書いてあること

  • 主な読者:自社の退職金制度の方向性に悩んでいる経営者
  • 課題:退職金制度の導入率が下がっているが、何らかの形で社員の頑張りに報いたい
  • 解決策:制度を廃止して賃金に上乗せする、支払いの負担が少ない制度などに移行する

1 退職金制度の導入率は10年間で15.4ポイント低下

中小企業の退職金制度の導入率は、2020年時点で65.9%です。2010年は81.3%だったので、10年間で15.4ポイント低下しました(東京都産業労働局「中小企業の賃金・退職金事情」)。

退職金制度の導入率の推移と退職金制度の種類

退職金制度には、一時金で支給する「退職一時金」、年金形式で支給する「退職年金(企業年金)」があります。中小企業の71.8%は退職一時金のみの導入で、一般的には長く勤めれば支給額が増える年功型の制度設計になっています。

しかし、定年まで1社に勤め続ける社員が減った昨今、こうした退職金制度は実情に合わない面があり、それが制度の導入率を押し下げる一因になっています。一方で、経営者としては、退職金制度を見直すにしても、何らかの形で社員の頑張りに報いたいという思いがあります。

そこで、この記事では、退職金制度の見直しの方向性として、

  • 退職金制度の廃止(制度を廃止して賃金に上乗せする)
  • 退職金制度の変更(支払いの負担が少ない制度などに移行する)

の2つを紹介します。

2 退職金制度の廃止の方向性

1)退職金前払い制度

退職金制度を廃止して、賃金に上乗せする方法です。次のように、「会社に勤め続けるか分からないから、それなら賃金が増えたほうがよい」と考える社員に寄り添ったものになります。

退職金前払い制度の背景にある社員と経営者の思い

常用雇用の社員1人1カ月当たりの労働費用(社員を雇用することで発生する費用)を見た場合、現金給与額(賃金)と退職給付等の費用(退職金)の関係は次のようになっています。

常用雇用の社員1人1カ月当たりの労働費用

退職給付等の費用を現金給与額に回せば、他社を上回る賃金水準にすることもできるかもしれません。ただし、賃金の上げ幅によっては、社会保険の標準報酬月額(月例賃金を一定の金額幅で区分したもの)が上がり、社員と会社の社会保険料負担が増えるので注意が必要です。

2)iDeCo+(イデコプラス)

iDeCo(イデコ)とは、社員が自分で掛金を拠出して運用し、60歳以降に受け取る個人型確定拠出年金です。このiDeCoの制度の中に、

拠出限度額の範囲内(5000円以上、2万3000円以下)で、iDeCoに加入する社員の掛金に追加して、会社が掛金を拠出できる「iDeCo+(イデコプラス)」

という制度があります(正式名は「中小事業主掛金納付制度」)。

会社が拠出した掛金は全額損金に算入されます。また、個人の運用をサポートする制度なので、通常の退職金制度より事務負担が軽減できます。ただし、次の点に注意が必要です。

  • 対象は、社員(厚生年金の被保険者)が300人以下で、企業型確定拠出年金(企業型DC)、確定給付企業年金(DB)、厚生年金基金を実施していない中小企業に限定される
  • 導入するには、過半数労働組合(ない場合は過半数代表者)の同意が必要になる
  • 会社が、掛金(社員拠出分と会社拠出分)をまとめて実施機関に納付する必要がある(社員拠出分の掛金は、給与天引き)

3 退職金制度の変更の方向性

中小企業が導入できる退職金制度には次のようなものがあります。制度ごとに特徴が異なるので、支払いの負担などを考慮して、自社に合ったものを選定しましょう。

退職金制度の主な種類

退職金制度の選択肢は、退職一時金と退職年金のどちらを採用するか、または併用するかです。支払いの負担を考えると、年金形式で支給する退職年金は、退職一時金に比べて負担を平準化しやすいですが、一方で、退職年金には「60歳以降など、一定の年齢にならないと引き出せない」というルールがあり、退職金を早くもらいたい社員からは敬遠されるかもしれません。

また、退職金の準備を自社で行うか、外部機関で行うかも重要です。例えば、中小企業退職金共済制度を利用していない場合、中小企業は自社で引当金を積むケースが多いですが、その場合、損金算入が認められないという問題があります。一方、外部機関に積み立てる場合、損金に算入できる部分があるため、税法上のメリットがあります。

退職金制度の種類は、どれも一長一短です。1つの退職金制度に絞り込むのではなく、退職金前払い制度なども含め、複数の仕組みを組み合わせるのも一策です。

4 廃止と制度変更の「折衷案」

ここまで、退職金制度の廃止と変更の方向性について考えてきましたが「折衷案」として、

賃上げと退職金制度の実施を同時に実施する

という方法もあります。

退職金制度の見直しの方向性

例えば、企業型DCを導入している場合、

賃金の一部を、引き続き賃金(手当など)として受け取るか、企業型DCの掛金にするかを社員が選択できる「選択制DC」

という制度があります。今の収入を多くしたい社員などは賃金として受け取り、将来に備えたい社員などは掛金にすることを選択します。掛金にすることを選択した場合、当然賃金は減りますが、その分、社会保険料負担なども下がる可能性があります。

退職金前払い制度に似ていますが、こちらは社員に受け取り方の選択肢を与えることで、実質的に賃上げと退職金制度の縮小を同時に実施するイメージです。

以上(2022年11月)
(監修 社会保険労務士 志賀碧)

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画像:Ljupco Smokovski-shutterstock

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