1 介護の支援制度は6つ、2025年度から手厚くなる!
自分の家族(親など)を介護することになった社員が、介護をしながら働き続けるためには、会社のサポートが欠かせません。まず押さえておくべきは、育児・介護休業法で定められている、「要介護状態の対象家族」を介護するための支援制度です。
- 要介護状態:負傷、疾病、障害により2週間以上常時介護を要する状態のこと
- 対象家族:社員の配偶者(事実婚を含む)、父母、子、祖父母、兄弟姉妹、孫、配偶者の父母のいずれかのこと(社員と同居していなくても可)
介護休業をはじめとする支援制度には、
- 対象となる社員から請求があったら必ず実施する(社員が対象家族の介護について申出をしてきた時点で、支援制度について個別に周知し、利用の意向確認することが2025年度から義務化)
- サポートの方法が「休みを与える」か「労働時間を短くする」かに分けられる
という特徴があり、また、2025年度からは図表1の赤字の通り、内容が手厚くなります。
なお、2025年4月1日からは、介護離職を防ぐことを目的として、社員が図表1の支援制度を円滑に利用できるよう、次の4つの措置のいずれかを講じることが会社に義務付けられます(複数の措置を講じるのが望ましい)。
- 支援制度に関する研修の実施
- 支援制度に関する相談体制の整備(相談窓口の設置)
- 支援制度の利用事例の収集・提供
- 支援制度の利用促進に関する方針の周知
また、同じく2025年4月1日から、前述した通り、会社は社員から介護に直面をした旨の申出があった場合に図表1の支援制度等の内容を個別に周知し、利用の意向を確認する義務を負うことになります。介護に直面する前の早い段階(40歳等)においても、社員の支援制度等への理解と関心を深めるため、必要な情報提供をしなければなりません。
以降で、それぞれの制度の詳細を見ていきます。なお、制度の対象者はパート等への適用も含めて最後に一覧でまとめているので、他の支援制度と比較しながらご確認ください。
2 介護休業
1)介護休業とは
介護休業とは、
社員が要介護状態の対象家族を介護する場合、家族1人につき通算93日まで休める制度
です。93日の範囲内であれば、どれだけ休業するかは社員の自由で、30日でも60日でも可能です。また、介護休業は93日の範囲内で「3回」を上限として分割取得できます。
2)介護休業の申出
介護休業を取得する社員は、原則「介護休業を開始する日の2週間前」までに、介護休業の開始予定日、終了予定日などを申し出る必要があります。
申出が遅れた場合、会社は「当初の介護休業の開始予定日とされていた日」から「実際に申出があった日の翌日から起算して2週間を経過する日」までの間で、開始予定日を指定できます。
3)介護休業の終了予定日の繰り下げ
介護休業を取得している社員は、当初の介護休業終了予定日の2週間前までに申し出ることにより、同一の対象家族につき1回だけ、介護休業の終了予定日の繰り下げ(介護休業の上限期間93日間の範囲内で、当初の予定よりも遅い時期に介護休業を終了する)が可能です。
なお、育児休業には当初の予定よりも早い時期に休業を開始する「開始予定日の繰り上げ」という制度がありますが、介護休業にはありません。
4)介護休業の終了
介護休業は、社員が申し出た終了予定日に終わります。その他にも次のような場合、社員の意思にかかわらず介護休業は終了します。
- 対象家族の死亡、親族関係の終了、社員が負傷や疾病により介護できない状態になったことなどにより、対象家族を介護しなくなった
- 介護休業中の社員が、産前・産後休業、育児休業または新たな介護休業を開始した
5)介護休業申出の撤回
介護休業を申し出た社員は、開始予定日の前日までに申し出ると、その申出を撤回できます。申出の撤回後、同じ対象家族について再度介護休業の申出がされた場合、会社が拒むことはできません。ただし、撤回が2回連続で行われた場合、その後の申出の拒否は認められます。
6)介護休業期間中の就業
介護休業期間中に社員を就業させることは原則できません。ただし、対象家族の介護をする必要がない期間(他の家族が代理で介護を行う場合など)については、社員と会社が話し合うことで、一時的・臨時的に就業が認められます。
7)介護休業期間中の賃金
介護休業期間中の賃金を有給とするか無給とするかは、会社が就業規則等で決められます。無給の場合も、社員が一定の要件を満たせば、
雇用保険の「介護休業給付金」(賃金の67%相当)
を受けられます。ただし、支給期間中に「賃金(日額)×支給日数×80%」以上の賃金が支払われると支給額は0円になり、80%に満たない場合でも、収入額に応じて、支給額が減額されることがあります。
3 介護休暇
介護休暇とは、
社員が要介護状態の対象家族の介護や世話をする場合、1年度につき5日まで(対象家族が2人以上いる場合は1年度につき10日まで)休める制度
です。「世話」に該当するのは、例えば通院等に付き添ったり、対象家族が介護サービスの提供を受けるために必要な手続きを代行したりする場合です。
休暇は1日単位だけでなく、1時間単位でも取得可能
です。また、休暇中の賃金を有給とするか無給とするかは、会社が就業規則等で決められます。
なお、2025年4月1日からは、介護休暇の対象となる社員の範囲が拡大されますが、この改正については、記事の最後で制度の対象者と併せて紹介します。
4 所定外労働の制限
所定外労働の制限とは、
社員が要介護状態の対象家族を介護する場合、所定外労働を免除される制度
です。所定外労働とは、所定労働時間(法定労働時間の範囲内で、会社が就業規則等で定める労働時間の上限)を超える労働のことです。この制度は、
何度でも利用可能ですが、1回の請求につき制限期間は1カ月以上1年以内とし、請求は制限を開始する1カ月前までにする必要
があります。
5 時間外労働の制限
時間外労働の制限とは、
社員が要介護状態の対象家族を介護する場合、月24時間、年150時間を超える時間外労働を免除される制度
です。時間外労働とは、法定労働時間(労働基準法で定める労働時間の上限。原則1日8時間、週40時間)を超える労働のことです。この制度は、
何度でも利用可能ですが、1回の請求につき制限期間は1カ月以上1年以内とし、請求は制限を開始する1カ月前までにする必要
があります。
6 深夜業の制限
深夜業の制限とは、
社員が要介護状態の対象家族を介護する場合、深夜業を免除される制度
です。深夜業とは、原則として午後10時から午前5時までの労働のことです。この制度は、
何度でも利用可能ですが、1回の請求につき制限期間は1カ月以上6カ月以内とし、請求は制限を開始する1カ月前までにする必要
があります。
7 所定労働時間の短縮措置等
所定労働時間の短縮措置等とは、
社員が要介護状態の対象家族を介護する場合、短時間勤務(例:1日6時間以内)などの措置を受けられる制度
です。業務の都合などで短時間勤務が困難な社員については、
「短時間勤務制度」「フレックスタイム制度」「時差出勤制度」「社員が利用する介護サービス費用の助成その他これに準じる制度」のいずれかの措置
を講じなければなりません。これらの措置は、
対象家族1人につき、利用開始から連続する3年以上の期間で2回以上利用できる制度
とする必要があります(「社員が利用する介護サービス費用の助成その他これに準じる制度」を除く)。なお、2025年4月1日からは、この「所定労働時間の短縮措置等」とは別に、
要介護状態の対象家族を介護する社員に対し、働き方の1つとしてテレワークを選択できるようにすることが努力義務化
されます。
8 家族を介護する社員のための支援制度の一覧
ここまで、社員の育児をサポートする支援制度について、2025年度の法改正も踏まえた上で6つ紹介してきましたが、
一部、雇用継続の見込みや勤続年数、所定労働日数などの関係で、制度を適用しなくてもよいとされている社員
がいます。具体的には、
- 育児・介護休業法上、対象者にならない社員
- 労使協定の締結により、対象者から除外できる社員
です。最後に、6つの支援制度の種類と対象者の一覧を紹介します。「●」が付いている社員が、制度を適用しなくてもよい人です。
今後に向けて、特に注意が必要なのが「介護休暇」の赤字部分です。2025年4月1日からは
入社6カ月未満の社員を、労使協定の締結により対象者から除外することは不可
となります。
以上(2025年1月更新)
(監修 人事労務すず木オフィス 特定社会保険労務士 鈴木快昌)
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