責任感が強く、上司からの信頼も厚い中堅社員のAさん。課長から3日以内に資料を作成するように指示されましたが、2日たった今も着手できていません。Aさんは、その現状を課長に素直に報告しました。

報告を受けた課長は、普段と様子が違うAさんを少し気遣いながら言いました。

「今のままで間に合う? 他の仕事は同僚に任せて、Aさんはその資料作成を優先してくれ。大事な資料だから」

するとAさんは、「皆忙しそうで、仕事を頼むことはできない」と主張してきました。しかし、課長から見ると仕事の振り先はたくさんあるように感じます。どうやらAさんは、他の人に仕事を頼むのが苦手なようです。そんな課長の思いを察したAさんは言いました。

「自分がやったほうが速いから大丈夫です!」

抱え込み過ぎによる悪影響

「中堅社員の仕事が振れない問題」はとても重要なので、

  • 「仕事があるのに「休日出勤」したらいけないの?」

に引き続き、このテーマを取り上げます。

真面目で責任感が強い中堅社員ほど、冒頭のAさんのような状況に陥りがちです。しかし、会社は、社長から新人までのメンバーがおのおのの役割を果たすことで成り立っています。自分でやるべき仕事と、他の人にやってもらう仕事を上手に区別しなければ、仕事は終わりません。

中堅社員になると、一定の仕事をやりくりして、部下にさばく役割を担うようになります。営業や経理など機能が明確に分かれていない中小企業では、こうした仕事の“交通整理”が非常に重要になります。この機能が滞るとAさんのような問題が生じるのです。

中堅社員の頑張りたい気持ちや、同僚を思いやる気持ちは大切ですが、であるならばなおさら、仕事を任せなければなりません。

部下に仕事を任せる際の心構え

1)「完了」する癖をつけさせる

部下に仕事を任せる際、いきなり「完璧」を求めず、まずは「完了」する癖をつけさせます。最初は中堅社員がその仕事を行う何倍も時間がかかりますが、それはいっときのことで、いずれ部下は仕事を習得します。そうなれば、自分(中堅社員)は次の仕事にチャレンジできるようになります。部下にとっても、学びが多いはずです。

2)赤・黄・青で把握する

中堅社員は、部下たちの仕事の状況を個別に把握しましょう。その際のイメージは次の通りです。

  • 赤=仕事量が許容範囲を超えている状態
  • 黄=仕事量が許容範囲の80%~100%の状態
  • 青=仕事量が許容範囲の80%未満の状態

部下が「忙しい、忙しい!」と言っていても、実際の状態はそれぞれです。対応できる仕事量や完了までの時間は、各人の能力とモチベーションに左右されるので、中堅社員は、部下がどれほどの仕事をこなすことができるのか、その“器の大きさ”を把握するようにします。

難しいのは、皆が器いっぱいまで仕事ができるわけではないことです。100%まで仕事を抱えても大丈夫な部下がいる一方で、70%を超えたあたり、つまり上の赤・黄・青でいえば黄に近い青の状態なのに、「もう仕事は引き受けられません」という部下もいます。こうした部下を見つけて、少しずつ、引き受けられる仕事量を増やしていくようにします。

3)「人を育てる=自分を育てる」という意識を持つ

部下に仕事を教えることは簡単ではありません。自分は当たり前に分かっていることでも、部下のレベルに合わせ、かみ砕いて説明することは大変で、「なんで分かってくれないんだ」という、若干のいら立ちや焦りを乗り越える忍耐力が求められます。

一方、今の仕事を改善するヒントを得ることもできます。人に説明するときは、仕事を分解して、それぞれの関連性を明らかにします。そうした過程において、仕事の肝はどこなのか、どこでミスが生じやすいのかなどが分かってくるでしょう。

どうしても他の人に任せられないときは

ここまで、中堅社員が今よりも成長するために、部下に自分の仕事を教えていくポイントを紹介してきました。しかし、実際のビジネスでは、どうしても他の人に仕事を頼めない場合があります。

例えば、次のようなケースです。

  • 全ての部下が「赤=仕事量が許容範囲を超えている状態」である
  • とても専門的な仕事なので、自分(中堅社員)しか担当できない
  • スピードが求められており、教えながらでは間に合わない

このような状態に遭遇したら、中堅社員は迷わず上司に相談しましょう。そうした状態に陥るということは、そもそもの人材が不足している恐れがあるため、別のレベルでの対応が必要になります。

中堅社員は、孤軍奮闘しなければならないこともあります。しかし、それは部下の仕事まで引き受けて頑張るということではなく、自分がやるべき仕事についての話であることを忘れてはなりません。

Point

  • 仕事を抱え込み過ぎてはいけない。うまく部下に振っていく能力が中堅社員には求められる。
  • 信号機のイメージで把握しよう!

以上(2019年8月)

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画像:Eriko Nonaka

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