書いてあること
- 主な読者:販売員を指導する教育担当者
- 課題:販売員の接客方法を見直したい、改善したい
- 解決策:言葉遣いや身だしなみの基本を押さえた上で、より顧客からの好感度が上がる接客方法を習得させる
1 接客に不可欠な3つの要素
接客で相手に好印象を与えるためには、「態度、言葉遣い、身だしなみ」が重要です。例えば、礼儀正しい態度、正しい言葉遣い、清潔で衛生的な身だしなみということですが、これらは、ほぼ第一印象で判断されます。
経営者は、自社が大切にする態度、言葉遣い、身だしなみの基準を社員に周知徹底しなければなりません。そして、現場の責任者は販売員が常に実践できるように訓練する必要があります。
本稿では、企業が自社の態度、言葉遣い、身だしなみの基準を検討、あるいは再確認する上でヒントとなる情報を紹介します。ご一読いたき、御社が大切にすべきこと、改善すべきことの整理につながれば幸いです。
2 態度
1)販売員の心構え
販売員の仕事は、商品を「売る」ことではなく、お客様が「買う」ための手伝いです。詳細な説明を求める人、自由に検討したい人など、お客様はさまざまです。親切で誠意ある態度を取ることを前提に、ある程度の判断は販売員に任せるのがよいでしょう。
2)明るい声と笑顔
明るい声と笑顔はとても大切です。朝が弱くて、声が出ない、頭も働かないという人でも、明るい笑顔をつくれば明るい声が出てきます。ただし、むやみに大きな声で話すとお客様を驚かせてしまうので、販売員同士で心地良い大きさを検討しましょう。
話すスピードは、速過ぎても遅過ぎてもいけません。早口で話すと、落ち着かない印象を与え、追い立てられる感じがします。逆に、あまりにゆっくりだと、お客様を馬鹿にしているような印象を与えかねせん。
3 言葉遣い
1)接客の基本6用語
まず、次の「接客の基本6用語」を確実にマスターしましょう。これらを知ると、接客の流れを再認識することにもつながります。
- いらっしゃいませ
- かしこまりました
- お待たせいたしました(少々お待ちくださいませ)
- 申し訳ございません(申し訳ございませんでした)
- 恐れ入ります(恐れ入りますが……)
- ありがとうございます(ありがとうございました)
2)適切な敬語
敬語には、丁寧語、尊敬語、謙譲語があります。丁寧語は語尾に「○○です(でした)」「○○します(しました)」とすればよいので簡単ですが、尊敬語と謙譲語は慣れないと使い分けが難しいものです。
尊敬語は相手に敬意を払う表現、謙譲語は自分をへりくだって使う表現です。よく使われる敬語の例は次の通りです。尊敬語や謙譲語を使用するときには丁寧語を併せて使用するのが一般的なので、それぞれ丁寧語を併せた表現にしています。
敬語に慣れるには、ロールプレーイングを繰り返すことが一番です。前述の「接客の基本6用語」の発声練習を行うことは敬語の練習にもなります。
また、敬語とは少し違いますが、上品な印象を与える美化語も知っておきたいものです。美化語とは、名詞の前に「お」や「ご」を付けます。「この菓子は茶に合いますね」と「このお菓子はお茶に合いますね」とでは、後者のほうが上品です。
3)分かりやすい言葉
お客様と話をするときは、分かりやすい言葉を使います。お客様の知らない用語を多用することは、お客様を不快な気持ちにさせてしまいます。業界や自店でのみ通用する略語や通称なども、お客様と話しているときに使ってはいけません。
4 身だしなみ
接客には、清潔感ある身だしなみが不可欠です。お客様に不快な印象を与えない身だしなみを心掛けましょう。例えば、飲食店で清潔感がないことは致命的なので、無精ヒゲは好ましくありません。
一方、アパレルの場合では、販売スタッフはファッションリーダーであり、無精ヒゲがおしゃれに見えることもあります。業種に合わせて適切な基準を決め、その実効性を持たせるために就業規則の服務規定に定めるとよいでしょう。
5 豊富な知識
態度、言葉遣い、身だしなみは販売員にとって重要ですが、商品について素人では困ります。つまり、豊富な知識を有し、お客様のニーズに合わせて提案できなければなりません。
カタログや説明書、先輩販売員の知識など、自社内で得られることだけではなく、積極的に社外からも情報を収集しましょう。飲食店であれば、競合店に食事に行ってみると相手のレベルが分かります。
十分な知識があるのにうまく説明することができない場合は、販売員同士で商品説明のロールプレーイングをしましょう。知識を言葉にすることを繰り返すと、本番の接客でも言葉がスムーズに出てくるものです。
6 好感度アップの接客方法
1)褒め言葉
コミュニケーションを円滑に行うために、お客様を褒めることは重要です。例えば、次のようにです。
- 「すてきなバッグですね」
- 「ロングコートがお似合いですね」
- 「背が高くてスタイルもよろしいので、どんな洋服でもお似合いになりますね」
お客様が何かにこだわりを持っているようなら、そこを褒めます。例えば、帽子や眼鏡、時計などについて「すてきですね」と表現します。こだわりのモノを褒められて気を悪くする人はいないでしょう。また、価値観の共有は親近感につながります。
また、子供連れのお客様には、「かわいい赤ちゃんですね」と、子供を褒めるのもよいでしょう。赤ちゃんは見た目で男の子か女の子か判断するのは難しいものです。その場合は、女の子とするのが無難です。仮に男の子であっても「あまりにかわいいので女の子かと思いました」と続けることができるからです。
ただし、上辺だけの褒め言葉は危険です。機械的に褒め言葉を言っても、気持ちが込められていないことはすぐに分かります。うまく褒められないのなら、無理をせずに誠実に対応したほうが無難です。
2)肯定的な表現を徹底する
表現は肯定的にします。例えば、お客様からMサイズとLサイズしかない商品について、「もっと大きいLLサイズはありますか」と聞かれたとします。この場合の受け答えには次の2通りがありますが、後者のほうが柔らかい印象を与えます。
- 「あいにく、こちらの商品はLLサイズやXLサイズはございません」
- 「こちらの商品はMサイズとLサイズだけの展開です。LLサイズですと、春らしいデザインのこちらの商品はいかがですか?」
日本語は英語などの外国語に比べて、ストレートな表現を避けるケースが多いものです。他の商品で希望に沿ったサイズの商品があれば、続けて、「あちらの商品ですと大きいサイズもございますが、ご覧になりますか」と、代替商品の提案につなげます。
3)短所は先に長所は後に
次の2つを比べてみてください。どちらも同じ内容の言葉が並んでいるのですが、聞き手の印象は大きく異なることが分かります。後で聞いた情報のほうが、最初に聞いた情報よりも記憶に残りやすいことを意識してみてください。
- 「A氏は努力家なのだが、たまに失敗をする」
- 「B氏はたまに失敗はするが、努力家である」
A氏は「努力家」という好評価を得ているが、「たまに失敗をする」ということで、その評価を帳消しにするようなマイナス面が強調されます。一方、B氏は「たまに失敗をする」というマイナス評価を打ち消すほどの「努力家」であるといった印象を与えます。
これを接客の場面で考えてみると、お客様から、「A商品はちょっと高いですね」と言われたときに、どのように答えるかでお客様への伝わり方が大きく異なります。
- 「A商品は機能性が高いため、値段が若干高くなっています」
- 「確かにA商品は値段が若干高いのですが、それ以上に機能性が高くなっています」
また、次のような場合はどうでしょうか。
- 「A商品の値段が高いのは、機能性が高いからでして、それを考えると、値段がそれほど高いというわけではありません」
- 「確かに高いかもしれません。しかし、それ以上に使い勝手が良くなっています。従来の商品では不可能でしたが、○○までできるようになったのです」
上のほうは、機能性の高さを強調していますが、お客様の意見を否定することになります。高いか安いかはお客様が判断すべきことであり、お客様の判断を否定するような発言は失礼です。
セールストークは、理屈や議論でお客様を説き伏せるというものではありません。お客様の意見や価値観を尊重しつつ、別の視点による利点を伝えるためのものです。従って、このような場合は、下のような表現にするべきです。
4)聞き上手になる
接客は、話し上手であるよりも、聞き上手であることのほうが大切です。聞き上手になるための基本は、お客様の話に適切に相づちを打ったり、お客様の話を復唱したりすることです。
相づちを入れたり復唱したりすることで、お客様の話をしっかり聞いているという姿勢を見せることができるのに加え、聞き間違いや勘違いを防ぐこともできます。また、適切に質問をすることも聞き上手になるためには重要です。
7 実際の接客では……
お客様がいないとしても、販売員が暇そうにしている店よりも、ディスプレーの変更や商品の整頓などをして常に動いている店のほうが入店しやすいものです。そして、作業をしていても店内や入り口への注意を欠かさず、お客様の入店と同時に、「いらっしゃいませ。どうぞ、ご自由にご覧くださいませ」と言葉を掛けます。
しかし、そこですぐにお客様の近くに寄っていってはいけません。入店時から買いたい商品が決まっているお客様は少なく、多くは「取りあえず商品を見て、気に入ったものがあれば買おう」と考えているのです。それなのに入店と同時に販売員が近寄ってきたら、お客様は「必要のないものを買わされるのではないか」と警戒心を抱きます。
販売員は、お客様が入店したらタイミングを計って作業を中断し、お客様に声を掛けます。しかし、「何をお探しですか」と聞いても明確な回答が得られるとは限りません。最初は、「はい」か「いいえ」で答えられる質問から始めるとよいでしょう。
大切なのは、購入の決定はお客様がするということです。迷っているお客様に販売員が商品をお勧めして購入してもらえば、接客は成功したかのように見えます。しかし、お客様が実は迷っていたのに、販売員に押し切られる形で商品を購入したら、後で不満を覚えることになります。
店に対して不満を抱いたお客様は、知人に悪評を伝えるかもしれません。そうした悪評を聞いた人たちは、果たしてその後店にやって来るでしょうか。恐らく来店は期待できないでしょう。
商品を1つ販売するために、リピーターになってくれたかもしれないお客様を逃し、また潜在的なお客様も失ってしまうのは大きな損失です。販売員の仕事は、商品を「売る」ことではなく、お客様が「買う」ための手伝いであることを忘れてはなりません。
以上(2019年4月)
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