超売り手市場から一転し買い手市場となったウィズコロナのいま、採用のポイントは「量」ではなく「質」にシフトしています。不況期に採用投資が有効なのは、「優秀なコア人材」を獲得しやすいからに他なりません。

自社が求める優秀な人材を獲獲するためには、採用広報や選考といった従来型の採用活動にとどまるのではなく、もっと上流から、もっと俯瞰的に、採用活動を捉える=戦略レベルでの採用設計が必要です。もっとも重要なのは、自社で採用したい優秀な人材の定義。そしてその要件と、いまの学生の気質や仕事観をすり合わせ、具体的な採用ターゲットに落とし込んでいくこと。
第2回の本稿では、優秀な人材を獲得するための採用戦略のポイントについて解説していきます。またカギを握る22年新卒の特徴についても掘り下げてみます。

1 タレントアクイジション

「タレントアクイジション」という言葉をご存じでしょうか。いきなりの横文字で恐縮ですが、数年前から注目されている概念です。タレントアクイジションとは、あらゆる手段を用いて「タレント(=優秀な人材)」を「アクイジション(=獲得)」するという意味。優秀な人材獲得に焦点を絞る活動のため、ターゲットとなる人材の設定から入社後の活躍のサポートまで広範囲な業務が含まれます。

  • 採用戦略(人事戦略策定/人材要件再定義/採用戦略)
  • 採用マーケティング(採用ブランディング/SNSなどによる企業広報)
  • アプローチ(採用手法の選定/採用クリエイティブ/採用パートナー活用)
  • 選考オファー(構造化面接の導入/惹きつけスキル/面接官トレーニング)
  • オンボーディング(内定者フォロー/入社後育成/定着支援)
  • 分析(採用プロセス分析/活躍人材分析)
  • 採用戦略にフィードバック

これがタレントアクイジションのおおまかなプロセスです。人材を採用して会社の欠員を埋めるプロセスともいえる従来の採用活動に比べ、会社の成長のために必要な人材を見つけ、採用し、支援する、より能動的で継続的な戦略であることが分かります。

2 欲しい人材を再定義

要因計画や採用予算をもとに「数」を集める採用ではなく、人事戦略を通じて、戦略的かつ計画的に「質」を確保する。こうした考え方が徐々に注目されるようになってきた背景には、経営において中長期的な成長を実現する上で「人材」の重要性がますます高まってきたことがあります。簡単にいうと、経営戦略における人事戦略の占めるウエイトが高まり、人事戦略の根幹に採用戦略が位置づけられるようになってきたのです。

とはいえ、言うは易く行うは難し。採用ブランディングや定着のサポート、日々のインナーブランディングなど、従来の採用活動よりも多岐にわたる視点、あるいは人事部門責任者(CHRO)や経営者としての視座が求められることになり、いきなりこのすべてを満たす採用活動を実践することは難しいはずです。

しかし、少なくともタレントアクイジションのエッセンスについては理解していただきたいのです。ウィズコロナの買い手市場で「量」を確保しやすい時期だからこそ、優秀な人材を採るという「質」への強い意識をもってほしいからです。自社で採用したいタレント人材にフォーカスしてみてください。

人材へフォーカスするとは、自社で採用したいタレントを定義するだけでは不十分です。相手を知る=22年新卒のインサイトを把握することも重要なマターといえます。こんな人材が欲しいと意気込んでも、若者ジェネレーションの価値観と大きくずれていれば、巡り合えるわけがありません。需要(欲しい人材)と供給(22年新卒の実像)をすり合わせ、より現実的な採用ターゲットをイメージする必要があります。

3 Z世代へのアプローチ

ゆとり、さとり、ミレニアル。どんどん更新されていく若者ジェネレーションですが、これからの採用ターゲットの中心になってくるのはZ世代です。10~20代なかばまでがここに属し、デジタルネイティブともいわれる世代です。

彼らの価値観の一端が垣間見られる調査結果を紹介しましょう。2020年新卒を対象にした就職活動に関する調査によると、学生の企業に対するインサイトは以下の3点に集約されています。

  • 「学生は就活での企業側の各活動の目的を重視している」からこそ
  • 「学生は志望している企業のWEBコンテンツをよくみて」研究し、そこに共感すれば、
  • 「学生は企業規模に関係なくコミュニケーション次第で会いたいと思ってくれる」

本連載の第1回で、21年新卒の傾向について、「学生の中小企業志向増」と「シュウカツの早期化、オンライン化」を挙げましたが、見事に符合しています。

Z世代は、固定観念がなく、ものごとにあまり執着しないといわれます。規模や知名度といった企業イメージに固執せずに本質を重視する世代なので、第一印象で興味をもてば積極的にもっと知ろう、別の一面を探ろうと行動します。

問題は情報の品質と伝達の手法。ターゲットを広く設定した画一的メッセージではなく、自社で働くことの魅力について、根拠をもってきちんと伝えないと、彼らの心は動きません。
採用活動においても、いまやマスマーケティングではなく1to1のマーケティングが重要度を増しているのです。また情報の取捨選択に優れるデジタルネイティブには、オンラインを駆使したコンテンツ訴求が必須です。

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4 リモートネイティブがやってくる

そして、忘れてはならないのが新型コロナウイルスのパンデミックによる影響。大きな社会の変化は働く人の仕事観を揺さぶります。例えば、リーマンショックが起きたことで企業への信頼感は大きく揺らぎ、仕事だけでなくプライベートを重視する人が当たり前の時代になってきました。東日本大震災では、絆という言葉が一気に流行し、人とのつながりや家族との時間を大切にするという志向の求職者が増えてきました。社会貢献に関心を寄せる人は2倍以上になり、NPOを就職先として選ぶ人も現れました。

今回の場合は、極めて物理的な側面があります。それがリモートコミュニケーションの普及です。特に22年新卒は、大学3年生になったとたんに「在宅」を余儀なくされた世代。オンライン授業が主となったキャンパスライフを送って社会に出てくる、その第一世代となります。そういった意味では、デジタルネイティブからもう一世代進んだリモートネイティブと定義づけられます。

ちなみに20年新卒をリモートネイティブと呼ぶこともあります。彼らは入社式や新人研修をすべてオンラインで経験し、いきなりリモートワークに飛び込んでいくことになりました。リモートで社会人生活を始めたという観点で見れば、リモートネイティブともいえますが、リアルコミュニケーションで育った世代がリモートの世界に“強制移住”させられたという理解のほうが正しく、厳密には「リモートイミグラント」と呼ぶべき世代です。

5 大学時代にリモート脳が発達

20年新卒は、配属された部署の上司や先輩と対面で仕事することがほとんどなく、同期とのつながりも少ないことで、職場になじめない、あるいは孤独感に苛まれるといった悩みを抱える人も少なくありません。

しかし22年新卒は、彼らとは違った価値観をもっています。大学3年生になってコロナ禍を経験し、一時期は授業のほとんどがオンラインになりました。秋にはリアルでの授業が再開されたことで、オンラインとのハイブリッド型になり、しかもオンライン授業は、ライブ授業と録画された講義を視聴する(eラーニングのような)オンデマンド授業の2種類があるという状況。この一年で複合的な授業パターンを経験したわけです。

「友達に会えなくなって最初はすごくさみしくて。大学で授業が始まって友だちと会えた時は、すごくうれしかったけど、何回か学校行ったら、やっぱオンラインでいいかなって」。彼らに話を聞くと、こういう声が圧倒的です。

ただ聴くだけの大教室での授業は、絶対オンラインのほうがいい。取りたい授業がかぶってもオンデマンドだったら履修できる。学校に行ったほうがいいのは、ゼミや少人数で議論する授業だけ。22年新卒の脳内には、リモートの利便性がしっかりと刻まれています。その上で、リモートがいいか対面がいいか、目的やシーンによって使いわける日々を、すでに過ごしているのです。

授業だけではありません。生活全般においてリモートが当たり前になり、モニター越しのコミュニケーションもポジティブに楽しめます。オンライン飲みでもパリピ級に盛り上がれる工夫をし、友達同士で同時に同じミュージシャンの曲を聴いてリモートライブを共有体験とします。

6 出社する意味ありますか?

今年の新卒採用では、そういうリモートネイティブと対峙することになるのです。本稿の主旨として、彼らが入社したのちのマネジメントに関しては触れませんが、オフィスに出社してもらうのに、きちんと明確で合理的な「目的」「意味」を説明しないといけない日がやってくるのも、そう遠くないかもしれません。

ここでは、採用活動を行う際に予見されるポイントを列挙してみます。

リモートコミュニケーションのスキルを自然に身につけているだけでなく、リモートファーストな価値観をもつ。対面する、集合するという経験頻度が減少し、なにかに所属するという意識が相対的に薄まっている。

こうした傾向をもつ彼らは、

  • 企業への志向として
    →入社後の働き方としてリモートワークができるかどうか、副業ができるかどうかに関しては、確実に気になっている
  • 採用手法として
    →対面よりオンラインのほうが自然体。面接でも緊張することなく素を出しやすい
  • 選考する基準として
    →ヒューマンスキルに関しては、全体的に低くなってきている

ことが考えられます。

このあたりについて留意しながら、採用活動にあたっていただくのがよいのではと思う次第です。次回は、そのリモートネイティブ第一世代の22年新卒に対するWEB面接のノウハウについて解説させていただきます。

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2021年3月11日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

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