書いてあること
- 主な読者:会社経営者・役員、管理職、一般社員の皆さん
- 課題:経営幹部や管理職の方はもちろん、若手社員の方でも「経営的視点で見るように」と社長や上司から求められた経験があるのではないでしょうか。その場でうなずきはするものの、「経営的視点とは何か?」「それは社長以外の社員に必要なのか?」「会社員として働く上で、人生において価値があるのか?」「そもそもどのように身に付けていけばいいのか?」といった疑問があるのではないでしょうか
- 解決策:課題で挙げたさまざまな質問に対して、『“経営的視点”の身に付け方』というテーマで、全国で多くの講演を行っている筆者が明快に回答します。“経営的視点”はこれからの時代において新入社員から求められる視点であって、より早く身に付けることができれば、その分、仕事においても人生においてもプラスであることが分かるはずです
1 社長だけの“経営者の視点”と、全社員が持てる“経営的視点”を分けた上で
シリーズ『武田斉紀の「誰もが身に付けておきたい“経営的視点”」』の第5回です。
このシリーズでは、社長や上司から「“経営的視点”を持て!」と言われるけれど…「経営的視点って何?」「社長以外の社員にも必要なの?」「会社で働く上で、人生において価値があるの?」「そもそもどうやって身に付ければいいの?」。こうした疑問にお答えしています。
さらには、『“経営的視点”の身に付け方』の具体的なノウハウと、経営における効用、働く側のメリットなどを、事例も交えながらご紹介していきます。
“経営的視点”はこれからの経営や働き方において、新入社員から求められる視点であり、誰にとってもより早く身に付けられれば、その分、仕事においても人生においてもプラスになるといえるでしょう。
前回まで3回にわたって、“経営者の視点”とは何かについて詳しくお話ししてきました。“経営者の視点”はトップである社長だけが持てるものであり、“経営的視点”とは異なるとご理解いただきたかったからです。
社長や上司が「“経営的視点”を持て!」と言いながら、もしも“経営的視点”ではなく、“経営者の視点”を求めているとしたら、それは無理な話です。でも、“経営的視点”なら全社員が持てます。
さて、今回からは“経営者の視点”ではなく、本題の“経営的視点”の身に付け方のノウハウについて解説していきたいと思います。
私からご提案する誰もが持てる、全社員が持てる“経営的視点”の観点は次の3つです。
1)会社の【成長】
2)会社の【組織力】
3)会社の【存在意義】
1)と2)については少し視点を意識して見直すだけで、比較的簡単に“経営的視点”を身に付けられます。3)は、理解し、身に付けるのに少し時間がかかりますが、身に付けた際は会社にとって、社員一人ひとりにとって得られる効果は絶大です。
2 会社組織は全員が毎年1歳、歳を取る
まずは「1)会社の【成長】」の観点からお話ししていきましょう。前提となるのは「会社組織は全員が毎年1歳、歳を取る」という事実です。
現状、日本の多くの企業が採用しているのが、「年功序列型賃金制度」と「終身雇用制度」です。
入社時点では一人ひとりが担当する職種や専門分野が決まっておらず、異動によりさまざまな部署での経験を積みながら成長していくので、「メンバーシップ型(職能型)」人事制度とも呼ばれています。
「年功序列」とは言葉の通り、勤続年数や年齢が増すにつれて給料が上がっていくことを意味します。けれど給料はどこから出てくるのでしょう。説明するまでもなく、会社として経済活動を行って残した利益が原資ですね。
しかしながら、もしも社員一人ひとりの能力(稼ぐ力)が今年度と来年度で全く変わらなかったとすれば、会社全体の利益は変わりません。となると、社員が「年功序列で1年たったのだから、その分の給料を上げてくれ」といくら要求しても、会社としては支払えないのです。
ない袖は振れません。
大抵の会社組織はピラミッド型にできています。山の頂上に社長がいて、山頂付近に取締役や部長がいて、中腹に課長がいて、裾野にそれ以外の一般社員がいて、お客様や現場の第一線と対峙しています。
先ほど触れたように「会社組織は全員が毎年1歳、歳を取る」ので、放っておくとどんどん高齢化していきます。そこで人事的には一定年齢に達した社員には定年制度で会社組織の山から去ってもらい、その分を裾野に若い新入社員を採用して補い、組織の平均年齢が上がらないようにしています。
社員一人ひとりの能力(稼ぐ力)が、今年度と来年度で全く変わらなかったとすればどうなるでしょうか。平均年齢は変わらず会社組織全体では問題ないように見えますが、平均能力では前年度より1年分落ちているのです。
しかも、一人ひとりがピラミッドの1年上の立場に上がったのに、役割に応じた能力が発揮できず機能不全に陥ってしまうでしょう。
すなわち、会社組織においては、全員が1年で1年分以上成長しないと給料は上げられない。自分自身はもとより、社会人1年目の新人も含めて、自分の部下も全員責任を持って1年分育てて初めて給料を上げられるのです。
ここまで理解できたら、あなたは次の意味がわかるでしょう。
■毎年給料を上げたいのであれば、全員が、自分が1年後にいるべきピラミッドの高い位置から常に物事を見て、仕事を進めていかなければならない。
3 話題の「ジョブ型」人事制度ではどうなるか
コロナ禍がきっかけで、リモートワークが一気に日本企業に浸透して、働き方に変化が生まれ、同時に会社や上司には新たなマネジメント上の課題が発生しました。日々近くにいて仕事の進捗確認や指導、時間管理が難しくなったのです。
片や少子高齢化で縮小市場となった国内から海外へのグローバル化の流れも相まって、欧米型といわれる「ジョブ型(職種型)」人事制度が注目されています。
大手企業の一部ではコロナ前からすでに一部導入、あるいは完全導入が始まっていて、他の大手や中堅中小企業でも「メンバーシップ型」から「ジョブ型」への転換を検討するところが増えているようです。
日本政府も「年功序列を見直し」て、「ジョブ型」への移行を経済界に推奨し始めています。法律が後手では現場は混乱するだけですから、本気で取り組む覚悟なら掛け声より法整備を先行しなければなりません。
とはいえ、日本企業のすべてが「ジョブ型」に一気に変わって、はたしてうまく機能するのか、生産性が上がって成長軌道に乗れるのか。その点は十分に検討されているのでしょうか。
「ジョブ型」は魔法の杖ではありません。比較調査データで提示される生産性の低さや教育投資の低さは、全て年功序列や「メンバーシップ型」が原因なのでしょうか。私にはどちらを選ぶかは各社の考え方次第でよく、問題はその運用方法にあるように思えます。
さて、「ジョブ型」は仕事ありき。あらかじめ仕事の要件を明確にしておいて、それをできる人を専門家として採用します。仕事と目標を定めてあるので、プロセスや時間を管理しなくとも、できたかできなかったかの結果で評価すればよい仕組み。リモートワークのマネジメントとも親和性があるとわかります。
その仕事ができるであろう人を採用するので、「メンバーシップ型」のような新卒一括採用主体ではなく、中途採用が中心となります。
前説が長くなりましたが、「ジョブ型」では、「1)会社の【成長】」の観点における前提=「会社組織は全員が毎年1歳、歳を取る」はどうなるでしょうか。
「ジョブ型」人事制度が浸透している世界では、働く側は年功序列のように「1年たったのだから、その分の給料を上げてくれ」とは言いません。もちろん世の中の物価が上がれば給料を上げてくれないと生活ができないとは言いますが、その点は「メンバーシップ型」も同じ。
「ジョブ型」で働く人たちは、「能力が以前より上がった(のでより高い成果を出せるはずだ)」から「成果を以前より出した」から、「その分の給料を上げてくれ」と言うのです。ピラミッドの上のポジションに就かない限り、給料は上がらないと知っているからです。
後は、会社側が賃上げ要求に応じるか、転職して他社により好条件で採用されでもしなければ、何年真面目に働いても仕事内容は変わらず、給料は1円も上がりません。
日本企業のOJT(On the Job Training)のように、上司や周りの誰かがいちいち面倒を見てくれるわけではありません。求める仕事ができないなら、他の人を募集して入れ替わってもらうだけです。
だから自身の給料を上げたい人は、会社や上司がいちいち先ほどのように説明しなくても自ら動きます。能力を上げるために学び直して(リスキリングやリカレント教育)、何とかチャンスをつかんで成果を上げ、それをアピールして昇給や上のポジションに就こうとするのです。
上司の仕事は、現場を回すのに必要な部分(そこもできれば非正規か外部委託化してコストを下げたい)以外は、現状維持ではなく、より高い成果を出そうと意欲のある人材に入れ替えることです。前年度以上の成果を上げるようにと「ジョブ」として求められているからです。
4 どうすれば、「会社の【成長】」の観点から“経営的視点”が持てるのか
2つの人事制度と比べて見てみると、会社としては「ジョブ型」のほうが楽なように思えませんか。自身の給料を上げたい意欲のある人さえ連れてくれば、会社や上司がいちいち説明しなくても、彼らは自ら成長し、前年度よりも高い成果を上げてくれそうです。
ところがそうした人材は世の中に豊富にいるわけではありません。
結局は優秀な人材ほど争奪戦となり、好条件を提示できる企業以外は、なかなか描いた理想通りにはいかないのが現実でしょう。
好条件を提示できない会社の上司は、意欲の高い人材を採用したつもりがそうでもなくて、結果を出せずに入れ替えてばかり。部署としての結果を出せていないと、揚げ句は自分自身が上から入れ替えられる。これでは会社の成長はイメージできません。
であるならば、社長や上司が「メンバーシップ型」の全員を説得していったほうが早いといった考え方もあるでしょう。
「給料は1年たったからといって当たり前には上がりません。一人ひとりが1年で1年分以上成長して、ようやく上げられるのです」「だからこそ全員が、自分が1年後にいるべきピラミッドの高い位置から常に物事を見て、仕事を進めていかなければならないのです」と。
第5回も最後までお読みいただきありがとうございました。次回は全社員が持てる“経営的視点”の観点の2つ目、「会社の【組織力】」についてお話しします。
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以上(2022年11月)
(著作 ブライトサイド株式会社 代表取締役社長 武田斉紀)
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画像:NicoElNino-shutterstock