書いてあること
- 主な読者:フリーランスとトラブルなく取引したい経営者
- 課題:曖昧な条件でフリーランスに依頼してしまう。社員のように指揮することもある
- 解決策:フリーランスは社員ではない。良い意味で一線を引いて真摯に付き合う
1 フリーランスとの取引増加、トラブル対応は大丈夫?
近年は、雇用にとらわれず、フリーランスなどに業務委託をしてリソースを確保するケースが増えてきました。新しい組織のあり方としてますます進みそうですが、条件面などでのトラブルが多いので注意が必要です。フリーランスはあくまでも外部の人材なので、取引先の会社と契約するように細かく条件を決める必要があるのです。
フリーランスとの取引については環境整備も進んでいて、2021年3月26日には「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」(以下「ガイドライン」)が策定されました。そこでは、フリーランスとの取引における労働関係法令(労働基準法、労働組合法など)、独占禁止法、下請法上のルール適用の在り方を詳細に定めています。
ガイドラインは、労働関係法令、独占禁止法、下請法といった既存の法律の適用の在り方の明確化でしたが、新たな規制として、2023年4月28日には「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(通称:フリーランス・事業者間取引適正化等法)が成立し、5月12日に公布されました。施行は2024年11月までに開始の予定ですが、フリーランスを活用する会社は意識しなければならない法令です。
この記事では、ガイドラインなども意識しつつ、フリーランスと取引する際に特に重要なポイントを解説していきます。
■内閣官房「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」■
https://www.cas.go.jp/jp/houdou/20210326guideline.html
■e-GOV「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」■
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=505AC0000000025_20241111_000000000000000
2 フリーランスが社員みたいな扱いになることもある
業務委託契約であっても、就労実態などから次の2つが認められる場合、フリーランスであっても「労働者」とみなされます。これを「使用従属性」といいます。
- 指揮監督下の労働である(仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無、業務遂行上の指揮監督の有無、拘束性の有無、代替性の有無を基に判断)
- 報酬の労務対償性がある(報酬が、発注者等の指揮監督の下で一定時間労務を提供していることに対する対価と認められるかを基に判断)
加えて、事業者性の有無(機械、器具、衣裳等の負担関係、報酬の額、商号使用などを基に判断)や専属性の程度(特定の発注者等への専属性が高いと認められるかを基に判断)も、フリーランスの「労働者性」を補強する要素になります。
労働基準法上の「労働者性」を確認する場合、次の図表を見ると分かりやすいです。
フリーランスが労働者とみなされて労働関係法令が適用されると、次のようなリスクが生じます。
- 稼働時間に応じて割増賃金を支払わなければならなくなる
- 業務委託契約の解消について、フリーランスから不当解雇を主張される
フリーランス・事業者間取引適正化等法は、フリーランスを「事業者」として扱う法律ですが、この労働者性の解釈については、フリーランス・事業者間取引適正化等法の成立によっても変わるものではないでしょう。
3 悪気はなくても「上から目線」で依頼していることがある?
フリーランスとの取引では、会社の規模や業種を問わず独占禁止法が適用されます。発注者側である会社は受注者側であるフリーランスよりも優越的な立場にあることが多く、そうした地位を利用してフリーランスに不利益を強いると、独占禁止法の「優越的地位の濫用」に違反する恐れがあります。具体的には、ガイドラインで次の12の行為類型が挙げられています。なお、一部の行為類型は下請法の適用も受けます。
独占禁止法との関係では、「優越的地位の濫用」の規定に違反した場合、次のような制裁を受けるリスクがあります。
- 排除措置命令(違反行為をやめさせ、正常な状態に戻すための措置を命じること)
- 課徴金納付命令(継続的に優越的地位の濫用行為を行った場合)
- 損害賠償請求、差止請求
また、資本金が1000万円超で、フリーランスとの取引内容が「製造委託」「修理委託」「情報成果物作成委託」「役務提供委託」に該当する会社は、下請法も適用されます。その場合、所定の取引事項を記載した書面を交付することが義務付けられます。これを怠ると50万円以下の罰金に処される恐れがある他、勧告や会社名の公表などのペナルティーが課されます。
なお、フリーランス・事業者間取引適正化等法は、下請法よりも適用範囲が広く設定されているため、同法の施行後は、ガイドラインよりもフリーランス・事業者間取引適正化等法への対応を優先すべきでしょう。
4 決めることは双方のため。業務効率化にもつながる
独占禁止法、下請法の関係もありますが、フリーランスに発注する際は必ず書面の契約書を交わしましょう。特に、フリーランス・事業者間取引適正化等法では、書面に限りませんがフリーランスへの発注には広く取引条件の明示が義務付けられています。
フリーランスが条件を細かく確認してくることについて、「私を信用していないのか?」と気分を害する経営者がいるかもしれません。しかし、フリーランスには社員のような手厚い補償がありませんし、自身が体調を崩すなどして働くことができなくなれば収入もありません。身一つで仕事をしており、契約にないことをサービスで行うような余裕はないのです。そのため、フリーランスに依頼するときは発注する業務を明確に切り出し、契約書に落とし込むことが礼儀でもあるのです。
また、意外なことですが、フリーランスと取引をすることで業務効率化が実現することがあります。フリーランスはさまざまなITツールを使ってクライアント(この場合は自社)とコミュニケーションを取ったり、請求業務を効率化したりしています。フリーランスが利用しているITツールを自社も導入したり、日ごろのコミュニケーションの方法や時間に対する考え方を吸収したりすることは、自社にとってプラスになります。
以上(2023年10月更新)
(執筆 日比谷タックス&ロー弁護士法人 弁護士 堀田陽平)
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