書いてあること
- 主な読者:部下を「叱る」ということに本気で向き合いたい中堅社員
- 課題:ついつい感情的に怒ってしまい、後から後悔する
- 解決策:愛情を持つ、言い方に注意する、上から目線にならない、影響に配慮する、同じ基準で叱る
1 叱った後に……
仕事でミスをした部下のBさんを叱った中堅社員のAさん。Aさんとしては熱心に指導したつもりですが、周囲は「少し厳し過ぎでは……」と感じている様子です。
その日の夕方、タイミングを見計らって課長がAさんに声をかけました。「今日はずいぶん厳しくBさんを叱っていたけど、何があったんだ?」。これに対してAさんは、「はい、実は……」と、Bさんを叱った理由を説明しました。それを聞いた課長は、「なるほど。理由は分かった」と言いつつも、「ここにはBさんの同期や後輩もいるわけだから、その辺りのことも考えてあげないといけないよ。Bさん、ひどく落ち込んだ様子だったから、後でフォローしておくように」と、Aさんに指示を出しました。
Aさん自身も、「ちょっと厳しすぎたかな」と感じていたところだったので、課長に指摘されて、「やはりそうだったか。もう少しBさんの気持ちに配慮して叱ればよかった……」と、反省したのでした。
2 “安全策”は上司の身勝手
中堅社員になって部下を持つと、指導の一環で部下を叱る機会が増えてきます。「叱る」ことは、「褒める」「教える」「考えさせる」ことと同様に、部下を指導する上で欠かせない取り組みです。同時に、上司も叱る過程で、問題をきちんと分析し、どうすれば部下に正しく伝わるかを考えたり、部下の話を根気強く聞こうと努力したりするため、叱ることによって自身の上司としての成長にもつながります。
一方、「パワハラと言われたくない」「部下に嫌われたくない」などと考え、真剣に叱らずに、“安全策”に逃げ込む上司もいます。この場合、上司は部下の顔色をうかがいながら、話す内容、言葉、口調、時間を選びます。時には、場を和ますために不必要な笑顔も振りまくかもしれません。こうすれば、部下との衝突は避けられるでしょう。
ただし、オブラートに包まれた上司の言葉や表情から、部下はその真意を読み取ることはできません。また、部下は上司の叱り方から自分が犯したミスの重大さを理解するものですが、これもままなりません。
部下を叱る一番の目的は「部下の成長を促すこと」ですが、上司が“安全策”に逃げ込んだ瞬間に、叱る目的は「部下の機嫌を損ねないこと」にすり替わります。その場しのぎで部下と表面上は友好的な関係は保てるかもしれませんが、その代償として部下の成長の機会を奪っていることを認識しなければなりません。
3 逃げず、怒らず、あくまで「叱る」
「叱るときは真剣に叱る」。これが上司の仕事であり、安易に“安全策”に逃げてはいけません。とはいえ、ただ厳しくすればよいわけでもありません。先の“安全策”とは正反対で、感情に任せて部下を怒鳴りつける上司もいますが、これでは部下は畏縮してしまいます。
よく「叱る」と「怒る」は違うといわれます。怒るというのは、自分の気持ち(怒り)を、一方的かつ感情的に相手にぶつけている状態です。一方、叱るというのは、部下の成長を促すために、相手を尊重しながら間違いを正し、共に成長していくことです。叱るのは「教育」(教えて育てる)の一環ですが、そこには、同じ「きょういく」でも意味が異なる、「共育」(共に育む)という意味も含まれることを忘れてはいけません。
4 上手な叱り方の「あいうえお」
1)「あ」:愛情を持つ
「叱るよりも叱られるほうが楽」と言われる程、叱る側にはエネルギーが必要です。しかし、自分が辛いときでも、部下のためになるのであれば、上司は真剣に叱らなければなりません。
なお、叱るのを止めることを部下への「やさしさ」と勘違いしてはいけません。真剣に叱らなければ、部下の成長の機会を奪ってしまうのです。
2)「い」:言い方に注意する
同じ内容について叱る場合でも、言い方次第で部下の聞く態度(話の受け入れ度合い)は大きく違ってきます。
例えば、部下が納期遅れを起こしたとしましょう。「部下が二度と納期遅れをしないように指導する」という上司の意図は同じでも、納期遅れのいけない点を強調する叱り方と、部下本人の性格(「ずぼら」「忘れっぽい」など)のいたらなさを強調する叱り方では、明らかに前者のほうが部下は聞く耳を持ってくれるものです。
3)「う」:上から目線にならない
上司の立場と権限を利用して、「とにかく俺(上司)の言うことを聞けばいい!」という叱り方は好ましくありません。叱るときの原則は、できるだけ部下と同じ目線に立ち、部下の言い分もよく聞くことです。そうしなければ部下の考えをよく理解できず、適切な「言い方」が分からないからです。
ただし、「遅刻をしない」などビジネスでは理屈抜きで守るべきルールがあります。それを教え込むときは、上司の立場を利用するのも一策です。
4)「え」:影響に配慮する
周囲に人がいる前で叱られる部下は、「恥ずかしい」「皆の前で侮辱された」と考え、上司の話を聞くどころか、反発を強めます。同様に、朝一番で叱られた部下は、一日中、嫌な思いをすることになります。こうした叱ることの悪影響を排除するために、叱る場所やタイミングには配慮しなければなりません。
また、叱ることとセットで、こちらから世間話をふってみるなど部下の気持ちをフォローすることも上司の役割です。
5)「お」:同じ基準で叱る
同じことをしたのに、あるときは褒められ、あるときは叱られるというのでは、部下は何が正しいのか分かりません。叱る側が必ず守るべきこととして、叱る基準を明確にしなければなりません。
ただし、そのときの状況や部下の成長度合いなどによって叱る基準が変化するのも事実です。これまでとは違う基準で部下を叱る場合、「今回、叱るのは……」と、はじめにその理由を明確にするのが理想的です。
以上(2021年9月)
op20141
画像:Drobot Dean-Adobe Stock