書いてあること
- 主な読者:部下の指導に悩む上司、管理職
- 課題:モチベーションを引き出すために、どう言葉を掛けて良いかわからない
- 解決策:「急ぎで働いてもらわなければいけない場合」など、シーンに応じた言葉の掛け方を学ぶとともに、部下がやる気をなくしてしまう言葉を掛けないよう留意する
1 部下を「伸ばす」言葉がある
上司は日ごろから部下を伸ばそう、成長させようと指導しているが、うまくいかずに悩みを抱えていることが多い。
部下を伸ばすためには、まず「部下のやる気を引き出すこと」が鍵となる。そして、部下のやる気を引き出すために上司は、「日ごろから部下に、どのような言葉をかけるか」を考えなければならない。部下の仕事内容・仕事の進め方・進捗状況を一番把握し、部下にとって最も身近な存在なのは、上司だからである。
部下の性格や考え方にもよるが、やる気を引き出す基本は「上司が部下に、信頼を寄せ、関心を示し、期待していることを示す」ことである。
人は「自分が必要とされている、信頼されている」と感じると「嬉しい」「よし、頑張ろう」と思う。特に、「最も身近な存在である上司が自分の仕事をしっかりと見てくれている、期待してくれている」と感じれば、部下は期待に応えようと奮起する。
上司が信頼・関心・期待を表すことができるのは、褒め言葉や部下を肯定する言葉だけではない。注意を促す言葉に込めることもできる。
例えば、「君の仕事の進め方で、○○の点については少し効率が悪いと思う。少し方法を変えてはどうだろうか?」といったように、より具体的に注意することで、部下は「自分の仕事をしっかりと見てくれているのだな」と感じる。
2 部下を伸ばす言葉の具体例
1)部下が作成した資料の内容が良くないため再作成を命じるとき
このときのポイントは、イメージが違っても頭ごなしに否定するのではなく、部下の意図を聞く姿勢を見せることである。部下は、そうした上司の姿に、上司からの信頼と関心を感じる。
- 上司の言葉:
- 「君が作成した△△の資料、○○の部分が私のイメージと異なるんだ。なぜ○○のように作成したか理由を教えてくれないか?」
- 部下の感じ方:
- 「作成した資料をしっかりと見てくれている」「自分の考えを聞いてくれる」
2)部下に1人で急ぎの仕事を遂行してもらうよう指示するとき
このときのポイントは、上司がなぜ部下に急ぎの仕事を依頼するのかをきちんと説明し、「助けてもらいたい」という気持ちを表すことである。部下は、上司に頼られ期待されていることが分かり、「よし、それならば私がサポートしよう」と意欲的に取り組む。
- 上司の言葉:
- 「××の資料をどうしても今日の5時までに完成させなければならないのだが、私は□□をしなければならないので時間がない。急ではあるが、今日の4時までに××の資料を作成しておいてくれないか?」
- 部下の感じ方:
- 「自分を信頼して任せてくれている」「上司ができない理由を教えてくれている」
3)部下のミスや不注意によってトラブルが発生したため、再発防止を命じるとき
このときのポイントは、トラブルの再発防止について部下に考えさせるチャンスを与えることである。部下は、上司からの信頼・関心・期待を感じ、トラブルを素直に反省するとともに、前向きに仕事に取り組む。
- 上司の言葉:
- 「今回のトラブルについて、今後同じようなトラブルを避けるためにはどうしたら良いと思う?」
- 部下の感じ方:
- 「自分に考えさせようとしてくれている」
3 部下を「ダメにする」言葉もある
上司の言葉一つで部下がやる気出るのと同じように、上司の言葉一つで部下がやる気を失い、ダメになってしまうこともある。身近な存在である上司だからこそ、ささいな言葉一つで、部下は、「この人にそう言われるということは、自分はもうダメなのかもしれない」と誤解し、やる気や自信を失う恐れがある。
上司と部下はあくまでもビジネス上の関係であり、友人関係ではない。仕事を遂行するため、そして部下の能力をより向上させるために、上司は、時には部下を注意したり叱ったりすることもある。しかし、上司のせっかくの本意を誤解し、部下がやる気を失ってしまうようではもったいない。
部下がやる気を失ってしまうのは、前述した「部下を伸ばす言葉」の逆で、「上司から信頼も関心も寄せられず、期待もされていないと感じてしまった場合」である。
部下が「信頼・関心・期待が寄せられていない」と誤解するのは、上司に叱られたときばかりではない。
仕事を依頼するときの「君は与えられた仕事を終わらせてくれればいいから」「とりあえず、適当に進めておいて」などのような言葉で「余計なことはするな、と言われているのか?」「面倒だから丸投げした感じだな」と受け取り、やる気を失うことがある。
また、たとえ褒められたとしても、「最近いいじゃない」などの抽象的な表現だけでは、「適当におだてているだけなのではないか」と誤解してしまう部下もいるだろう。叱るときだけではなく、仕事を依頼するときや褒めるときなども、上司は、「信頼・関心・期待を寄せていない」と部下に思わせてしまうような言葉を避けたほうがよい。
4 部下をダメにする言葉の具体例
部下に注意するときや部下の理解を確認するときなど、シーンに応じて「信頼・関心・期待が感じられないと部下が誤解しがちな上司の言葉の例」「部下の感じ方」「上司の本意」「良い上司の言葉」を確認してみよう。
1)部下が作成した資料の内容が良くなかったとき
部下をダメにするのは、誰かと比べて否定する言葉である。今、目の前にいる部下にフォーカスした言い方に変えることがポイントとなる。
- 良くない上司の言葉:
- 「君が作成した資料、全然イメージと違うからもういいよ。A君に頼むから」
- 「A君だったら、君が作ったような資料は作成しないと思うよ」
- 部下の感じ方:
- 「ほかの人と比較され、『自分は劣っている』と言われている」ように感じる。
- 上司の本意:
- 悔しさを感じ「もう一度私にやらせてください」と言ってほしい。
- 良い上司の言葉:
- 「君が作成した△△の資料、どうしてもイメージと異なるんだ。なぜ○○のように作成したか理由を教えてくれないか?」
2)部下の仕事を上司自身が代わりに行ったり、ほかの部下に振ったりするとき
部下をダメにするのは、「もういい」などの見放すような言葉である。割り振りを変えるときは、その理由を説明することがポイントとなる。
- 良くない上司の言葉:
- 「もう◇◇についてはやらなくていいから」
- 部下の感じ方:
- 「もう任せてはくれないのかな」と上司からの信頼や期待がなくなってしまったように誤解する。
- 上司の本意:
- ××の件で忙しそうだから、◇◇を担当してもらうのは無理だろう。
- 良い上司の言葉:
- 「君は今××の件で手一杯だろうから、今回は私が(あるいはA君が)やるよ」
3)仕事について部下が理解しているか確認したいとき
部下をダメにするのは、「当然分かるよね?」など「No」と言うことができないような言葉である。部下の意見や考えを聞き出す言い方に変えることがポイントとなる。
- 良くない上司の言葉:
- 「君なら当然分かるよね?」「君はもう当然できているよね?」
- 部下の感じ方:
- 「分からない、できていないと答えたら怒られる」という強迫観念にとらわれる。また、「上司は、自分が分かっていない、できていない、と思っているのかもしれない」と上司からの信頼を得られていないように感じることもある。
- 上司の本意:
- 理解しているかどうか、どのように考えているのか聞いてみよう。また、自分の言葉で説明させることによって自分自身の頭の中を整理してもらおう。
- 良い上司の言葉:
- 「□□について君の意見を聞かせて欲しい」
5 部下一人ひとりと真剣に向き合う勇気
「伸ばす言葉」「ダメにする言葉」のどちらも、「信頼・関心・期待をどのように上手に伝えるか」がポイントとなる。ただし、部下は個々の性格や考え方が違うので、上司の言葉に対する受け止め方もそれぞれ異なる。信頼・関心・期待を寄せられていると感じるポイントも違う。そこで、部下一人ひとりと真剣に向き合わなくてはならない。
一方、部下は、部下一人ひとりと真剣に向き合おうとする上司の姿勢を感じるだけで、「自分たち部下に関心を寄せ、考えてくれようとしている」と思い、それに応えようと努力するはずである。
部下を伸ばすために大切なのは、上司が、日ごろから部下一人ひとりと真摯に向き合い「部下のやる気を引き出す言葉」をかけることである。そうすれば、部下のやる気を引き出すだけではなく、上司と部下との間で強い信頼関係を築くことができるだろう。
また、時と場合によっては、上司は言葉を選ばず、部下を厳しく叱ったり指導したりしなければならない。厳しくするときには厳しくする。上司のそうした真摯な姿勢に部下は、「自分に向き合ってくれている」と尊敬と感謝の気持ちを抱くのである。
最後に、やる気を引き出し部下を伸ばす「魔法の言葉」と、やる気を失わせ部下をダメにする「避けたほうがよい言葉」を紹介する。上司は、適度に部下に「魔法の言葉」をかけ、部下のやる気を引き出していくことが大切といえよう。
以上(2019年5月)
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