書いてあること
- 主な読者:リモートワークにマッチした賃金体系にしたい経営者
- 課題:変更が後手に回りがちなので、スピーディーに実施できる対策を講じたい
- 解決策:手当に注目する。具体的には通勤手当を支給停止し、在宅勤務手当を設置する
1 リモートワークに合わせた「手当」の見直し
社員の働き方がオフィスワークからリモートワーク(在宅勤務)へとシフトするのに合わせ、労働条件も見直す必要があります。中でも「賃金」は重要な要素です。賃金と聞くと、まず「基本給」の見直し、つまり勤続給や能力給の配分の見直しを思い浮かべる人もいるでしょうが、ここは人事評価制度と併せて計画的に変更しなければなりません。
それよりも、足元で着手するとよいのは「手当」の見直しです。実際、リモートワークをする多くの企業で実施しているのが、
通勤手当の支給停止と、在宅勤務手当の設置
です。リモートワークに伴う賃金制度の見直しの手始めとして、これらの手当について整理していきましょう。
2 通勤手当の支給停止
リモートワークで通勤しなくなる社員を想定し、就業規則に、
リモートワークに多く従事する社員には通勤手当は支給しない
などと定めて、通勤手当の支給を停止します。一方、リモートワークといっても週に数日出勤する場合は、実際に通勤に要した費用(往復運賃)を支給します。大切なのは、「週◯日以上出勤する社員は、引き続き通勤手当を支給する」といったように、
通勤手当の対象となる社員、ならない社員を明確にする
ことです。
さて、問題は通勤手当の支給停止を含め、賃金の減額は「労働条件の不利益変更」になることです。そのため、本来は社員と合意して就業規則を変更し、不利益変更を進めることになります。ただし、その必要性や社員が受ける不利益などを考慮して合理的といえる場合、社員の合意がなくても就業規則を変更することができます(過半数労働組合等からの意見聴取など、就業規則を変更するための所定の手続きは必要です)。
必要性という面では、そもそも社員が通勤をしなくなるわけなので、問題になるケースは少ないでしょう。また、もともと通勤手当は実費請求に近いものなので、通勤費の支出がなくなった社員の不利益も大きくないといえます。
3 在宅勤務手当の設置
1)実費支給は非課税というものの……
国税庁は、「在宅勤務に必要な実費を社員に支給したら非課税、在宅勤務手当として定額支給したら給与課税」としています。実費支給のほうが税金は得ですが、計算は手間です。例えば電気料金のうち業務使用部分を計算する際、まず自宅と業務に使用した部屋の床面積を算出しなければならない、といった具合です。詳細は、国税庁「在宅勤務に係る費用負担等に関するFAQ(源泉所得税関係)」を参照ください。
2)在宅勤務手当の相場
在宅勤務手当の支給額は、1カ月当たり3000~1万円程度が多いようです。グローバル人材の人材紹介業を営むエンワールド・ジャパンが実施した調査では、全体では「3,000円以上~5,000円未満」が38%、「5,000円以上~10,000円未満」が37%となっています。
なお、リモートワークの頻度や業務に必要な設備などが社員によって異なる場合、その違いに応じて支給額に差を設けることは問題ありません。その場合、支給額の決定方法などを就業規則に定め、社員に説明できるようにしておきましょう。
以上(2021年6月)
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