書いてあること

  • 主な読者:人材流動化が進む時代の上司のあり方について迷っている人
  • 課題:部下の至らないところばかりが目についてしまう
  • 解決策:部下への感謝の気持ちを忘れない。また、実際に部下に感謝の気持ちを伝える

1 部下を失う上司の気持ち……

中堅社員のAさんは、システム部に所属しています。今夜は今月末で転職する同僚Bの最後の出勤日です。同僚Bは学生時代の友人に誘われて、その友人が働いている会社に転職することを決意したそうです。要するに、引き抜きです。詳細は不明ですが、噂によると同僚Bの労働条件は今よりも良くなるようで、システム畑の人間としては、キャリアアップにつながるチャンスです。

システム部の部長も加わって、会話をしています。笑顔は絶やしませんが、部下が去っていく寂しさは隠しきれません。いずれAさんも上司になり、部下を本気で叱ったり、部下を失ったりすることもあるでしょう。そのために学ぶべきことが多いと感じる夜でした。

2 人は意外と簡単に辞めていく?

多くのビジネスパーソンにとって、人(上司、部下、同僚など)は、そこに居ることが当たり前の存在になっているのではないでしょうか。

しかし、役職が上がってくると、そのように楽観的な考え方はできません。なぜなら、人は意外と簡単に会社を去っていくからです。特に人材流動化が当たり前になりつつある今はなおさらです。実際、「今よりも良い条件の会社に誘われたとき」「家庭の事情で働き続けることが難しくなったとき」「上司や同僚とどうしても反りが合わないとき」「仕事に飽きてしまったとき」。このような状況に置かれたら、今の会社を去るというのも有力な選択肢になるはずです。

役職が上がるということは、それだけキャリアを積んできた証しです。自身の退職を真剣に考えたことがあるかもしれませんし、部下の退職を経験しているかもしれません。そうした中で、人に対する認識が、居ることが当たり前の存在から、居てくれることがありがたい存在に変わっていくのです。

3 感謝の気持ちが前提

こうした感覚は、自分が率いる組織が大きくなるほど強くなります。組織が大きくなるということは、自分の目が行き届かない範囲が広がり、部下に任せなければ回すことができない仕事が増えるということです。

上司は、部下に「仕事が遅い!」「仕事が雑だ!」などと不満を感じますが、部下の仕事を全て上司が行うことはできません。上司から見て至らないところが多くても、自分の指示を聞いてくれる部下が居るからこそ仕事が成り立つということです。上司は部下に感謝しなければなりません。

4 自分よりも優秀な部下を求める

しかし、世の中には「自分の指導の至らなさ」が分からない上司が多いものです。そして、そうした上司ほど、部下にドリームチームのような働きを求めます。

ただし、ここで確認しておきたいのは、上司自身がドリームチームを率いるのにふさわしい指揮官であるかということです。皆さんが部下を持つ場合、自分よりも「能力が高い部下」と「能力が低い部下」のどちらを求めるでしょうか。

ドリームチームを求めるならば、自分よりも能力が高い部下を求めるはずですが、実際は自分よりも能力の低い部下を集める上司が少なくないようです。そのほうが、部下を従わせやすいからです。

にもかかわらず、自分よりも能力が低い部下にドリームチームのような働きを求めるということに、大きな矛盾があります。役職に応じて仕事の難易度も上がります。困難な仕事をやり遂げるためには、自分よりも優秀なメンバーを確保し、マネジメントできる上司にならなければなりません。

5 上司の人間性

昨今では、Aさんの同僚Bのように他社から引き抜かれる社員もいれば、逆に自社が他社から引き抜くこともあります。

そのような状況で、自分よりも優秀なメンバーを確保し、マネジメントしていくことは容易ではありませんが、特に優秀な部下は飽きやすいことを念頭に置いておきましょう。

部下から見たときに、直属の上司が、そのまた上司から指示されたことだけを黙々とこなす人だったらどうでしょうか。刺激や新鮮さが感じられずに閉塞感を覚え、新天地を探したくなるかもしれません。

こうしたことがないように、特に優秀な部下に対しては新しい仕事を任せるようにしましょう。期待以上の成果を上げることもあるはずです。

また、上司は謙虚さと誠実さを忘れてはいけません。ダメな上司は、目の前の“大人”が、部下として自分の指示に従ってくれることのすごさに気付かず、部下を気遣いません。部下は、そのような上司についていきたいとは思わないでしょう。上司と部下といえども、最後は人と人との関係です。上司は部下のことを尊重し、真摯に向き合わなければなりません。

6 上司の器がはっきりと分かるのは?

最後に、自分の部下が転職によって会社を去る場合を考えてみます。転職の理由はどうあれ、部下が会社を去っていくのはつらいものです。

しかし、上司が意識すべきは会社に残る部下です。その部下たちは、会社を去っていく部下にどのように接するかをよく観察しています。もし、去っていく部下に嫌みの一つでも言おうものなら、たちまち「器の小さい上司」のレッテルを貼られ、後のマネジメントに悪影響が出るでしょう。Aさんの上司であるシステム部の部長が送別会で笑顔を絶やさなかったように、上司は寛容な姿勢を示さなければなりません。

また、昨今では一度会社を去った社員が出戻ってくることが珍しくありません。あるいは、ビジネスパートナーになる可能性もあります。つらくても先々のことを考え、笑顔で部下と握手をして別れることが上司には求められるのです。

以上(2021年9月)

op20298
画像:fizkes-Adobe Stock

Leave a comment

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です