書いてあること

  • 主な読者:若手を採用したいが、計画通りに進まずに困っている経営者
  • 課題:若手は売り手市場だし、大企業志向も強く、なかなか自社に振り向いてくれない
  • 解決策:ほどほどの中年に目を向けてみる。今はまだ、採用しやすい存在となっている

1 【ご提案】中年の採用をご検討ください

「人(社員)」に関することは、経営者にとって常に頭の痛い問題です。これからますます深刻になるのは採用ですが、御社は計画通りに採用できていますか?

特に、若手を狙っている中小企業は苦戦を余儀なくされているかもしれません。若手は、いろいろな意味で企業の活力になります。しかし、現在は売り手市場ですし、大企業志向が強い若手も多いです。もし、御社が若手の採用に苦戦しているなら、次のことを改めて考えてみてほしいのです。

  • 今、若手が入ってきたら、きちんと教育するリソースと時間はありますか?
  • その若手が早期に離職しても、また若手を採用しますか?

中小企業には即戦力が必要です。それも長く定着してもらわないと困ります。そこで、これを実現する逆張り採用のご提案です。

採用対象を若手から40代の中年、しかもピカピカではなく、「ほどほど」の人材に広げてみてはいかがでしょうか?

今は、ほどほどの中年を採用するチャンスです。この記事では、人材不足を勝ち抜くための中小企業の逆張り採用として、「40代の中年採用」をご提案します。

2 将来の伸び代ではなく、「今」をつなぐ人材

1)なぜ、ほどほどの中年なのか?

よく知られていることですが、若手の採用には早期離職のリスクがあります。大卒の新入社員の場合、入社後3年以内に離職する割合はおおむね30%で、企業規模が小さくなるほど悪化します。若手を採用しても、戦力になる3年後には3人に1人以上が辞めていきます。

また、人材紹介会社や大企業の採用担当者によると、ハイエンドの中年は大企業やスタートアップなどが狙っています。よほど奮発しなければ中小企業が獲得するのは困難です。それに、獲得できたとしても、持て余す、既存の社員とうまくいかないといった懸念があります。

そこで、注目したいのがほどほどの中年です。ほどほどとは、

自社の本業について経験があり、即戦力として働けるレベル

です。基本的なビジネスマナーを習得していることを前提に、本業の能力は普通でよいです。自社のやり方を教えれば、それに合わせられるくらいの器用さがあれば大丈夫です。この要件から分かるように、

このほどほどの中年には、組織変革などを求めるわけではなく、既存の事業で足りない部分を補う人材

として働いてもらいます。もちろん、良い意味で化けて幹部に育てばいいですが、それよりも、最低限の教育で「今」の戦力になってもらうことが目的です。

2)狙い目の中年は?

ポテンシャル採用の若手と違い、中年のスキルはある程度分かります。それよりも大切なのは、転職の理由です。敬遠したいのは、「漠然と現状に不満を持ち、青い鳥を探している人材」です。転職のハードルが下がっている今、若手ほどではないにせよ中年も転職しますが、青い鳥を探している中年は、転職を「軽く」考えているかもしれません。

そうではなく、狙いたいのは、

  • 今の職場に不満があり、別の場所でもう一花咲かせようとしている中年
  • 「最後の転職」をし、転職先で勤め上げたいと考えている中年
  • フリーランスをやめ、企業に勤めて安定を求めたい中年

です。これが「最後のチャンス」「安定した生活を!」と考えているので、それなりの覚悟があります。また、人材紹介会社は「特別なスキルのない40代はなかなか面接にも進めないので、このチャンスを活かすように」と、中年にハッパを掛けているので、本気で向かってきます。

3 面接では淡々と能力を見極める

1)武勇伝は5~6掛けで判断する

中年はそれなりのキャリアを積んできているので、面接では豊富な実績を語るでしょう。上司や外部とやり合った武勇伝を披露してくることもあります。

しかし、こうした話は5~6掛けで聞きましょう。実績は、あくまでも前職(現職)のやり方に基づくもので、自社のやり方やレベルにマッチしているかは分かりません。また、武勇伝についても、本人が言っているだけで、実際のところは分かりません。むしろ、「上司とよくやり合っていた。私は誰にでも異見が言える」と強調してくるのは、パフォーマンスの可能性もあります。

2)ビジネスの基礎知識と基礎体力はあるか?

ほどほどの中年は、通常、礼儀、礼節は問題ありません。また、前述した通り、その時点の本業のスキルもある程度分かります。加えて見極めたいのが、

ビジネスの基本知識と基礎体力

です。例えば、40代の人材で「新聞の1面に載るようなニュースを知らない」「財務諸表が読めない」といったレベルだったらどうでしょうか。残念ながら、こうした中年は意外と多いです。また、戦力になるまで努力を続ける体力も大事です。採用してみなければ分からないことですが、採用活動の中で難しめの課題を出すなどすると、ある程度は見極められます。

3)こんな質問をしてきたら危険信号

例えば、面接の際に、

定年延長制度はありますか?

などと聞いてくることがあります。こちらとしては、

お、当社に骨を埋める覚悟なのか

と高い評価をしてしまいがちですが、必ずしもそうではなく、むしろ警戒したほうがよいです。なぜなら、その中年は単に自身が利用できる制度を確認し、その年齢に達したときの身のふりを考えているだけのことが多いからです。

前述したような覚悟のある中年であれば、これまでの経験を活かす制度があるのか、あるいはどのように活かせる可能性があるのかを聞いてくるはずです。いきなり定年延長制度について聞いてくるようでは難しいのです。

4 中年はマネジメントしやすい? それとも難しい?

1)「昭和」のノリが合う?

入社した人材をどのようにマネジメントしていくかは重要なポイントですが、今の中年はノリが「昭和」なので、年配の経営者や上司とある意味で価値観が同じです。そのため、良しあしは別ですが、「根性でとにかくやる」というガッツがあります。特に、不退転の覚悟で転職してきた場合、ちょっとやそっとのことではくじけません。

また、中年は厳しく教育されてきた世代ともいえるため、誤解を恐れずに言えば、厳しめに叱責してもハラスメントを訴えてくることは少ないかもしれません。別の見方をすれば、本気で向き合い、ぶつかれる相手だということです。

2)中年の問題

一方、中年は自分の考えや、やり方をなかなか変えられません。何か新しいことを覚えるのにも時間がかかります。「はい!」と返事をして指示に従いますが、自分の考えと指示を融合させることができないので、指示とは違ったアウトプットをすることがよくあります。このように、若手とは違う理由で指示通りにはいかないことがあります。

3)フリーランスには要注意

長年フリーランスとして働いてきた中年は、自分のワークスタイルを持っており、放っておいても商いをつくれる点で頼もしい存在です。しかし、組織の中で働いた経験が乏しいと、組織の一員としての意識が希薄です。それまでの自分のキャリアや人脈を守るために、組織を悪く言ってしまうこともあります。外部の人と接するポジションについている場合は、注意したほうがいいでしょう。

5 いざというときに備えておく

ここで、少し厳しい話をします。中年採用は長期育成が前提の若手採用とは全く違い、最初からやってほしい業務が明確です。その分、ミスマッチが生じたときの問題も分かりやすく、将来の伸び代が期待しにくいので、早期の対応が必要になります。

人材紹介会社は、「中年は採用コストが高いため、辞めないように配慮しながら戦力化すべき」と指摘しますが、一概にそうとも言い切れません。確かに、採用コストはかかりますが、自社の業務や考え方にマッチしない中年は、企業にとって長期の負担になります。厳しい言い方ですが、

伸び代や変化が期待できない中年とミスマッチが生じたなら、目先の費用を惜しがるよりも、長期的な損失を回避する

ほうが得策かもしれません。

いずれにしても、万一を見据えた備えは必要です。中年の採用はジョブ型に近いため、採用時、ジョブディスクリプションを作成し、企業が中年に期待していることを明確に伝えます。ジョブディスクリプションには目標も設定し、その達成状況を定期的に確認するようにします。もし、目標の未達が続いたり、当初の想定をかなり下回る実力しかなかったりすれば、その後の方向について話し合うことになります。

6 長期的な人材不足に備える

労働力不足の日本は、女性・高齢者・障がい者・外国人労働者の積極活用を打ち出しています。あるいは、DXによる効率化で、より少ない人材で業務を回せる工夫が推奨されています。こうした流れに乗ることも重要ですが、企業風土的に多様な人材を受け入れにくいこともありますし、DXが進めにくいこともあります。

そのような場合は、特に、ほどほどの中年の採用は検討に値するでしょう。新しさや刺激はないかもしれませんが、

きちんと計算できる安定した戦力になりやすい

のが、この記事で紹介してきたほどほどの中年です。

それに、ほどほどの中年は、今はまだ採用しやすいですが、今後は分かりません。人材不足が深刻化する中で、この記事に書いてあることに気付く経営者が増えていけば、当然、ほどほどの中年の採用も難しくなっていくかもしれないのです。

以上(2024年1月更新)

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画像:Mariko Mitsuda

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