書いてあること

  • 主な読者:初めて会議で進行役を任されたビジネスパーソン
  • 課題:経験がないので会議をどのように進めたらよいのか分からない
  • 解決策:会議のファシリテーターとして、プロセス・デザイン、プロセス・マネジメント、コンフリクト・マネジメントという3つの手順を押さえる

1 会議の成否はファシリテーターの力量次第

皆さん、社内外や対面・非対面を問わず、会議で次のような経験をしたことはありませんか?

  • 時間を割いて集まっているのに、一部のメンバーからしか意見が出ない
  • 議論がかみ合わず一向に先に進まない
  • 意見が対立したまま時間ばかりが経過し、結論に至らない

会議が、このような「うんざり」なものになってしまうかどうか、鍵を握るのがファシリテーターです。ファシリテーターとは、会議のメンバーや議長をサポートし、

全員が意見を出しやすいよう、環境を整え、論点を整理し、全員が納得するかたちで結論に導く役割を担う人

です。

一朝一夕に「できる」ファシリテーターになれるわけではありませんが、この記事では、成果を生み出す会議にするために、ファシリテーターとして押さえておくべき3つの手順について解説します。

  1. プロセス・デザイン(会議の場のデザイン)
  2. プロセス・マネジメント(会議のかじ取り)
  3. コンフリクト・マネジメント(衝突の解消)

2 プロセス・デザイン

プロセス・デザインとは、

会議に先立ち、会議の効率を上げるために行う準備

です。必要なのは、主に次の4つのポイントを明らかにしておくことです。

  1. 会議の目的
  2. 具体的なアウトプット
  3. 会議のルール
  4. メンバーの役割

1)会議の目的

「何のために会議を行うか」を明確にします。会議の目的が曖昧だと、議論は的外れでまとまりのないものとなります。事前に目的を確認し、会議の方向性を決めましょう。会議の目的をその都度確認することで、月例会議(月ごとに行われる部内会議)のような定型業務でも形骸化しにくくなります。

2)具体的なアウトプット

「会議によってどのようなアウトプットを目指すか」を明確にします。例えば、営業部が行う会議で方向性が「営業部の売り上げを伸ばす」ならば、アウトプットはこれを具体的にした「3カ月以内に、営業部の売り上げを前年度比105%とする」とします。

アウトプットの具体的なイメージを共有することにより、メンバーは、より具体的なアイデアを出しやすくなります。

3)会議のルール

「どのようなルールに基づいて会議を行うか」を明確にします。ファシリテーションではメンバーの自主性を尊重しますが、ともすればメンバーが自由に発言をし過ぎて会議が混乱することもあります。そこで、「発言は最後まで聞く」「部署や肩書の違いにとらわれない」「会議時間は60分までとする」などのおおまかなルールを決定しておきます。

このルールは、メンバーがいつでも確認できるようにしておくとより効果的です。

4)メンバーの役割

「メンバーがどのような役割を担うか」を明確にします。例えば、

  • 活発に発言をするメンバーは、会議前半でアイデア出しをする際のムードメーカー
  • 発言回数は多くないが、話をよく聞いているメンバーは書記

など、メンバーの特性を活かした役割をある程度決定しておくことで、会議を円滑に進めることができます。

3 プロセス・マネジメント(発散のプロセス)

プロセス・マネジメントとは会議のかじ取りのことで、「発散のプロセス」「収束のプロセス」の2つから成り立ちます。

  • 発散のプロセス:メンバーからアイデアを広く集めることが目的
  • 収束のプロセス:集めたアイデアをまとめて、最終的な意思決定を行うことが目的

ここでは、発散のプロセスについて紹介します。

1)傾聴・復唱

ファシリテーターはメンバーの発言をしっかりと聞き、発言の一部やキーワードを繰り返したり、メンバーの発言を自分の言葉でまとめて相手に伝えたりします。メンバーはファシリテーターが自分の発言を復唱することで、「自分の意見がちゃんと伝わっている」という安心感を持ちます。

ただし、ファシリテーターは中立性を保たなくてはならないため、「今までで一番素晴らしい発言ですね」といった、中立性を欠くような言い方は避けましょう。

メンバーからさまざまな発言が出てきたら、今度はそれらに対して質問を行い、発言の本質を探ります。このときの質問には、「オープン・クエスチョン」「クローズド・クエスチョン」の2つの種類があります。

1.「オープン・クエスチョン」

自由に答えられる質問です。「売り上げ減少の原因は何だと思いますか?」などの質問がオープン・クエスチョンに当たります。オープン・クエスチョンは答えを限定しないため、メンバーの自由な発想を膨らませる上で役立ちます。

2.「クローズド・クエスチョン」

「はい」「いいえ」のいずれかで答えられる質問です。「売り上げ減少の原因は、自社の営業力の低下だと思いますか?」などの質問がクローズド・クエスチョンに当たります。クローズド・クエスチョンは答えを限定するため、メンバーの発言を細かい点まで絞り込む上で役立ちます。

ファシリテーターは基本的には意見を言わない「黒子」ですが、時としてメンバーの発言を喚起して会議をより活性化させるために発言することもあります。例えば、発言が途絶えて会議全体が停滞した場合、メンバーの発言を促すために、ファシリテーターが自分の意見に基づいてメンバーに問いかけるケースが考えられます。その際、メンバーの発言を否定するのではなく、メンバーの発言を十分に受け入れた上で問いかけをします。

2)言葉以外のメッセージ

メンバーによる言葉以外のメッセージを読み取ることも重要です。例えば、感情的になったメンバーは、イライラとした表情となり、発言の際は声のトーンが高くなります。このような場合、ファシリテーターは、感情的になったメンバーと視線を合わせ、発言に対してはっきりとうなずき、そのメンバーのことを理解しようとしていることを伝えます。

言葉以外のメッセージは、言葉以上にメンバーの本音を伝えるものです。ファシリテーターは、言葉と言葉以外のメッセージの両方を十分に理解するように努めましょう。

4 プロセス・マネジメント(収束のプロセス)

発散された発言をまとめ、絞り込む上で重要なのは論理性です。論理とは、話が「どこから」「どこを通って」「どこに着くのか」を明確にすることです。メンバーの論理の偏りや飛躍を取り除くことで、全体の認識が統一されます。その際に重要なのは、相手を否定しないことです。相手の主張に対して、冷静に質問の形式で、相手に自分で答えを探させることが重要です。

1)ファシリテーション・グラフィック

メンバーから出た発言は、ファシリテーターがホワイトボードなどに逐次記録していきます。これをファシリテーション・グラフィックといいます。

ファシリテーション・グラフィックは、会議の流れを視覚化し、発言したメンバーの意図をグループ全体に分かりやすく認識してもらうための重要なツールです。ですが、メンバーの発言を一言一句漏らさず記録する必要はありません。発言を要約したり、キーワードを抽出して短くまとめたりすることで、会議の全体的な流れを書くことが重要です。

2)ロジックツリー

発言のポイントを漏れや重複がないように整理するために、問題の原因などをツリー状に並べて整理する方法です。ロジックツリーでは、下位の項目は上位の項目をさらに細かく分析したものとなっています。営業部門の売り上げ減少を例にしたロジックツリーは次の通りです。

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メンバーの発言から得られた情報をこのように並べると、現状の問題および目標がよく分かります。

この会議では、メンバーの発言を分析した結果、売り上げ減少の原因は、「『個々の営業社員が提供するサービスの質の低下』による『自社の営業力低下』」であることが分かりました。従って、目標は「営業社員の販売スキルアップ」とします。

ファシリテーターは、この目標に対して、再度発散のプロセスを用いてメンバーから解決策についての発言を募ります。ただし、最初の発散のプロセスとは異なり、今回はより直接的な目標が定まっているため、より具体的かつ内容が絞り込まれた発言が期待できます。

3)意思決定

ここまでで、「営業社員の販売スキルアップ」という目標が設定され、その解決策についての発言が集まりました。次は、「これらの発言を基に、どのような解決策を決定するか」という意思決定を行います。

意思決定には幾つかの方法がありますが、ここでは多重投票を活用します。多重投票が多数決と異なるのは、メンバー1人が1票ではなく、多数の票を持っている点です。多数集まった発言について、メンバー各自は良いと思う案全てに投票します。多重投票を何度か繰り返し、獲得票が少ない案を外していくと、最終的に1つの案が残ります。この案についてグループで議論し、最終的な意思決定を行います。

コンセンサスによる意思決定で重要なのは、次に挙げる点です。

  • 合理的かつ民主的に意思決定を行う
  • 少数派の意見を尊重する
  • 全員が納得できるアイデアを完成させるまで諦めない

5 コンフリクト・マネジメント

多くの会議では、コンフリクト(対立・衝突)が発生します。このコンフリクトを協調的に解消することをコンフリクト・マネジメントといいます。

1)互いの意見の確認

例えば、多重投票の結果、Aさんが発言した「営業社員は、毎週2時間は新商品の勉強会のために時間を割く」という解決策が最後まで残ったとします。しかし、Bさんからは、「現場にはそんな余裕はない。時間を割けるのは30分が限界」という発言があり、コンフリクトが発生しました。

コンフリクトが発生した場合、ファシリテーターは、まずメンバーに互いの意見を説明してもらい、双方で正確に理解しているかどうかを確認します。例えば、ここで「本当は同じ意見であるにもかかわらず、どちらかのメンバーが相手の意見を誤って解釈していた」ということが分かれば、コンフリクトはすぐに解消されます。

2)相互理解の橋渡し

一方で、互いの意見が異なることが分かった場合は、「どのようにして自分が異なる意見を持つに至ったか」について双方に説明してもらいます。さらに、「自分が相手の立場であったらどう考えるか」についても質問します。

このプロセスでは、コンフリクトにあるメンバー同士に、それぞれ相手の判断基準に基づいて考えてもらうことで、相手の判断基準を受け入れ、理解することができるようになります。ファシリテーターはこの相互理解の橋渡しを行うのです。

3)全体にとってプラスの状態をつくる

ファシリテーターによるコンフリクト・マネジメントにより、前述のAさんとBさんとで相互理解することができ、「各営業所で、異なる商品について週に30分の新商品知識勉強会を開催する。そして、その結果を部内で回覧し、メンバーは空いている時間に他の営業所の資料に目を通し、商品知識の獲得に努める」という解決策が新たに生まれました。このように、メンバー同士、そして全体にとってプラスの状態をつくり出すことこそが、ファシリテーションの最終的な目標です。ここで重要なのは、

コンフリクトは解消しなくてはならないが、意見の違いは解消しなくてもよい

ということです。

違いを違いとして受け入れ、そこからさらにプラスを取り出すことが、コンフリクトの協調的な解決方法です。

4)メンバーに会議についての気付きを促す

また、ファシリテーションでは会議の終了後にも重要なプロセスがあります。それは、メンバーに、会議についての気付きを促すことです。会議を通して、メンバーは今までにない本音の意見を発言し、協力して1つの解決策をまとめ上げました。その中でメンバーが、次の点をしっかりと認識することで、ファシリテーションの効果はさらに高まります。

  • 自分は何をしたか、何をしなかったか
  • 自分は何をどのように考えたか
  • 解決策に対して、自分は何をどのように実践するか

ファシリテーションを通じて各メンバーが、「自分はどのように自主性を発揮できたか、できなかったか。また、これからどのように発揮するか」ということに気付き、考えることが、さらにメンバーの自主性を育成することにつながります。ファシリテーターは、会議を振り返りながら、これらについてメンバーに問いかけます。

5)ファシリテーターのフィードバックを求める

そして、ファシリテーター自身にも、フィードバックが必要です。ファシリテーションについて、メンバーから意見をもらうことは、自身の成長にとって非常に重要です。

メンバーからの意見はファシリテーターのファシリテーションスキルを高め、そしてそのファシリテーションスキルが、さらに次のメンバーを育てることにもつながります。

以上(2023年11月更新)

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画像:photo-ac

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