正規労働者と非正規労働者の不合理な待遇差をなくす「同一労働同一賃金ルール」が中小企業に適用され、約4年がたちました。政府は現在、同一労働同一賃金をより定着させるため、ルールの見直しを検討しています。本稿では、独立行政法人 労働政策研究 ・ 研修機構が今年3月に公表した「同一労働同一賃金の対応状況等に関する調査(企業調査)」の結果のうち、中小企業(従業員300人以下)に関係する主なデータを紹介します。
1 非正規労働者の待遇改善
調査は2023年9~10月に行われ、中小企業2,677社、大企業761社の有効回答が集まりました。同一労働同一賃金へ対応するため待遇を見直した中小企業では、パートや有期契約社員の基本給や賞与の改善が進みました。
慶弔休暇や病気休暇などの休暇制度、教育訓練も拡充されました。多くの中小企業で、同一労働同一賃金について何らかの対応が行われたことがうかがえます。詳細は次の表のようになっています。
パートや有期契約社員の待遇の新設・拡充等を行った中小企業の割合
基本給 | 57.0% |
基本給の昇給の仕組み | 40.0% |
家族手当 | 13.1% |
住宅手当 | 9.0% |
精皆勤手当 | 10.1% |
通勤手当 | 27.0% |
賞与 | 41.1% |
退職金 | 14.7% |
慶弔休暇 | 28.3% |
健康診断に伴う勤務免除や休暇 | 27.6% |
病気休暇 | 24.1% |
上記以外の法定外の休暇・休職 | 24.5% |
教育訓練(OJT) | 24.9% |
教育訓練(Off-JT) | 19.7% |
2 毎月の給与が上昇
同一労働同一賃金へ対応した結果、多くの中小企業で、パートや有期契約社員の毎月の給与(1人あたり)が上昇しました。「有期フルタイム」「有期パートタイム」「無期パートタイム」に分けて集計したところ、いずれも9割近くの中小企業で、毎月の給与(1人あたり)がアップしています。
同一労働同一賃金ルールへの対応によるパートや有期契約社員の毎月の給与(1人あたり)の変化
変わらない、 または減った |
少し増えた (1~3%程度) |
やや増えた (4~5%程度) |
かなり増えた (6%以上) |
無回答 | |
有期フルタイム | 12.7% | 44.8% | 29.5% | 12.9% | 0.1% |
有期パートタイム | 11.5% | 44.1% | 26.3% | 17.0% | 1.1% |
無期パートタイム | 14.1% | 45.5% | 29.5% | 10.4% | 0.4% |
※「無期パートタイム」については、端数処理の関係で合計が100%にならない
中小企業における年間の賞与(1人あたり)もアップしました。「有期フルタイム」の賞与をアップさせた企業は85.3%、「有期パートタイム」では80.9%、「無期パートタイム」では67.1%に達しました。
同調査では、同一労働同一賃金への対応にあたって、労使の話し合いを行ったかどうかについても尋ねました。パートや有期契約社員を雇う中小企業のうち、労使の話し合いを行ったのは46.5%。内訳は、パートや有期契約社員を含めて話し合いを行った企業が28.3%、含めずに行った企業が18.2%でした。
3 さいごに
中小企業の同一労働同一賃金への対応については、「既に必要な見直しを行った(対応完了)」が44.6%、「検討の結果、見直しは必要ないと判断した(対応予定なし)」が23.2%、「現在、必要な見直しを行っている(対応中)」が11.5%でした。一方、「今後の見直しに向けて具体的な対応方策を検討中(対応予定)」が10.5%、「まだ見直しについて検討していない」が10.3%となっています。規模が小さい企業ほど、「まだ見直しについて検討していない」と答えた割合が高い傾向がありました。
同一労働同一賃金については、ルールの難解さや対応に時間がかかるなどの課題があり、中小零細企業にとっては負担が大きいかと思いますが、改めてこの機会にご検討いただくのも良いのではないでしょうか。
※表はいずれも「同一労働同一賃金の対応状況等に関する調査(企業調査)」の結果より
※本内容は2025年6月10日時点での内容です。
(監修 社会保険労務士法人 中企団総研)
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