書いてあること
- 主な読者:会社経営者・役員、管理職、一般社員の皆さん
- 課題:経営幹部や管理職の方はもちろん、若手社員の方でも「経営的視点で見るように」と社長や上司から求められた経験があるのではないでしょうか。その場でうなずきはするものの、「経営的視点とは何か?」「それは社長以外の社員に必要なのか?」「会社員として働く上で、人生において価値があるのか?」「そもそもどのように身に付けていけばいいのか?」といった疑問があるのではないでしょうか
- 解決策:課題で挙げたさまざまな質問に対して、『“経営的視点”の身に付け方』というテーマで、全国で多くの講演を行っている筆者が明快に回答します。“経営的視点”はこれからの時代において新入社員から求められる視点であって、より早く身に付けられれば、その分、仕事においても人生においてもプラスであると分かるはずです
1 一人ひとりが会社の【組織力】
シリーズ『武田斉紀の「誰もが身に付けておきたい“経営的視点”」』の第7回です。
“経営的視点”は、これからの経営においてはもちろん、一般社員にも求められる視点であり、より早く身に付けられればその分、仕事においても人生においてもプラスになります。その身に付け方のノウハウと、経営における効用、働く側のメリットなどを事例も交えながらご紹介していきます。
私からご提案する誰もが持てる、全社員が持てる“経営的視点”の観点は次の3つです。
1)会社の【成長】
2)会社の【組織力】
3)会社の【存在意義】
前回は2)会社の【組織力】について、途中までお話ししました。
■多くの会社組織はピラミッド型になっているがそれには意味があり、1人の人間の力には限界があるが、役割を分けて組織を形成し一体となれれば、人数以上の力を発揮できる
チームスポーツを例に、「組織は一人ひとりが有機的につながってこそ強くなる」訳を説明しました。大事なのは、1人の秀でた人がいるよりも、組織の一人ひとりが自分の役割分担をしっかりとこなせて、前の人と後ろの人とが連携できることです。
今回は引き続き “経営的視点”の身に付け方の「2)会社の【組織力】」について、会社が組織として強くなるための連携の仕方についてお話しします。
2 おのおのの組織の役割を、「目的」に照らして「流れ」で捉える
会社が組織として強くなるための連携のコツを2つ紹介します。1つ目は事業の「目的」を常に意識する、です。
いずれ、“経営的視点”の観点の3)会社の【存在意義】で詳しくお話ししますが、会社組織には会社全体として、あるいは事業ごとに目指す「目的」があるはずです。最近は英語で「パーパス」と呼ばれることも増えました。「存在意義」と意訳されてもいます。
会社組織が目指す「目的・使命」について分かりやすい例を挙げれば、東京ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランドは「あなたと社会に、もっとハピネスを。」、ネット通販のアマゾンは「地球上で最もお客様を大切にする企業になること」、ユニクロのファーストリテイリングは「服を変え、常識を変え、世界を変えていく」など。
常にこれらの「目的」を意識して、達成や解決しようとしている課題に対して、自部署や自身が取り組んでいる活動が、それに沿っているかどうかをチェックするのです。取り組んでいる活動は、あなた(お客様=ゲスト、従業員=キャスト)や社会にとってハピネスにつながるのか。今よりもっとハピネスになるようにできないか、と。
その上で2つ目のコツ、組織の役割を「流れ」で捉える、を意識します。
「組織や制度は作った瞬間から古くなる」とはよくいわれることですが、たとえある時点で正しく最適な組織を作れたとしても、市場や顧客のニーズは変化し続けていきます。それぞれの組織が当時の役割意識のままでは、変化に対応できずに顧客満足度は上がらず、競合とも戦えないのです。
お客様が、例えば「今の世の中を思えば、DX化すればもっとスムーズで楽しくサービスを受けられて、ハピネスが得られるはずなのに」と不満に思う前に、ニーズを先取りしなければいけません。
そのためにはおのおのの組織と所属する一人ひとりが、課題に対して「これはうちの仕事かどうか」と切り分けるのではなく、目指す「目的」に照らして、もっとハピネスを実現するための「流れ」をイメージしてみます。
「この課題解決は、もっとハピネスを実現するためには必要な仕事だ。従来のうちの仕事の範囲ではないけれど、実現方法を流れで捉えてみた場合、他に該当しそうな部署もない。うちが主体となって〇〇部署と協力すればできるんじゃないか。会社に提案してみよう。将来的には〇〇部署も関わったほうがよさそうだから声をかけておこう」と。
「流れ」で捉えた場合、自部署は、自分は、当初の役割のままでいいのだろうかと自問自答してみる。「現在あるべき姿」や「将来あるべき姿」をイメージして見直していくこと。それが「作った瞬間から古くなる」組織が本来目指すべき姿なのです。
3 「ジョブ型」雇用と「メンバーシップ型」雇用の限界
この事は新しいサービスの導入に限りません。既存のサービスでも、もっとハピネスを届けられる方法があるかもしれません。いえ、きっとあるはずなのです。
先ほどと同じように、おのおのの組織と所属する一人ひとりが、課題に対して「これはうちの仕事かどうか」と発想せず、目指す「目的」に照らして、仕事の「流れ」を見直してみたらどうだろうと常に目を凝らします。
部署内での改善活動については、トヨタ自動車のカイゼン活動に代表されるように、得意だという日本企業も少なくないでしょう。でも会社全体ではどうでしょうか。
「それは全体が見られる経営陣の仕事だ」。確かにそうです。が、顧客や社会のニーズをキャッチするのは直に接する現場のほうが早いのではないでしょうか。一人ひとりと各部署のアンテナ次第ですが。全社で取り組めば改善できるかもしれないという提案は、現場 の声を聞けばたくさん見つかるはずなのです。
アンテナでキャッチしていても、いざ会社へ提案するとなると日常業務もある中で、現場は腰が重くなるものです。「課題に気付いたけれど、知らなかったことにしよう」と。
「2)会社の【組織力】」アップの邪魔をするのが、「個人の役割の壁」と「組織の役割の壁」です。前者はあらかじめ仕事の要件を明確にしておいて、それができる人を専門家として採用する「ジョブ型」雇用で、後者は機能別に分けた部署内でムラ社会が生まれがちな「メンバーシップ型」雇用で起こりがちです。
「ジョブ型」雇用は、グローバルスタンダードとして日本にも導入されようとしていますが、「個人の役割」の壁が邪魔をして、壁を越えた仕事や発想をしないことが欧米ではすでに問題になっています。「個人の役割」を固定化しすぎず、部署を超えたプロジェクトや、全社の目指す「目的=パーパス」実現への貢献を評価しようとする取り組みが始まっています。
日本ならではの「メンバーシップ型」雇用においても、部署ごとに結果が出ていれば良しとする縦割りの“部分最適”ではなく、全社としての「目的」実現に向かえているのか否かを重視する、“全体最適”の視点が注目されるようになっています。
4 トップが旗を振り、人事で評価する
口で言うのは簡単ですが、「個人の役割」と「組織の役割」の壁を壊すことは、会社組織にとって容易ではありません。個人の役割を分けて組織を作ることのメリットの裏返しのデメリットといえるでしょう。
組織の一員としては、まず与えられた役割をこなすことが求められます。「2)会社の【組織力】」アップのためのブレイクスルーは、通常業務の上で余裕があればと考えるもの。便利になると分かっていても、これまで親しんできたやり方を見直すことは正直面倒ですし、ストレスや負担も小さくありません。促進する方法はないものでしょうか。
日々の仕事に取り組みながら、「組織としてこうすればもっと良くなるのに」と思ってきたこと、ずっとおかしいと思ってきたことを提案させる。積年といわず、取り組み始めたそばから感じた身近な改善も挙げてもらえる仕組みを作る。
そうした仕組み作りや提案する文化を育てることも重要なのですが、それだけでは起爆剤にはなりません。
「個人の役割」と「組織の役割」の壁を壊し、「2)会社の【組織力】」をアップするのに最も効果的な施策は、「トップが旗を振り、人事で評価する」ことです。
簡単に言えば、「2)会社の【組織力】」アップへの取り組みを“褒める”ことなのですが、それをトップである社長が自ら旗を振って本気を見せ、人事で評価することで実益を示すのです。その上で、先ほど挙げた仕組み作りや文化の育成も進めていけばよいでしょう。
ただでさえ部署間の壁は想像以上に高く、勝手に他部署に口を出すと、刑事ドラマで管轄外を指摘し合うかの如く「うちの庭で勝手に何をやってんだ」と関係がこじれがちです。自部署の仕事が脅かされるのではないか、勝手に面倒なことに巻き込まれるのではないかという猜疑心が過るのです。
そこは社長もしくは、より上位の立場のリーダーが出しゃばって裁定するしかありません。「それぞれの言い分は分かるが、全社にとって(お客様にとって・社会にとって・株主にとって)良いことなのだから進めよう。評価もちゃんとするから」と。
「メンバーシップ型」雇用であれば、比較的容易な人材の異動を定期的に進めたり、部署間の人材交流を意図的に行ったりすることも、全体最適の取り組みには有効でしょう。
5 今の大企業も最初は中小企業だった
「大手企業とは資金力も人材も違う。どう頑張ったところで勝てっこない」。中小企業からよく聞かれる不満やため息の一つです。
確かに中小企業の現実は厳しいのですが、「今の大企業も最初は中小企業だった」のも事実です。彼らが、当時の大手企業と戦ってきた武器の一つが、「2)会社の【組織力】」ではなかったでしょうか。
前回例に挙げた組織的なチームスポーツを思い出してください。チームにものすごくうまい選手がいなかったとしても、一人ひとりが自分の役割分担をしっかりとこなして組織として連携できれば勝てることがある。
今の大企業の多くも、そうして一歩一歩トーナメントの階段を上って力をつけてきたのではないでしょうか。
「2)会社の【組織力】」を高めるための取り組みによって、“経営的視点”が磨かれると同時に、企業としても個人としても成長できる。また、個人の待遇も改善されていくことになるのです。
第7回も最後までお読みいただきありがとうございました。次回からは、「3)会社の【存在意義】」についてお話しします。
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以上(2023年1月)
(著作 ブライトサイド株式会社 代表取締役社長 武田斉紀)
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