職者側、双方の支持を得たことで瞬く間に広がっていきました。
そして、こうしたダイレクト・リクルーティングの流れを決定づけたのがSNSの普及です。ソーシャルにつながっていくサービスが生まれたことで、「誰がどこでどんな仕事をしていて、どういう経歴を持っているのか」という情報にアクセスすることが、どんどん一般化していったのです。そこに記載されている本人情報、あるいは投稿内容から過去のキャリアや今後の志向などを読み取ることもできます。スカウト目線で見ると極上の人材データベースといえるかもしれません。
欲しい人材を直接スカウトする。こうしたダイレクト・リクルーティングを成功させるカギを握るのが「人材データベース」の質にあるのは、いうまでもありません。求人サイトの登録者データベースにせよ、さらにはSNS上のつながりをベース構築するデータベースにせよ、(表現としてはあまり適切ではないかもしれませんが)どの漁場に釣り糸を垂らすかが、採用の勝敗を決するわけです。
3 タレントをプールして、自前のデータベースを作る
この人材データベースを自前で構築しようというのが「タレントプール」の考え方です。
才能を意味する「タレント」と、蓄えることを意味する「プール」を組み合わせた言葉で、有望な人材をためて、その人材に企業が継続的にアプローチしていくためのデータベースを指します。これまで優秀な個人を一企業が見つけてくることは困難だとされていましたが、デジタル技術の進化は不可能を可能にしてくれたのです。まさにリクルーティングDXです。
タレントプールの手法をもう少しかみ砕いて解説します。この手法は、
- 企業にとって「逃したくない人材」、すなわち経験や技術、実績などの条件面で非常に高いポテンシャルを秘めている人材をためる、
- その人材と継続的にコンタクトを取り、常に一定の関係性を構築する。そして、企業と有望人材の双方にとってベストなタイミングが来た際に、採用を実施しよう
という考え方なのです。
まず1.の自社独自の候補者データベースを構築するにはどうするか。データベースの質がカギを握ると述べたように、ここは極めて重要なポイントです。最初にやるべきなのは、自社の採用ホームページに「応募ボタン」だけでなく「タレントプール登録ボタン」を付けること。
拍子抜けするくらいシンプルな方法ともいえますが、「求人応募」以外の選択肢が設けられていることにより、「今すぐの転職は考えていないが、興味はある」という、まさに潜在的な採用候補者をキャッチ、プールして資産に変えることが可能となります。現にタレントプール活用が進む海外企業の採用サイトでは、「求人への応募」以外に「タレントプールに登録する」というボタンが設置されているケースがほとんど。これ以外のプールの作り方については、連載3回目となる次回で詳しく解説する予定です。
4 登録された「タレント」との関係性を、時間をかけて温める
そして2.潜在候補者の登録自体は「タレントプール」のスタートにすぎません。重要なのはむしろこれからです。「今すぐの転職は考えていないが、興味はある」という状態の人が登録するわけなので、当然、この会社に応募しようというスイッチはまだ入っていません。「採用につながるタレントプール」に育てていくためには、登録したタレントの「転職スイッチオン」のタイミングを素早くキャッチしたり、自社への興味喚起や、イベントなどオフラインの場での接点づくりが必要となります。
登録者と細やかなコミュニケーションを取りながら関係性を構築する。プールされたタレントが採用候補者への階段を一歩一歩上っていく。結果としていい人材を採用できる。概念としては素晴らしいものの、これには採用担当者の並々ならぬ労力を必要とします。候補者とのコミュニケーションを管理するために、Excelやスプレッドシート、既存の採用管理システムなどとにらめっこするだけで1日が終わってしまいそうです。
5 マーケティング・オートメーションの採用版
この煩雑な業務をテクノロジーで解決する。ここがタレントプールというダイレクト・リクルーティングの進化形を成功させる肝の部分です。AIをうまく活用しながら半自動的に適切なタイミングで、適切なコミュニケーション(メルマガ配信やキャンペーン、イベントの案内など)を取っていくことで、熱量を持った採用候補者をあぶり出していくのです。
この手法は「マーケティング・オートメーション」の採用版として、「リクルーティング・オートメーション」とも呼ばれています。マーケティング・オートメーションとは、獲得した見込み客を半自動的に育てながら、検討度合いの高い見込み客をAIで選別し、商談を成立させるという営業マーケティングにおけるデジタル時代の新手法。
例えば、過去のデータから機械学習して「タレントプール登録から1週間後に、社長のインタビュー記事を配信」「タレントプール登録から3回以上採用サイトにアクセスした場合に、面談に呼び込むメールを送る」など、候補者とのコミュニケーションを取りながら関係性を構築し、ジャストタイミングでオファーにつなげていくことが可能なのです。
6 買い手市場の今が導入の好機
もう一度、まとめを記しておきます。
- いい人材にこちらからアプローチするダイレクト・リクルーティングに、デジタル・マーケティングの手法を導入する
- タレントプールという人材データベースを構築し、そのデータベースに対しAIを駆使しコミュニケーションを取りながら関係を温める
- オートメーション技術で採用候補者をあぶり出して採用につなげる
最先端のリクルーティング手法の概念と一連の流れについて、理解していただけたでしょうか。
では、どうやって実践すればよいのか。タレントプール、あるいはリクルーティング・オートメーションというHRテックサービスが、日本にも出てきています。両者は独立したものではありません。リクルーティング・オートメーションを完備したタレントプールであったり、タレントプールを前提としてリクルーティング・オートメーションを強く打ち出していたりしますが、基本的にはセットです。ぜひ問い合わせなどしてみてください。
人手不足の売り手市場だと、候補者のプールを作るのは大変かもしれませんが、今は買い手市場です。試してみるには絶好の機会です。
以上(2020年7月)
(執筆 平賀充記)
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