1 すぐ辞めてしまう若者。どのように接すればいいの?

すぐ答えを欲しがる、何がモチベーションか分からない、怒るとパワハラと言われる、急に辞めてしまう……。新入社員や若者とどのように接すればいいのか、悩んでいる人も多い時期ではないでしょうか。本稿では、拙著『なぜ最近の若者は突然辞めるのか』から一部抜粋し再構成の上、悩めるオトナを日々のストレスから解放するためのヒントを探ります。

2 なんでもテンプレ問題

今回は、「仕事なんでもテンプレ化問題」を取り上げます。

最近の若い子って、とにかく答えを知りたがる。この言葉が、マネジメント層からよく聞こえてきます。まずは自分で考えてみてほしいのに、真っ先にテンプレートやマニュアルを欲しがる。確かにそんな若者が増えているように感じます。

オトナ世代と若者の残念なすれ違い事例を紹介しましょう。

ある中堅食品会社の商品開発部。この会社の商品開発部は花形部署であり、幾つかのチームがそれぞれ新商品の開発を巡りしのぎを削っています。「女性に喜ばれる商品開発」を担うチームでリーダーを務めている木村係長(女性・40歳)の下に、新人の藤原さん(女性・22歳)が新しく配属されてきました。

木村係長が、ある案件の市場調査を藤原さんに頼んだときのこと。

  • 「市場調査って初めてなんですけど、どういうデータを調べたらいいんですか?」
  • 「うーん、藤原さんが必要だと思うデータでいいよ。まずは自分で考えてみてよ」
  • 「え、ああ、はい……。そしたら、過去に作った調査書類のテンプレみたいなの、どこかにないですか?」
  • 「あると思うけど、別に形が重要なわけじゃないから、まずは簡単にでも自分で作ってみてほしいの」

こんな会話が繰り広げられていました。

3 まず自分で考える習慣をつけてほしいのに……

木村係長の言い分はこうです。

  • 「私が若い頃なんて、今ほど丁寧に仕事を教えてくれることはなかった。先輩のやり方を見て盗んでいくのが当然だし、振られた仕事を自分なりになんとかやり遂げて、それで認めてもらいたいって気持ちのほうが強かったけど。若い子は言われた通りの作業はやりがいがないとか言うくせに、考えてと言ったらテンプレがほしいと言う。
  • 育てていくことも私の仕事だから、なるべく考えさせようとしているのが、なぜ伝わらないんだろう」

しかし藤原さんにも言い分があります。

  • 「答えがあるなら、まずそれを参考にするほうが無駄がなくていいと思うんだけど。考えてって言われて考えて出したこともあるけど、結局いろいろ直されて木村係長の答えになったじゃない。その間の私の時間と手間ってなんなの? 考えることが大事なのは分かる。だけど、それとテンプレを使わないことは違う話じゃない? 考えなくていいところは省いて、考えるべきところに時間を割くべきだと思う」

自分で考えた結果、結局いつもと同じ答えになるくらいなら、考えるだけ無駄。そうではなくて、自分の考えた結果が成果物にちゃんとつながることだけに集中したい。これが今どきの若者の仕事観なのです。

4 GAFA世代の思考回路

まさに超合理的。そんな若者のバックボーンにはテクノロジーがあります。今の若者は、スマホを持ち歩き24時間常時接続、フェイスブックで友達とつながり、分からないことがあればすぐにググる。参考資料が必要になれば、アマゾンでポチる。いわゆるGAFA(ガーファ)の申し子です。GAFAとは、グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップルの4つの主要IT企業の頭文字を取って総称する呼称。これらのデジタルテクノロジーと若者がタッグを組んでしまえば、オトナが培ってきた経験や知識を、軽々と飛び越えていくということです。

テンプレ問題の根っこは、ここにあります。どれだけ時間と経験を重ねて渾身(こんしん)の力で企画書を作り上げたとしても、そのノウハウはテクノロジーで簡単にシェアできてしまいます。先人がたどり着いた答えをシェアすることは当たり前。これが若者です。

逆に、積み上げた知識が100あっても、テクノロジーを使いこなす力が10しかなかったら、若者から見ると「仕事ができない人」と同義だったりするわけです。自前で考えて知見として蓄積していくことに意味を見いだしません。

5 とにかく時間の無駄が許せない

20代の若手社員に何が一番のパワハラかを尋ねたら、意外な答えに最も多くの賛同が集まりました。「何十分も説教されるのが一番嫌かも。時間を奪われるのが最悪」

てっきり、暴言を浴びせられたり怒鳴られたりする説教がパワハラかと思っていたのですが、それよりも“時間を奪われる”ことをハラスメントだと感じると言うのです。無茶な仕事を振られるのも、理不尽な指示を受けるのも、結局は時間が無駄になるのが一番のダメージだと、彼らは考えているのです。

ある新聞記事によると、GAFA断ち(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップルのサービスを使わないこと)をして仕事をするという実験を3週間行ったら、仕事の生産性が3分の1になってしまったとのこと。テクノロジーの発達と一般化が、合理的で生産性への意識を高めているのは間違いありません。そんな状況下で、若者は時間に対してとてつもなく大きな価値を見いだすようになってきたのです。とにかく何事も最短距離でゴールしたい。そのために、どうやって時間を生み出すか、その時間で何を生産するか。「コストパフォーマンス」ならぬ「タイムパフォーマンス」を常に追求しているのです。だからビジネスでもメールよりLINEなどのチャットツールを好みます。メールでの定型的な「お世話になっております」は無駄中の無駄。「了解しました」を「りょ」だけで済ませる時短派もいるくらいです。

6 働き方改革ともシンクロ

そんな若者の仕事価値観は、昨今の働き方改革ともフィットしています。その文脈でいけば、むしろ早く帰ることを強要されて戸惑っているオトナ世代よりもはるかに進歩的です。私が聞いた若者の時間に対するコメントを幾つか紹介しましょう。

  • 「親の世代は長時間働くことを正当化している」
  • 「仕事の時間と自分の時間を分けたいから、そこに踏み入ってこられるとパワハラだと思う」
  • 「同じ量の仕事を、昔より短い時間でやらないといけないから、そこは困る。昔の人はいくらでも時間をかけられたが今は違う」

定時に帰りたがるなどといわれることもありますが、若者たちも働きたくないわけではありません。それよりも若者たちには、オトナ世代には仕事に費やせる時間がたっぷりあったけど、自分たちは違うという感覚があるようです。テクノロジーがもたらした生産性至上主義の側面もありますが、オトナが想像している以上に忙しい毎日を送っているという事情もあります。何百人とか1000人超というフォロワーとつながり、幾つものコミュニティーに所属して、マルチに活動している若者は、ワーク以外のライフの時間に大きな価値を置いているのです。

7 「8割テンプレ・2割余白」で考えさせる

とはいえ、若者に仕事を任せることが成長につながるというマネジメント側の思考も間違いではありません。そもそも若者は、「すぐに答えを欲しがる」くせに「単純作業はやりたくない」と考えています。任されたいのか指示してほしいのか、どっちなんだ? と言いたくもなりますが、基本的に、仕事は任されるほうがやりがいがあると考えています。あくまで無駄を省きたいわけで、成長欲求は強めですから。

では、いったいどうすればいいのか。

結論から言うと、「8割テンプレ・2割余白」で仕事を任せるくらいがベストです。まず型を教えてあげることはマスト。書類のテンプレやひな型のようなものを渡してあげましょう。そして、それを完全流用すれば間違いはないし、ちょっと自分なりに工夫しても大外れにはならないよ、と示してあげます。そこが2割の余白です。無駄なやり直しが大嫌いな若者に、答えを示しつつ工夫する余地も与えるという作戦です。

SNS村社会での若者には「守破離」の感覚が備わっているといわれます。例えばあるコミュニティーに属すとき、最初は「型」にはまろうとするそうです。例えば、自撮りが流行だとすれば、自分も自撮りでアップします。これが守破離の「守」。そしていったん型にはまってから、ちょっとだけ独自の使い方を開発します。これが守破離の「破」。それが広まってブームになると、自分がコミュニティーを立ち上げる。これが守破離の「離」。

要するに、彼らが欲しがっている答えというのは、ベースの「型」なのです。言う通りにしろと命令されたいわけではありません。難しく考える前に「8割テンプレ」は提供してしまいましょう。2割の余白が、若者にとっては貴重なアイデンティティーの発露。どう使って型を破るかは若者次第です。さらにそこからイノベーションが生まれたら、それはまさに離の境地。オトナにとってももうけものです。

いかがですか。若者の背景にある価値観や行動原理を知ると、少しは彼らに近づける気がしませんか。それが若者攻略の第一歩です。そしてうまくチカラを引き出すマネジメントにつなげてください。

以上(2019年9月)
(執筆 平賀充記)

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画像:NDABCREATIVITY-Adobe Stock

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