書いてあること

  • 主な読者:採用の視野を広げたい経営者
  • 課題:ダイバーシティ採用は難しそうで、自社で実施できるか分からない
  • 解決策:ダイバーシティ採用は想像よりずっと有用。ポイントを押さえた上で採用の視野を広げてみよう

1 なぜ、今「ダイバーシティ採用」なのか?

近ごろよく耳にする「ダイバーシティ」。直訳すると「多様性」ですが、会社にとっては、
人種・国籍・性・年齢を問わずに人材を活用すること(小学館 デジタル大辞泉より)
と捉えるほうが分かりやすいでしょう。この考え方を採用に取り入れたものが「ダイバーシティ採用」です。採用の対象になるのは、例えば「女性」「高年齢者」「外国人」「障害者(障がい者)」「LGBTQ+」「難病患者」などです。

「ダイバーシティ採用はいろいろと大変そう」ということで、最初から検討しない経営者も多いのですが、今回、専門家の方にお話を伺ってみたところ、ポイントさえ押さえれば、ダイバーシティ採用は想像しているよりもずっと現実的であることが分かりました。そのポイントは次の通りです。

  • 女性(主に子育てをされている方):子育てとの両立のため、柔軟な働き方を実現
  • 高年齢者:年齢と体調に合わせた勤務形態のすり合わせと現場社員の理解
  • 外国人:日本人と違うのはビザの有無だけ。ビザのサポートと安心感が大切
  • 障がい者:キャリアアッププランの提示と、会社と社員の擦れ違いをなくすための努力
  • LGBTQ+:「不快にさせない配慮」と環境整備
  • 難病患者:治療と仕事の両立のための柔軟な働き方と、採用側の意識改革

少しの気遣いと環境整備をすれば、今まで採用してこなかった人材も現場で活き活きと働けるようになるかもしれません。人材採用難の折、ダイバーシティ採用は検討に値するでしょう。各章で、専門家の見解も交えつつ詳細を紹介していきますので、参考にしてください。

(注)この記事では、法令等の固有名詞の場合を除いて「障がい」と記します。LGBTQ+は、いわゆる性的マイノリティや性的指向が定まっていない人をいいます。

2 女性の採用を検討する際のポイント

1)会社が守るべき法令のルール

女性を雇用する場合、会社は図表1の取り組みを実施する必要があります。「休暇・休業」「労働時間」に関する制度は、社員から請求があったら必ず、また「社内設備」については、請求の有無に関係なく、女性の人数などに応じて環境を整備しなければなりません。

(図表1)【女性の雇用に関する主なルール】

内容 法令のルール
休暇・休業
(義務)
産前・産後休業 妊娠・出産をする社員は、産前6週間(双子以上は14週間)、産後8週間まで休める
育児休業 出生した子どもを養育する社員は、原則子どもの1歳(最長2歳)到達日まで休める(2回まで分割可)
子の看護休暇 小学校入学前の子どもを看護する社員は、1年度1人当たり5日まで、2人以上は10日まで休める(2025年4月からは、小学校3年生修了までの子どもが対象。また、学校行事に参加する場合などにも休暇を取得可)
生理休暇 生理で就業が困難な社員は、就業可能になるまで休める
労働時間
(義務)
育児時間 就業時間中に授乳などを行う必要がある社員は、休憩時間とは別に、1日30分以上×2回まで授乳などのための時間を確保できる
母性健康管理措置 産後1年間は、医師などから指示・指導があった社員に対し、健康診査等を受けるために必要な時間を確保できるようにする
所定外労働の制限 3歳未満の子どもを養育する社員、家族を介護する社員は、所定外労働を免除する(2025年4月からは、小学校入学前までの子が対象)
時間外労働の制限 小学校入学前の子どもを養育する社員、家族を介護する社員は、1カ月24時間、1年150時間を超える時間外労働を免除する
深夜業の制限 小学校入学前の子どもを養育する社員、家族を介護する社員は、深夜労働を免除する
所定労働時間の短縮措置等 3歳未満の子どもを養育する社員、家族を介護する社員は、所定労働時間の短縮(原則1日6時間以内)、時差出勤、フレックスタイム制などの措置を実施する(2024年5月31日より1年6カ月以内の法律で定める日からは、小学校入学前の子が対象)
社内設備
(義務)
女性用トイレの整備 女性を雇用する企業は、女性20人以内ごとに1個以上女性用トイレを設置する(社員数10人以下の場合は、独立個室型トイレに限り男女共用でも可)
休養室・休養所 社員が50人以上または女性が30人以上いる場合、休養室・休養所を「男女別」に設置する

(出所:労働基準法、育児・介護休業法などを基に作成)

2)「職場復帰のサポートが手厚い会社」「労働時間に融通が利く会社」が目を引く

特に手厚いサポートが必要になるのは、子育て中の期間。以降は、子育てをしている女性に喜ばれる制度を紹介していきます。

一般的に女性が働きにくいとされる建設業界で、女性の定着促進に向けた支援を行っている「女性技能者協会」。代表理事の石川 由希恵(いしかわ ゆきえ)氏に、女性雇用のポイントを聞きました。

育児休業などで長く仕事を休む女性にとって「職場復帰のためのサポートが手厚いこと」は重要です。3歳未満の子どもについては、住民税非課税世帯であるなど一定の要件を満たさない限り幼児教育・保育無償化の対象ではないなどの理由から、子どもを保育園に入れられずに職場復帰を果たせないという女性も少なくありません。自分が子育てをしている間、「他の社員とスキルに差がついてしまうのでは」と不安に思う人も多いです。

また、時間の問題も大きなネックに。子どもの体調不良や保育園のお迎えなど、様々な場面で時間を取られるので、「労働時間に融通が利くこと」は、子育て中の女性にとって非常にありがたいです。(石川氏)

女性の求職者は、「職場復帰のサポートが手厚い会社」や「労働時間に融通が利く会社」に着目しているようです。例えば、次のような制度を整備し、求人票や採用ページなどでアピールすると非常に好印象です。

  • (保育園利用料の補助)国の制度では、基本的に対象外となる0歳から2歳までの子どもにかかる保育園利用料を会社が補助する
  • (資格取得支援)業務に関連する資格取得に必要な費用などを補助する
  • (フレックスタイム制・テレワーク制の導入)始業・終業の時刻や仕事をする場所を柔軟にすることで、子育てと仕事の両立をある程度コントロールできるようになる
  • (中抜け制度や時間単位年休の導入)子どもの送り迎えや看病などのために、勤務中の中抜けを許可、時間単位で年次有給休暇を取得できるようにする
  • (カンガルー出勤制度)子どもを連れての出勤を許可する
  • (段階的な働き方の見直し)子どもの小学校入学・進学などタイミングを見て、定期的に今後の働き方の希望をヒアリングし、仕事の量を調整する

3)その他にこんなポイントも

妊娠中の方は体調の管理が難しく、また、子どもが生まれた後も育休中に保育園を見つけられないなどの理由で、法定内の育休期間のみでは復職が難しいとの声もあります。また、一度離職した女性の中には、「子育てでブランクがあるから、雇ってもらえないのではないか」と不安に思う人もいます。

既存制度に「ちょい足し」するかたちで次のような制度を実施するのも、妊娠中・子育て中の女性を採用する上で、大きなアピールポイントになります。

  • (産前休業の延長)本来は産前6週間前から休業開始だが、8週間前からに前倒しする
  • (育児休業の延長)本来は子どもが1歳(最長2歳)になると休業終了のところ、3歳まで休めるようにする
  • (ジョブリターン制度)一定の条件を満たす場合、以前と同じポジションに復帰させる

最近では、社員の不妊治療についてサポートしている会社もあります。例えば、

  • (不妊治療のための特別休暇)「ファミリーサポート休暇」など、不妊治療だと悟られたくない人向けに、名称を工夫した特別休暇を導入する

といった取り組みは、不妊治療をしている/将来的にするかもしれないと考えている女性に、安心して働ける職場であることをアピールするのに役立つでしょう。

3 高年齢者の採用を検討する際のポイント

1)会社が守るべき法令のルール

高年齢者(法令上、55歳以上の人のことをいいます)を雇用する場合、会社は「65歳まで雇用する措置を実施する義務(65歳までの雇用確保)」と、「70歳まで働ける機会を与える努力義務(70歳までの就業機会確保)」を負います。

(図表2)【高年齢者の雇用に関する主なルール】

内容 法令のルール
65歳までの雇用確保
(義務)
65歳まで雇用するよう、次のいずれかの措置を講じる
●定年の引き上げ(65歳まで)
●定年の廃止
●継続雇用制度の導入(65歳まで)
70歳までの就業機会確保
(努力義務)
70歳まで働けるよう、次のいずれかの措置を講じる
●定年の引き上げ(70歳まで)
●定年の廃止
●継続雇用制度の導入(70歳まで)
●継続的に業務委託契約を締結する制度の導入(70歳まで)
●継続的に次の事業に従事できる制度の導入(70歳まで)
 a.事業主が自ら実施する社会貢献事業
 b.事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業

(出所:高年齢者雇用安定法などを基に作成)

2)活き活きと働いてもらうために、現場の理解と健康サポートが必要

高年齢者や障がい者など、多様な人材をサポートするミライロの取締役 梶尾 武志(かじお たけし)氏に、高年齢者を含め、多様な人材の活躍を実現するためのポイントを聞きました。

できるだけ細かい情報開示が必要です。バリアフリーや勤務体系の柔軟さなど会社内で実現できている制度を明記するのはもちろんですが、逆に実現できていないところもハッキリと示したほうが好印象。具体的な情報を示すことで、求職者は自分が活躍できるかどうかをイメージしやすくなります。

また、採用する人事に多様性の理解があっても、現場に理解がないと人材が定着することは困難。定着化のため、全社的な研修を行う必要性があると考えます。現場の社員含めてマインドの改革が実現すれば、「何が足りないか」がおのずと見えてくるもの。その「気付き」によって環境が改善されることが多様性の実現につながります。(梶尾氏)

高年齢の求職者の中には、健康面に不安を感じている人も少なくありません。定期的に面談を行い、本人やご家族の健康状態などに合わせた多様な勤務形態をかなえることが大切です。

また、新たに高年齢者を雇い入れた際、現場との擦れ違いを防ぐためには、全社的に多様な人材に対する研修制度を導入することも効果的。これは、後述する障がい者雇用にも通じます。

以上のポイントを踏まえて次のような制度があると、求人票や採用ページなどでアピールする材料になります。

  • (職場の環境の明記)高年齢者にとって快適な環境が整備されているか否かの明記
  • (短時間正社員制度の導入)1日6時間など、短時間で働く正社員として雇用する。職務内容や責任の範囲など、非正規社員との区別を明確にすると不平不満が生まれにくい
  • (人事考課の実施)嘱託などとして再雇用する場合も人事考課の対象とし、成績が良い場合、賃金などに反映する
  • (年齢不問の明記)年齢で判断せず、活躍できる旨を提示する
  • (健康診断の実施)聴力、自覚症状や他覚症状(所見)の有無などをチェックする
  • (更新時の面談)更新のタイミングで、本人の体調や今後の働き方の希望を確認する
  • (研修制度の導入)多様な人材や働き方に関する研修を、全社的に行って理解を深める

3)その他にこんなポイントも

高年齢者に、自信を持って活き活きと働いてもらうためには、

  • (体力テストの実施)体力テストで無理なく体を動かせる範囲を確認
  • (アシストスーツの着用)物を持ち上げたり運んだりする作業が多い場合、腰への負担を軽減できるアシストスーツを着用させる
  • (実地訓練の実施)新しい仕事について、自信を持てるようになるまで訓練を繰り返す

などのアイデアを取り入れることも一手です。

雇用した高年齢者が意欲的に元気で働いている姿は、他の社員のモチベーション向上にも効果をもたらすでしょう。

4 外国人の採用を検討する際のポイント

1)会社が守るべき法令のルール

外国人を雇用する場合、日本人とは全く違うイメージがあるかもしれませんが、実は「在留資格(日本に滞在し、活動するための資格)」以外のルールは、基本的に日本人と同じです。

(図表3)【外国人の雇用に関する主なルール】

内容 法令のルール
外国人特有
(義務)
●就労可能な在留資格の取得を条件に、雇用する必要がある
●原則として、在留資格で許可された範囲を超える活動はできない
●在留資格は一部を除き在留期間が決まっているため、満了前に更新が必要
日本人と同じ
(義務)
●同じ活動を行う日本人と同程度の報酬を支払う
●住民登録が必要
●税金、社会・労働保険料などの納付義務を負う(要件に該当する場合)
●労働関係法令を守る(年次有給休暇、健康診断など。労働時間などは一部扱いが異なる場合がある)

(出所:出入国管理及び難民認定法などを基に作成)

在留資格の区分によって職種の制限や在留期間などが異なります。入社前に「業務に適合した在留資格か」「期限は切れていないか」などを必ず確認しましょう。

■出入国在留管理庁「在留資格一覧表」■
https://www.moj.go.jp/isa/applications/status/qaq5.html

2)「活躍」と「安心感」を保証することが大切

外国人雇用のサポートを通じて日本での多文化共生を目指す、外国人雇用協議会 理事の竹内 幸一(たけうち こういち)氏に、外国人雇用のポイントを聞きました。

外国人労働者は、ビザの有無以外は日本人と何も変わらない。ビザが切れてしまうことを不安に思う人も多いので、それをサポートする制度があると大変喜ばれ、皆安心します。また、日本に働きに来る方は向上心に満ちて、自らのキャリアを重要視している方がほとんど。求人票にはより詳細の仕事内容や外国人雇用の実績を記述し、「外国人が活躍できる」と求職者に伝わることが重要です。

母国を遠く離れての就労には不安がつきもの。外国人求職者たちが安心して働くことができるよう、彼らを歓迎していることを求人票に明記する、里帰り休暇などを設けるなどの方法で精神的なサポートがあると、外国人求職者は会社に更に魅力を感じます。(竹内氏)

外国人の求職者は、自身のキャリアを磨ける環境、そして、外国人ならではの不安や悩みなどが少なく、安心して働ける環境を望んでいます。例えば、次のようなポイントは、求人票や採用ページなどでアピールする材料になります。

  • (求人票の工夫1)「外国人就労者を歓迎していること」を明記する
  • (求人票の工夫2)活躍している外国人がいる場合、求人票にその人数や役職を明記する
  • (求人票の工夫3)より詳細の業務内容を提示するために、ジョブ・ディスクリプション(職務記述書)を導入する
  • (ビザの更新サポート制度)日時や期限をアラートし、ビザ更新をサポートする
  • (里帰り休暇)母国に帰るための、2週間程度の長期休暇制度を導入する
  • (住居確保の支援)会社が寮・社宅を提供する、本人が住宅を借りるサポートをする

3)その他にこんなポイントも

他にも気になるのは、言語や宗教、文化の壁など。同じ職場で働く日本人に、外国人の宗教や文化に関する理解を深めてもらうように研修を行うことも大切です。ですので、

  • (日本語学習の支援)ビジネス日本語能力テストの受験料などを補助する
  • (業務中の宗教行為の部分的許可)礼拝のための中抜けを許可する
  • (食文化の違いへの配慮)社員食堂やそれに準じた制度がある場合、宗教や文化の違いなどの理由で食べられないものを事前にヒアリングしておく

などのサポートがあれば、母国から離れた場所で、より安心して働くための一助となります。

なお、今後、外国人技能実習制度を廃止し、新たに「育成就労」制度が創設され、2027年に運用が開始となる予定です。

5 障害者(障がい者)の採用を検討する際のポイント

1)会社が守るべき法令のルール

社員数が一定数以上の会社は、社員数に障害者雇用率(2024年4月からは2.5%)を掛けた障害者を雇用しなければなりません。また、障害者(障がい者)を雇用する場合、「障害者差別の禁止」「合理的配慮の提供」といったルールもあります。

(図表4)【障害者の雇用に関する主なルール】

内容 法令のルール
一定数の障害者の雇用
(義務)
社員数が一定数以上の場合、社員数に障害者雇用率を掛けた人数以上の障害者を雇用しなければならない
●(2024年4月~)障害者雇用率は2.5%
●(例)常時40人以上の場合、障害者を1人以上雇用(=40人×2.5%)
障害者差別の禁止
(義務)
募集・採用、賃金、配置、昇進などで、次のような差別をしてはならない
●障害者であることを理由に障害者を排除する
●障害者に対してのみ不利な条件を設ける
●障害のない人を優先する
合理的配慮の提供
(義務)
障害の特性などに応じて、次のような観点から、障害者が働く上で必要な配慮(合理的配慮)をしなければならない
●募集・採用において、障害者にもそうでない人にも均等に機会を与える
●障害者が働く上で支障となる問題を改善し、能力を発揮しやすくする

(出所:障害者雇用促進法などを基に作成)

2)擦れ違いを解消し、長所を活かす

障がい者の雇用をサポートする、カムラックの代表取締役 賀村 研(かむら けん)氏に、障がい者雇用のポイントを聞きました。

障がい者の中にもさまざまな人がおり、それぞれ求めているものも違うので、求人の際にはサポート制度があることを明記するのが大切です。会社側と障がい者の間に立ち、双方の擦れ違いをなくす役割として福祉的支援の外部委託を導入することなども効果的。また、活躍したいと思っている障がい者にとって、期間の定めなしの雇用やキャリアプランの提示はとても魅力的なものです。

障がい者を雇用することで仕事を整理し、よりシンプルに作業できるようになった結果、業務が効率的になったという話も聞きます。全てを障がい者に合わせるのではなく、個々が活躍できる場でお互いを認め合い、自立できる社会になるのが理想ですね。(賀村氏)

障がい者は、それぞれの障がいの程度や種類に応じて活躍できる場所を見極めれば、新たな気付きをもたらしてくれるポジティブな可能性を秘めた存在です。

例えば、次のようなポイントは、求人票や採用ページなどでアピールする材料になります。

  • (福祉的支援の外部委託)何かあった場合に相談できる機関との連携
  • (期間の定めなしの雇用)障がい者の雇用には期間が定められていることが多いので、期間の定めなく雇用することで、活躍したい人が集まる
  • (キャリアアッププランの明示)キャリアへの不安を持っている方も多いので、求人票に明確なキャリアアップの情報を提示する

3)その他にこんなポイントも

次のような取り組みで、働きやすい環境づくりに注力している会社もあります。アイデアを取り入れ、誰もが活き活きと働ける環境を目指しましょう。

  • (バリアフリー整備)オフィスなどの床を段差のないOAフロアにする、車いすで入れる多目的トイレを増築する、車いすでもタッチできる位置にスイッチ類を設置するなど
  • (テレワークの実施)移動が負担になる場合などは、在宅勤務を認める。ただし、意識しないと孤独になってしまいがちなので、1日30分などオンラインで話す機会を設ける
  • (柔軟な勤務体系)通院と業務の両立のため、時短勤務、曜日勤務などを適用する

6 LGBTQ+の採用を検討する際のポイント

1)会社が守るべき法令のルール

LGBTQ+を雇用する場合に限りませんが、会社は、パワハラやセクハラなどの防止措置を実施する義務、LGBTQ+への理解を増進する努力義務などを負っています。

(図表5)【LGBTQの雇用に関する主なルール】

内容 法令のルール
ハラスメント防止措置の実施
(義務)
LGBTQの場合、次のような言動がパワハラやセクハラになる可能性があり、担当者による相談対応など一定の防止措置を講じなければならない
●本人の性的指向などを暴露する(アウティング)
●LGBTQへのカミングアウトを強要する
●性的指向などに関する差別的発言をする
LGBTQへの理解の増進
(努力義務)
職場において、LGBTQへの理解の増進に努める
●情報の提供、研修の実施、普及啓発、就業環境に関する相談体制の整備など
国や自治体への協力
(努力義務)
国または地方公共団体が実施する国民の理解の増進に関する施策に協力するよう努める

(出所:労働施策総合推進法、男女雇用機会均等法、LGBT理解増進法などを基に作成)

2)「不快感を取り除く」引き算の環境づくり

LGBTQ+の人材を採用するために必要なのは、

当事者が応募してきた際や入社した際に、不快感や苦痛を覚えないための工夫
です。

厚生労働省「多様な人材が活躍できる職場環境に関する会社の事例集~性的マイノリティに関する取組事例~」(2020年3月)によると、性的マイノリティのうち、職場での困り事があるのは全体の約4~5割。「プライベートの話をしづらい」「侮辱的な言動を見聞きしてしまう」など内面的なものから、「トイレや更衣室などの設備利用」「通称名の使用が認められない」など制度的なものまで、その内容はさまざまです。

ハラスメントに関する意識は年々高まっていますが、LGBTQ+に対する理解はまだ十分とはいえません。求人票や採用ページなどでアピールするというよりは、次のような取り組みや工夫があることで、当事者が不快感なく働くことができるようになるでしょう。

  • (ハラスメント防止方針の再周知)性的指向のいかんを問わず、パワハラ、セクハラは懲戒処分の対象になることを周知する
  • (面接官向けガイドラインの策定)面接官に、性的指向に関する対応について教育する
  • (採用時の工夫)応募書類に性別欄を設けない、採用ポリシーにおいて差別を行わないことを明記する
  • (個人情報の取り扱い)戸籍上の性別は個人情報とし、開示しない。また、本名で呼ばれたくない場合、通り名の使用などを許可する
  • (柔軟な勤務体系)ホルモン治療や性別適合手術のため、通院を必要としている方もいるので、個人の事情に合わせて柔軟な勤務ができるようにする
  • (健康診断サポート)日程や医療機関などを自由に選べるようにする
  • (独立型トイレの設置)本人の性的指向や性自認にかかわらず使用できる、完全独立型のトイレを設置する

当事者の中には、自分の考えや性的指向を表に出しづらいと考えている人がいるのも事実。匿名のアンケートで意見を募るなどして、慎重に対応することが大切です。

3)その他にこんなポイントも

「性別に応じた服装規定で苦痛を覚える」「同性パートナーに福利厚生が適応されない」という困り事もあります。社員間での不公平感を解消するために、次のような制度を導入することも効果的です。

  • (制服)男女で違う制服を規定している場合、パンツスタイルに統一する
  • (福利厚生)婚姻同等の関係にある同性カップルや異性間・同性間を問わず事実婚をした社員に対しても、家賃補助や結婚休暇などの福利厚生を適用する

7 難病患者の採用を検討する際のポイント

難病患者と一口に言ってみても、一般雇用のフルタイムで働く方々から、障がい者雇用の枠で働く方までさまざまです。しかし、難病患者の中には体調の状態によっては健常者と同じ条件での労働が難しい方も存在し、そうした中には、要件に当てはまらないため障害者手帳が交付されないという人も少なくありません。障害者手帳がないと、一般枠での採用に応募せざるを得ず、その結果、就職活動がうまくいかずに、失意に沈む人が多いのも事実です。

難病患者の雇用をサポートする「就労支援ネットワークONE」の中金 竜次(なかがね りゅうじ)氏に、難病患者を雇用する際のポイントを聞きました。

難病を抱えている方にとって、治療と仕事の両立が喫緊の課題。通常の有給休暇にプラスして特別休暇が利用できる仕組みがあると、皆さんとても喜ばれます。また、体調によってフレックスタイムやテレワーク、長期の入院や治療が必要になった際の復職支援の制度などがあると、大きな安心につながります。

まずは難病について知ってもらうことで、「難病患者の雇用は難しい」という勘違いをなくしたい。実際に難病患者を雇用してイメージがガラリと変わり、続けて何人も採用した会社の例もあります。

助成金や雇用に関する勉強会、難病患者の雇用について相談できる窓口が各都道府県にあることなどを会社に知ってもらい、会社にとっても、難病患者にとっても、Win-Winの関係を築いていけるようになればと考えています。(中金氏)

難病患者にとっては治療と仕事の両立が可能であることが一番のポイントです。例えば、次のようなポイントは、求人票や採用ページなどでアピールする材料になります。

  • (柔軟な働き方)フレックスタイム・テレワーク制度を導入する
  • (特別休暇・病気休暇)通院の際に使用できる特別休暇などを導入する
  • (復職支援)長期入院や治療で仕事を休んだ際、復職のサポートをする制度を導入する

また、難病患者は定期通院や、時には急な体調の変化に合わせて治療を受けることにより、体調を保っている方が多いのが実情。入社してから必要なサポートを把握するために、採用面接の際(本人から申し出があった際)にどんなサポート(配慮)が必要かヒアリングするとよいでしょう。

採用時でなくとも、当事者の病状の変化や発症によってサポートが必要になった際、無理をすることないよう会社側に相談できる時間や場所があると当事者は更に安心するほか、同じ職場で働く人に、難病に関する理解を深めてもらうように研修を行うことも大切です。

以上(2024年7月作成)
(監修 ひらの社会保険労務士事務所)

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画像:Bro Vector-Adobe Stock

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