目次
1 本人が自信をもって入社しても、日々の仕事にギャップはある
今シリーズの狙いは、経営者、人事担当者、現場の皆さんのお悩みである「社員を採ってもすぐに辞めてしまう上に、そもそも採れない」という課題を解決すること。『人が辞めない会社、10のヒント』と題して、毎回1つずつご紹介していきます。
『人が辞めない会社』に変わるための課題、その原因と解決策は会社によってさまざまです。
今回ご提示するヒントが皆さんの抱える原因に明らかに当てはまらない場合は、読み飛ばしてくださって結構です。ですが、ヒントの1~9までが該当しなくても、10が当てはまるかもしれません。
全社共通の原因もあれば、部署ごとの固有の原因も存在することでしょう。原因が1つだけというケースは少ないので、何回分か読んでいただければ「これはうちにも当てはまるな」というものを見つけていただけるのではと思います。
第2回から前回の第5回まで、『人が辞めない会社』に変わるための「採用段階」におけるヒントについてお話ししてきました。第6回からは入社後のヒントについてです。
さて、採用し内定を出した候補者が、無事に入社してくれたとしましょう。いざ配属されてみると、本人にとって「採用時に聞いていたイメージと違った」「こんなはずじゃなかった」となるケースは珍しくありません。皆さんにも覚えがあるのではないでしょうか。
いくら入社までに丁寧に情報を伝えてきたとしても、入社後の配属現場でのイメージに100%ギャップがないということはありません。
たとえ、アルバイトからそのまま正社員になって、同じ職場に配属されたとしてもです。アルバイトと正社員の仕事内容の違い、期待の違いからギャップは生まれます。
ましてや一般の新卒採用や中途採用のルートで入社した場合、もっとギャップはあるでしょう。
会社側は、入社者にとって誰しも「事前のイメージとのギャップはあるもの」と想定して対応するべきなのです。
2 新卒採用、中途採用、入社後ギャップが生まれるそれぞれの理由
新卒であれば、職種別採用でもなければ本人希望の職種に配属されるとは限りません。そのギャップから、「自分がやりたい仕事ではない」「こんなはずじゃなかった」とモチベーションが下がり、早期に辞めてしまう可能性があります。
もし、配属が本人希望職種の通りだったとしても、先ほども触れたようにアルバイトと正社員では任される仕事内容も期待も異なります。
本人のイメージより内容や期待が大きすぎて「自分には無理だ」と思わせてしまうこともあれば、逆に「この程度の仕事しか任せてもらえないのか」と落胆することもあるでしょう。
そこは丁寧に説明してあげてください。例えば「最初に任せる仕事はこれこれで、できれば半年、1年後にはこうなってほしいが、このように育てていくので安心して欲しい。先輩たちも最初は戸惑うけれど、1年後にはみんな一人前に育っているよ。その先にはこんな世界が待っているよ」と。
中途採用の場合は、経験やスキルを期待しての職種別採用が主体でしょうから、仕事上のギャップは少ないだろうと思われるでしょうか。実はそうとも限りません。
同じ職種であっても会社が違えば大なり小なり業務内容は異なります。職場環境や文化の違いもあるでしょうし、入社前に描いていたイメージと完全一致する可能性は低いでしょう。
また、「三つ子の魂百まで」といいますが、社会人として就職した1社目での経験の影響は大きいもの。良かれ悪かれ“基準”になりがちです。前職での経験やルールが邪魔をして新しい職場にすぐに慣れないこともあります。新卒のように気軽に相談できる同期も少なく、中途入社者のほうが「こんなはずじゃなかった」に陥りやすいのかもしれません。
繰り返しますが、会社側は、どんなルートで入社した人でも「事前のイメージとのギャップはあるもの」と想定して対応するべきです。
特に最初が肝心。早い人だと初日で結論を出してしまうかもしれません。どうすればいいでしょうか?
3 初日から丁寧に、少しずつ間隔を空けつつ定期的なフォローを続ける
少しの時間でもいいので、初日終了後に本人の感想を聞く時間を設けましょう。
他の人がいる場で「どうだった?」と投げかけても、なかなか本音は聞けません。表情や態度だけで判断するのも危険です。本音が表に出やすいか否かには個人差がありますから。
できればいわゆる1on1(ワン・オン・ワン、1対1)の形で設定できるといいでしょう。本人に振り返りの感想を短い文章にしてもらって、それを共有しながら進めるのもいいかもしれません。文章にすることで本人の感情、本音が予め整理できます。
入社初日から数日を研修に充てている場合は、初日終了後面談を担当した人で集まって、改善点を翌日以降の研修に反映できるといいでしょう。その上で「昨日皆さんに初日の感想を聞いて、こういう意見がいくつか聞かれたので、今日はこんな感じに少し変えてみますね」という一言をもらえるだけで、入社者は安心できるものです。
「(新卒、中途に関わらず)新人の導入にそこまで慎重かつ丁寧に対応しなければいけないの?」と思われるでしょうか。
こうしたフォローは本人を甘やかすためのものではありません。新たな職場への不安は、誰しも大なり小なり感じるもの。細やかなフォローは、その不安や誤解を解消し、防げる退職を減らすためであり、一日も早く本来の仕事に取り組んでもらうために必要なことなのです。
もし、皆さんが卒業した学校のよく知る後輩が、あるいはあなたの家族や親戚が、あなたがいるからと同じ会社に入社してきたのだとすればどうですか?入社日にちゃんと来ているか気になるでしょう。初日を終えてどんな感想を抱き、どんな気持ちでいるか心配ではないでしょうか。
後輩や家族を迎えるのと同じ気持ちで新しいメンバーを迎えることができれば、彼らは心強いでしょう。たとえ「こんなはずじゃなかった」と思えるできごとがあったとしても、すぐに辞めようとは発想しないでしょう。その前に、一度相談してみようと思うのではないでしょうか。
入社後すぐに人事主導の導入研修がある場合は、採用活動から直接接してきた担当者がフォローするほうが本人も本音を言いやすく、相談もしやすいでしょう。でも、配属先で過ごす時間が増えてくると、なかなか人事だけではフォローしきれなくなってきます。
そこで入社時点で、入社者一人ひとりに“メンター”と呼ばれる相談相手を、現場に近い人から選んで付けておくといいでしょう。
職場の先輩や上司でもいいのですが、彼らはそうでなくても仕事上フォローする立場にあります。仕事でのトラブルの場合は、かえって相談しづらくなる場合もあります。
できれば近い部署、近い年代で、本人と相性の良さそうな同性のメンターがお薦めです。
相性が心配であればメインとサブの2人体制でも構いません。本人には何かあれば遠慮せず相談しやすいほうに声を掛ければいいと伝えておいてください。上司や職場の仲間にも、メンター制度と担当者については予め理解を得ておいてください。
そうして「入社初日」、「研修が続くのであれば中日や終了後」に人事担当者から。「現場での初日」、「1週間後くらい」にメンターや職場の上司から声をかけて1on1ミーティングを実施してみましょう。
4 一人ひとりの面談後の記録を人事が一元管理し、必要に応じたフォローを
入社者一人ひとりの面談後の記録は、人事で一元管理しておきましょう。各部署にいる間は上司が閲覧できるようにし、退職を予感させる変化があれば双方が気付けるようにするのです。最近ではAIがコメントから退職可能性を予測してくれたりもします。
上司が変化に気付けば、まず自ら声をかけてみてもいいでしょうし、かけづらいようなら人事に気軽に相談できる仕組みにします。現場の上司は毎日接しているだけに変化に気付きにくいかもしれません。メンバーの悩みへの対応スキルにも差があるでしょう。
人事が先に変化に気付けば、上司にフィードバックして対応方法を相談する。あるいは上司との関係が原因と思われる場合は、先に本人に直接話を聞いてから対応を考えます。
職場の先輩やメンターにまで個人の面談情報を全て共有するのは難しいかもしれません。彼らには「気になる変化があれば上司または人事、どちらでもよいので相談してほしい。報告して欲しい」と伝えておきましょう。
情報が漏れなくタイムリーに集まる仕組みを作っておくことが重要です。
入社者の側からすると、「常に誰かが見てくれている安心感がある」「複数の相談相手がいるので、ケースバイケースで相談しやすい」「誰に相談しても最終的には人事(入社時に世話になった人など)も知ってくれているのだと思える」。
そうして「人事」「職場の先輩や上司」「メンター」が随時情報を共有しながら、本人が一日も早く仕事に集中できる環境づくりに努めましょう。こうした丁寧かつ定期的なフォローがあればあるほど、本人はすぐに辞めないはずです。
少子化や人手不足の中、時間とお金をかけて採用した人材は“宝”です。“宝”だから甘やかしましょうと言っているのではありません。“宝”だから、大切に扱ってほしいのです。
人事で一元管理しておく一人ひとりの面談後の記録は、その他の人事情報とも連携させることで、長期的な人材育成にもつなげることができます。その辺りの話はまた改めて。
入社初日から一人ひとりを個別にフォローするとともに、当面は頻繁にフォローできる体制をつくりましょう。人事と現場、さらにはメンターを設定して三者が協力しながら、スムーズな導入を目指してください。
第6回を最後までお読みいただきありがとうございました。次回も[仕事]についてのヒントをご紹介します。
毎回ご紹介するヒントを参考にしながら、自社を退職する一人ひとりの「辞める理由」と、働いている一人ひとりの「辞めない理由」を丁寧に拾ってみましょう。見えてきた自社ならではの“課題”を解消し“強み”を活かせれば、『人が辞めない会社』へと変われるはずです。
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※武田が以前上梓した書籍『新スペシャリストになろう!』および『なぜ社長の話はわかりにくいのか』(いずれもPHP研究所)が、ディスカヴァー・トゥエンティワンより電子書籍として復刻出版されました。前者はキャリア選択でお悩みの方に、後者はリーダーやトップをめざしている方にお薦めです。
『新スペシャリストになろう!』
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『なぜ社長の話はわかりにくいのか』
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以上(2025年12月作成)
(著作 ブライトサイド株式会社 代表取締役社長 武田斉紀)
https://www.brightside.co.jp/
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