書いてあること
- 主な読者:いつまでたっても仕事が上達しない社員を持つ上司・経営者
- 課題:仕事が上達しない要因として発達障害の可能性がある
- 解決策:発達障害の特徴や実際の対処例を参考にし、それに応じた取り組みを検討する
1 “大人の発達障害” 10人に1人が当てはまるとも
「単純なミスを何度も繰り返す」「毎回時間を守れずにクライアントとトラブルになる」。皆さんの会社に、このような社員はいませんか。社員をマネジメントする立場から見ると、頭の痛い存在かもしれませんが、頭ごなしに叱る前に知っておきたいことがあります。
それは、「発達障害」のことです。発達障害とは、
脳機能障害の一種です。症状には個人差があり、「忘れっぽい人」や「おっちょこちょいな人」などをどこまで含めるかにもよりますが、一説には総人口の10%程度が何らかの発達障害に当てはまる
ともいわれます。
このことを知らずに、接し方や指導方法を誤れば、パワハラやうつ病などを引き起こす恐れもあります。この記事では、発達障害の種類と特徴を確認し、業務上で見られがちな傾向やコミュニケーションのポイントなどを紹介します。
2 発達障害の種類は大きく3タイプ。複合タイプもある
1)ASD、ADHD、LDの3つのタイプ
発達障害のある人の脳は、そうではない人の脳と比べて、機能に障害があり、発達にバラツキがあります。「できること」と「できないこと」のギャップが大きく、コミュニケーションや社会生活に支障が出る場合があります。
発達障害になる原因は完全には解明されていません。先天的な遺伝、両親の出産時の年齢や健康状態、化学物質による環境汚染などが影響しているともいわれています。
発達障害として「ASD(自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害)」「ADHD(注意欠如・多動症/注意欠如・多動性障害)」「LD(学習障害)」がよく知られています。これらの症状に明確な境界はなく、それぞれの特徴を複数持ち合わせている人もいます。
2)発達障害の種類その1:ASD
ASD(自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害)には、自閉症やアスペルガー症候群などが含まれます。以前は、広汎性発達障害と呼ばれることもありました。
一般的に、ASDの人は相手の気持ちや場の空気を読んだり、意思疎通を円滑に図ったりすることが不得意とされています。また、臨機応変に対応することが苦手なため、自分が慣れ親しんだ手順や環境のほうが安心する傾向があります。
その上で、自閉症の人は、言葉の発達の遅れ、コミュニケーションにおける困難さなどの特徴を持っていることが多くあります。
アスペルガー症候群の人も自閉症と同様の特徴がありますが、言語の発達の遅れはあまり見られず、知能の発達にも明確な遅れはありません。
ASDの傾向がある社員への接し方として、以下のようなものが想定されます。
- ASDのケース:曖昧な指示や表現の理解に苦労する場合
上司から「最近(仕事の)調子どう?」や「あの商談どうなっている?」と聞かれた際に、的外れなことを答えたり、どの商談のことかが分からなかったりする
上司は、ASDの社員には、具体的に短く指示を出すことを心掛けます。例えば、実際に上司が指示の一部をやってみせたり、「PDF作成、セキュリティーは◯◯」などの指示をまとめたデータを当人に渡したりするのがよいでしょう。
3)発達障害の種類その2:ADHD
ADHD(注意欠如・多動症/注意欠如・多動性障害)の人は、色々なことに気が散ってケアレスミスを繰り返したり、締め切りや納期を守れなかったりします。また、1つの作業や仕事に何時間も休みなく集中し過ぎて、他のことに全く手が着かなくなることもあります。これを「過集中」と呼びます。
ADHDの人は、不注意優勢型、多動性―衝動性優勢型、その両方の特徴を持つ混合型の3種類に分けられます。
不注意優勢型の人は、必要なことに注意を向け、集中することが苦手です。身の回りの整理整頓も苦手で、忘れ物が多かったり、約束の時間に遅れたりします。
多動性―衝動性優勢型の人は、じっとしていることが苦手で、衝動的に行動を起こすことがあります。会話を遮って一方的に話したり、列の順番を待てなかったりもします。
ADHDの傾向がある社員への接し方として、以下のようなものが想定されます。
- ADHDのケース:複数の作業を同時にできない場合
上司から指示を聞く際や、電話応対の際に、話を聞きながらメモを取ることができない。話を聞く(理解する)ことばかりに集中してメモを取り忘れたり、メモを取ることばかりに集中して、話の内容が理解できなくなったりしてしまう
上司は、1つずつ指示を出すことを心掛けます。また、一度に複数の作業の指示を出す際は、作業を1つずつ書き出し、取り組むべき順に番号をつけて渡すとよいでしょう。この他、ADHDの社員が電話応対する際は、「1.日時」「2.相手の氏名」「3.電話の宛先」「4.件名」「5.依頼事項」など、メモを取るべき項目についてフォーマットを作成しておくと効果的です。
ADHDの社員と接する際は、ミスがあることを前提とし、リカバリーできる方法や工夫を考えていくことが大切になります。
4)発達障害の種類その3:LD
LD(学習障害)は、全般的な知能の遅れは見られないものの、読む、書く、聞く、話す、計算するなどのうちいずれかの能力の習得と使用に著しい困難が見られます。
例えば、読む能力に困難が生じている障害は、読字障害・難読症・ディスレクシアなどと呼ばれており、似たような形の文字を識別できなかったり、文章を理解できなかったりします。また、マニュアルの内容を理解できなかったり、メールの文面を見落としたりすることもあります。
文字を書く能力に困難が生じている障害は、書字障害やディスグラフィアと呼ばれており、左右反転の文字である鏡文字を普段から書いてしまったり、誤字脱字の多い文章や文字の大きさのバランスが悪い文字を書いてしまったりします。また、メモを素早く取ることができなかったり、文書の作成に時間がかかったりします。
LDの傾向がある社員への接し方として、以下のようなものが想定されます。
- LDのケース:文字の識別や文章の理解に苦労する場合
議事録や報告書、メールの文面を読んだり、その内容を把握したりするのに苦労する
上司は、文章読み上げソフトやレコーダーなどのツールの活用を検討してみましょう。その他、文字の大きさやフォントを変えて文字を読みやすくしたり、パソコンの作業用画面の背景色を明るい色から落ち着いた色に変更したりすることで、症状が改善したケースもあります。
LDは他の発達障害を併発している場合が多く、ASDやADHDの人に有効な対応方法も含めて、症状に応じた対策が必要です。
3 困ったときは周囲の「自己診断」よりも専門家に相談を
これまで、発達障害のある人の特徴と接し方の例を挙げてきました。前述の通り、こうした症状や程度は千差万別です。重要なのは、個別の社員が抱える特徴ごとに、接し方や指導方法を工夫することです。
障害者の就労支援事業を行っているLITALICOパートナーズによると、職場での少しの配慮や工夫だけで働きやすい環境となり、課題が解決される場合があるそうです。
例えば、「周囲の同僚の動きなどが気になって集中できず、同じミスを繰り返していた社員がいたケースでは、壁に向いて座るように座席を変えただけで、その社員が集中力を保つことができるようになり、ミスが減った」といいます。
他にも、「適材適所に配置することも有効で、当人の苦手な業務が極力少なく、発達障害の特徴が有効に発揮できる業務を任せる、という考え方もある」としています。例えば、1つのことに集中することが得意な人には、会話の中で臨機応変な対応が求められる電話応対業務よりも、大量の販売データから、顧客の隠されたニーズをつかむような分析が向いているといえるかもしれません。
注意しなければならないのが、発達障害の症状があるからといって、専門家でない人が安易に発達障害だと判断しないことです。発達障害の症状の中には、うつ病などのメンタルヘルス疾患などと似たものもあります。誤った判断をすれば、事態を悪化させたり、当人を傷つけてしまったりする可能性もあります。
そのため、発達障害の症状が顕著な社員がいた場合には、本人の悩みや課題に理解を示した上で、専門家に相談したり、医療機関の受診を促してみたりするのがよいでしょう。
例えば、発達障害情報・支援センターでは、発達障害のある人やその関係者からの相談などを受け付けている他、必要に応じて関係機関の紹介も行っています。
以上(2021年8月)
(監修 株式会社LITALICOパートナーズ)
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